運命の出会いと3D―。映画『天才スピヴェット』ジャン=ピエール・ジュネ監督&カイル君インタビュー

(左から)ジャン=ピエール・ジュネ監督とカイル君。プレゼントされた折り紙と。

(左から)ジャン=ピエール・ジュネ監督とカイル君。プレゼントされた折り紙と。

ジャン=ピエール・ジュネ監督。13年前に驚異的な大ヒットを記録した『アメリ』の監督として映画史にその名を残す彼が、今度は3Dでその独特の世界感を表現してみせた。選んだ題材はアメリカ、イギリス、カナダでベストセラーとなっているライフ・ラーセンの「T・S・スピヴェット君 傑作集」。主人公は10歳の“天才科学者”スピヴェット。自分は家族に認められていない…と思っていた少年が、ある日、名誉ある科学賞を受賞。その受賞式に出席するために、家族に内緒でモンタナの牧場からワシントンDCまで旅をする冒険物語だ。

物語はもちろん、3D映像がとても素晴らしく、まるでスピヴェット少年の頭の中を覗いているような楽しさ! ジュネ監督がこの作品を3Dで描きたかった理由とは──。

これはすべて3Dありきで描いている、とてもアーティスティックな3D映画なんだ。(ジャン=ピエール・ジュネ)

「原作の余白に描かれていたイラストを見た瞬間、それを空間に浮いているような感じで3Dで見せたら面白いんじゃないか、と思ったんだ。3D映画はハリウッドでたくさん作られてきているけれど、その多くは2Dで撮って3Dに変換している。僕が嫌いな3D映画だ。でも、この映画はそうじゃない! 企画も脚本も絵コンテも撮影もすべて3Dありきで作っているからね。とてもアーティスティックな映画なんだ」。そのこだわりは徹底していて、ジュネ監督が参考にしたという3D映画『ヒューゴの不思議な発明』のステレオグラファー(3D映像専門のエンジニア)に参加してもらっている。

また、映画化にあたっては“天才”スピヴェット役にぴったりな子役と巡り逢えるかどうかにもかかっていた。ジュネ監督の目に止まったのは、今年12歳になるカイル・キャトレット。ロシア語、北京語など6つの言語を操るだけでなく、3年連続で総合格闘技の世界チャンピオンでもあり、演技もできる。「生まれつき完璧なコメディの素質を持ち、シリアスで感情的な演技も素晴らしい」とジュネ監督が大絶賛する天才俳優だ。これ以上の敵役はないだろう。

ジュネ監督と出会ったときのカイル君は9歳。そのときすでにジュネ監督の『アメリ』『ロスト・チルドレン』『エイリアン4』を観ていた彼は、オーディションで監督を驚かせた。「泣いてほしいときに泣けるかどうかも役者を選ぶ重要な基準なんだ。今回は2,000人ぐらいオーディションをしたけれど、それができたのはカイルだけだった。Skypeで話しをしたときにその場で泣いてくれたんだよ。それから、『ロスト・チルドレン』に出てくるドミニク・ピノン博士の6人のクローン、あれはどうやって撮っているのかって、技術的なことを聞いてきた。そのとき、この子はまさにスピヴェットだ!って確信したね」。そんなジュネ監督の言葉を嬉しそうに隣で聞いているカイル君。ときどき冗談を言い合いじゃれあう2人の姿からは、監督と俳優というよりも年齢を越えた友情に近いものを感じる。

サービス精神旺盛な監督とカイル君。モデルばりに次々とポーズを繰り出してくれた。

サービス精神旺盛な監督とカイル君。モデルばりに次々とポーズを繰り出してくれた。

僕の大好きな科目のひとつが科学、スピヴェットと一緒だったんだ。(カイル・キャトレット)

カイル君には、自分とT・S・スピヴェットが似ているのはどんなところ?という質問を。何の迷いもなく「科学への愛とガジェット好きなところ」と答え、スピヴェットを演じたいと思った理由、この作品に出演したいと思った理由についてはこう語る。「僕の大好きな科目のひとつが科学で、スピヴェットと一緒だったんだ。それに、なんてったって貨物列車でアメリカを横断する旅ができるんだよ! それも気に入っているし、僕はマーシャルアーツや格闘技をやっているんだけど、監督はそれを演技に取り入れていいよって言ってくれた。すごく嬉しかったんだ」

驚くのはそれだけではない。スピヴェットが130人を前にスピーチをするラストシーン。約10ページにわたるセリフをたった2テイクで撮ってしまったことからも、いかにカイル君の演技が完璧かが伝わってくる。おまけに「スピーチのシーンが一番楽しかった」というのだから脱帽だ。そんな天才子役はどんな大人になりたいのだろう?「なりたいものは……映画監督でしょ、科学者、武術家、あと大統領!」。このユーモアのセンスがスピヴェットには必要だった。そんな若き相棒をジュネ監督はもう一度称える。「カイルは撮影現場のあらゆるものに興味を持ち、録音部、撮影部、照明部、すべての仕事を理解していた。演技ができるだけでなく技術的なことにも興味があるわけだから、ゆくゆくは僕のライバルになるだろうね。若い芽は早めに摘んでおかないとならないな(笑)」

(取材・文:新谷里映)


映画『天才スピヴェット』
11月15日(土) シネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー(3D/2D)

【STORY】
モンタナの牧場で暮らす10歳のスピヴェットは、生まれついての天才だ。だが、身も心も100年前のカウボーイの父と昆虫博士の母、アイドルを夢見る姉には、スピヴェットの言動が今ひとつ分からない。
さらに、弟の突然の死で、家族の心はバラバラになっていた。そんな中、スピヴェットにスミソニアン学術協会から、最も優れた発明に贈られるベアード賞受賞の知らせが届く。初めて認められる喜びを知ったスピヴェットは、ワシントンDCで開かれる授賞式に出席するべく、家出を決意する。数々の危険を乗り越え、様々な人々と出会うスピヴェット。
何とか間に合った受賞スピーチで、彼は<重大な真実>を明かそうとしていた──。

監督:ジャン=ピエール・ジュネ『アメリ』『デリカデッセン』『エイリアン4』
原作:「T・S・スピヴェット君傑作集」ライフ・ラーセン著(早川書房刊)
出演:カイル・キャトレット(新人)、ヘレナ・ボナム=カーター『チャーリーとチョコレート工場』『英国王のスピーチ』
ジュディ・デイヴィス、カラム・キース・レニー、ニーアム・ウィルソン、ドミニク・ピノン
原題:『The Young and Prodigious T.S. Spivet』/105分/フランス・カナダ合作/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松浦美奈
配給:ギャガ
(C) ÉPITHÈTE FILMS – TAPIOCA FILMS – FILMARTO – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA

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