地味に刺さる! 70年代アメリカ・アクション映画の隠れた名作たち

DVDやブルーレイディスクの流通の進化、ネット配信の普及などにより、古今東西の映画がお手軽に鑑賞できるようになって久しい。とはいえ、継続的に映画ファンに観られている作品はほんの一握り。劇場公開時にはそれなりに話題になったものの、時代の波に流されていった映画は数知れず……。 VHS黎明期から映画のパッケージビジネスに関わり続けて32年、代官山 蔦屋書店シネマ・コンシェルジュの吉川明利氏がアメリカ70年代アクションの埋もれた名作を語る!

忘れ去られた70年代アクションがオンデマンドDVDで蘇る

日本で劇場未公開でもソフト化されている映画がたくさんあるのだから、大規模公開された洋画は大抵ソフト化されているはず——。そう思っている人は多いのではないだろうか。実はそれは1980年代前半に家庭用VHSが普及し始めてからの話。『E.T.』(1982)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)の前、「映画は映画館で観るもの」だった頃の作品は、よほどの人気作・大作以外は国内でソフト化されていないか、VHS化はされてもDVD化はされていないのが実情だ。

そんな中、代官山 蔦屋書店ではこれまでDVD化されていなかった名作3千数百本のラインナップをカスタマーの注文に応じて店頭でDVD化する「オンデマンドDVDサービス」を2011年末のオープン時から行ってきた(インターネット通販もあり)。吉川氏によれば、注文の動機の大半が「劇場で観て夢中になった思い出の映画をまた観たい」というもの。特に現在50歳代の映画ファンによる、70年代アメリカ映画のオーダーが目立つという。そこで今回はオンデマンドDVDのカタログの中から、吉川氏自身が思春期にリアルタイムで観て衝撃を受けた70代アクションの掘り出し物を公開当時の状況とともに紹介してもらった。

コンシェルジュが選ぶ、70年代アクションを象徴する3本

主人公の格好悪さ、情けなさに共感

『センチュリアン』

(1972年)

ロサンゼルス市警出身の作家ジョセフ・ウォンボーによるベストセラー小説を『夜の大捜査線』(1967)のスターリング・シリファントが脚色、『ミクロの決死圏』(1966)や『トラ・トラ・トラ!』(1970)などの職人監督リチャード・フライシャーが映像化。ロサンゼルスの犯罪多発地区に配属された新米のパトロール警官(ステイシー・キーチ)がベテランの相棒(ジョージ・C・スコット)と組んで日々奮闘するも、過酷で報われない仕事に押しつぶされていく姿を描く。華麗なアクションや強くて格好いいヒーローは登場せず、リアルな警官の悲哀が全編に漂う作品。

「数多くの70年代アクションに共通するのが、主人公が格好悪い男であること。これは『真夜中のカーボーイ』(1969)をはじめとする、ベトナム戦争で疲弊したアメリカ社会を反映したアメリカン・ニューシネマの流れを汲んでいます。『センチュリアン』の主人公である警官も仕事で理不尽な目に遭ったり、妻に離婚されたりしてボロボロになり、最後は無惨にも土手っ腹を撃たれてしまう。 当時は『ダーティハリー』(1971)などのヒーローが悪者を倒す映画が相変わらず人気を博す一方で、このように情けない主人公が最後に野垂れ死ぬ映画が主に若者の支持を集めていました。また、70年代はこの映画のジョージ・C・スコットの他、スティーブ・マックイーン、バート・レイノルズなどマッチョな男優が主役で活躍した時代でもあります。多くの男性観客にとって、それまでハリウッドの王道だった美男美女スターの恋愛映画は絵空事でしかありませんでしたが、典型的なハンサムとは異なる男優が葛藤する70年代の映画は身近に感じられたのです」


荒唐無稽の極み!

『ドーベルマン・ギャング』

(1972年)

ケチな悪党たちがベトナム帰りのドッグ・トレーナーと組み、高度に訓練された犬に銀行強盗をさせようとする快作。人里離れた場所で繰り広げられる訓練シーンが犯罪映画とは思えないほど牧歌的でユーモラス。実動部隊である6匹のドーベルマンはいずれもデリンジャー、ボニー、クライドなど有名な銀行強盗犯の名がついており、唯一のお笑い担当のブルドッグの名がJ・エドガー(FBI長官の名)なのも面白い。監督は新人のバイロン・ロス・チャドナウ。2本の続編が作られており、1973年の『ドーベルマン・ギャング2』はオンデマンドDVDで購入可。

「奇想天外なアイデア一発勝負の作品が多いことも、70年代アクションの特徴の一つ。『スター・ウォーズ』第1作(1977)以前、まだ特撮技術が発達しておらず、またスタジオでSF大作を撮るような予算もない中、作り手たちは頭をひねって荒唐無稽なキワモノ映画を生み出していました。間抜けな悪党たちがドーベルマン6匹を使って銀行強盗を企む『ドーベルマン・ギャング』は、その発想にただただ唖然とさせられる作品。 私はこの作品を洋画アクションやサスペンスを主に上映していた日比谷映画劇場(1984年閉館)で観ましたが、もちろん観客は男性ばかりでファミリーはほぼ皆無。同じ犬映画でも『ベンジー』(1976)とは客層がまったく違いましたね。また、生き物を使った映画といえば、70年代はB級動物パニック映画が盛り上がった時期でもあります。『ポセイドン・アドベンチャー』(1972)や『タワーリング・インフェルノ』(1974)の名プロデューサー、アーウィン・アレンが製作・監督した、殺人蜂の大群の襲撃を描いた『スウォーム』(1978)もオンデマンドDVDの隠れた人気作品です」


これぞオールスターキャスト!

『ブラス・ターゲット』

(1978年)

1945年に事故死した第二次世界大戦の猛将ジョージ・パットンは実は暗殺されており、それは米軍がナチから没収した金塊を輸送中に強奪された事件と関係があるというフレデリック・ノーランの小説を、『ヘルハウス』(1974)などで知られるホラーやサスペンスの名手ジョン・ハフ監督が映画化。強奪事件の真相を追求する少佐(ジョン・カサヴェテス)と、事件の黒幕である大佐(ロバート・ヴォーン)に雇われてパットン(ジョージ・ケネディ)の命を狙う凄腕の殺し屋(マックス・フォン・シドー)らのスリリングな攻防戦が見もの。

「やはり映画は俳優を観るもの。70年代は従来のハリウッド・システムから外れた作家(監督)主義の作品が増えた時代ではありましたが、観客の大半は俳優の顔を観たくて劇場に行っていたわけです。中でも多くの映画ファンを惹きつけたのが豪華オールスターキャストの作品でした。『ブラス・ターゲット』はジョン・カサヴェテス、ジョージ・ケネディ、ロバート・ヴォーン、マックス・フォン・シドー、パトリック・マクグーハンといった渋い顔ぶれの中に、紅一点のソフィア・ローレンを配したサスペンス。ジャケット写真ではソフィア・ローレンが男たちを従えているように見えますが、彼女がメインの映画ではなく、私を含め劇場に足を運んだ人の多くは男優たちの競演を楽しみにしていたはずです。パットン将軍の暗殺計画を軸にしたストーリーは、ド・ゴール大統領暗殺計画を描いた73年のヒット作『ジャッカルの日』の軍隊版といえるでしょう。史実にフィクションを織り交ぜた作劇も70年代映画によく見られる特徴の一つです」


『インディ・ジョーンズ』、『トップガン』、『ダイ・ハード』などに代表される80年代の超大作に比べると派手さはないものの、味わい深い作品が多く埋もれている70年代アクション映画。リアルタイムで体験した人はもちろん、まだ生まれてすらいなかった人も、まだ見ぬ名作を探してみては?

(文:海田恭子)(写真:Fabio Pagani)

【代官山 蔦屋書店】
シネマコンシェルジュ 吉川明利 氏

小学6年生の時に『若大将』シリーズを観て映画にはまり、中学2年生で『ゴッドファーザー』に出合ってからは洋画漬けに。1982年から12年間、かつて日比谷にあったビデオショップに勤務した後、タワーレコードの渋谷店と本部で合計17年間にわたり映画を担当。2012年10月から代官山 蔦屋書店のシネマ・コンシェルジュを務める。

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