代官山 蔦屋書店3周年企画「WE RESPECT...」Vol.5 パトリス・ルコント

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代官山 蔦屋書店の3周年を記念した特別企画「WE RESPECT...」。12月3日はフランスの名匠パトリス・ルコントを招いたトークイベントを開催。対談相手はルコント作品の大ファンであり、2014年7月に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞を受賞した作家の柴崎友香さん。12月20日から公開となる映画『暮れ逢い』でルコント監督はどんな愛を描きかったのか──。トークイベントをレポート!

15回目の来日となるルコント監督。「日本に来る度に、日本語を話せたらいいなと思うけれど、なかなか学ぶ時間がなくて…。でも“おはようございます”の挨拶と、電話に出るときに“もしもし”って言うのは知っているよ」と、何とも愛嬌あるトークで観客のこころをしっかりつかみ、イベントスタート。そんなルコント監督を前に対談相手の柴崎さんは「高校生のときからルコント作品を観ているので、こうして隣に座っているのが信じられない。光栄です」と感動しきり。そして、ルコント作品のファン代表として映画『暮れ逢い』について質問を投げかけていく。

なぜ、ルコント監督は女優をあれほど美しく撮るのか?

原作はシュテファン・ツヴァイクの短編小説「Journey into the Past」。「ベルサイユのばら」の基にもなった「マリー・アントワネット」などの歴史小説で知られるオーストリアの作家によるものだ。映画は、実業家ホフマイスター(アラン・リックマン)、彼の若き妻シャーロット(レベッカ・ホール)、ホフマイスターの個人秘書でありシャーロットに恋をする青年フリドリック(リチャード・マッデン)。この3人それぞれの愛を描いたとてもシンプルなストーリー。原作をすすめられて読んだときにルコント監督は「これほどの濃密な恋愛を絶対に逃してはならない」と映画化を強く望み、その映画『暮れ逢い』を観た柴崎さんは「濃密で美しい!」と大絶賛。なかでもシャーロット役のレベッカ・ホールの美しさが際立っている。どうしたらあれほど美しく艶めかしく映し出せるのだろう。

(C)2014 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – SCOPE PICTURES

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「自分が女優に対して恋をしていなかったり思い入れがなかったりすると、素晴らしい映画を撮ることはできないんです。自分が撮っている女優に恋に落ちるというのは最低限のこと。人は、好かれているなと思うともっと好かれようと思うものですからね。撮影も同じ。女優が監督に愛されていると思えれば最高のものを出そうと思うものなんです」

もうひとつ、ルコント監督ならではの手法として、自らカメラのフレーミングを行うことも秘策と言えるだろう。

「僕は自分でカメラをまわすんです。そうすることで自分もその場所にいる人物のひとりとして捉えることができる。それが女優の美しさに表れているのかもしれないですね。映画監督自身がカメラをまわす、そういう人はあまりいないけれど、役者はそれを好んでくれるんです。役者との共犯関係が生まれ、信頼が生まれる。第一、自分の頭のなかをカメラマンに伝える必要がないから手っ取り早いでしょう(笑)。フランソワ・トリュフォーが言っていたことですが、映画を作る楽しみは美しい女優を撮ること。本当にその通りです。恋愛もの、ラブストーリーを撮ることほど美しくて楽しいことはないんです」

賞よりも嬉しかったアラン・リックマンの言葉

今回の『暮れ逢い』も美しく、その美しさに感動するのは“まなざし”の描き方が生々しいからでもある。柴崎さんが「登場人物に見つめられているような感覚になり、彼らの視線を見ているだけで、彼らに何が起こっているのかがダイレクトに伝わってきました」と感想を述べると、「そういう感性を持って映画を観てもらえるのはすごく嬉しい」とルコント監督。

レベッカ・ホール、リチャード・マッデン、アラン・リックマン、イギリスの俳優とタッグを組んでいることについては、この映画のキャスティング・ディレクターがイギリス人で、彼によって素晴らしい俳優たちに出会うことができたと語る。なかでも、アランは『ハリー・ポッター』シリーズのスネイプ先生役で世界的に知られているベテラン俳優。それまで大作に出演して疲労していたこともあり、最初は出演をためらったそうだが、脚本を気に入り快諾した。そして「打ち上げのパーティの席でアランが、“この映画に出演したことで、忘れかけていた映画への愛情を思い出させてもらったよ”と言って僕を抱きしめてくれた。賞をもらうより嬉しかったですね」と語るルコント監督の表情は、何とも嬉しそうだった。

(C)2014 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – SCOPE PICTURES

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長編1作目の失敗、40周年を迎えるまで抱き続けたもの

初期作品『仕立て屋の恋』『髪結いの亭主』から近年の『スーサイド・ショップ』まで、ルコント監督はこれまでに30作品近い長編映画を世に送り出している。柴崎さんが特に気に入っているのは『橋の上の娘』と『列車に乗った男』だそう。そんな40周年を迎えるルコント監督が、40年前をふり返り、当時のエピソードを語った。

「最初に監督した撮影現場のことはとてもよく覚えています。というのは、ものすごくうまくいかなかったから(苦笑)。それまでは短編を撮っていましたが、一番最初の長編はぜんぜんうまくいかなかったんです。それでも、こうして撮り続けているのは──映画を撮ることは自分の夢。1本撮ってうまくいかなかったからといって諦めるわけにはいかなかった。夢を見続けたかった。相当へこんだけれどね。でも、次に撮った長編2作目が大ヒットして、それからは絶好調で(笑)。今に至るというわけです」

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もちろん、40年間の間には苦労もあり、成功した後、その成功を越える作品を作るプレッシャーもあっただろう。作り手の苦労に柴崎さんも深く共感したようで、「苦労をどうやって乗り越えるのか?」という質問も。その答えとしてルコント監督が用意したのは「苦労というハードルを越えることは難しいし大変だけれど、誇りを持てる作品を作ることが大切。自分との問答の繰り返しでもあります」というものだった。

いつかは監督をやめるけれど、今はまだその時ではない!?

イベントの最後には、客席からの質問に答える時間も設けられ、以前、引退するという噂が流れたけれど、それは本当? という質問に「撮り続けていきます」と嬉しい回答が。「『暮れ逢い』の後にもすでに1本喜劇を撮っていて、今月フランスで公開します。でも、いいタイミングでやめようとは思っているんです。映画が僕から立ち去る前に僕が映画から立ち去ろうと思う」と、現在の心情をファンに伝えた。

トーク中、柴崎さんが何度も口にしたのは「まなざしの素晴らしさ」だった。そして、最後にルコント監督に贈ったのは「彼らと一緒に何年も生きたような経験ができました」という言葉。その言葉にルコント監督は「最高の褒め言葉です。ありがとう!」と感激し、こんなメッセージを残してイベントは幕を閉じた。

ルコント監督と柴崎さん

ルコント監督と柴崎さん

「原作『Journey into the Past』を読んだときに思ったのは、男女の感情は混沌としているわけではないけれど、緊張感がある、それを映像化する喜びがあると思い、こうして映画化しました。この映画のメッセージとしては──あなたの人生において、一瞬たりとも恋に落ちることをためらわないでほしいということです。憎み合わずに愛し合えれば、地球上はもっとよくなるはずですから」

ルコント監督の言葉とおり、この映画『暮れ逢い』には、愛すること、愛し抜くことが、美しく、とても美しく描かれている。愛を信じたくなる、愛したくなる映画だ。

(文:新谷里映)

パトリス・ルコント

パトリス・ルコント

1947年11月12日、フランス・パリ生まれ。『仕立て屋の恋』(89)でその名は一躍世界に知られることに。日本で初めて公開されたのは『髪結いの亭主』(90)で大ヒットを記録した。“愛の巨匠”と謳われ、男女の愛を美しく官能的に描くにことにかけては他の追随を許さない。女優の新たな魅力を引き出す演出術にも定評がある。12月20日からは新作『暮れ逢い』が日本でも公開。

映画『暮れ逢い』公式サイト

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アーティスト情報

パトリス・ルコント

生年月日1947年11月12日(70歳)
星座さそり座
出生地仏・パリ

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柴崎友香

生年月日1973年10月20日(44歳)
星座てんびん座
出生地大阪府大阪市

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