ジャン=リュック・ゴダール新作、映画『さらば、愛の言葉よ』公開記念トークショー@代官山 蔦屋書店

菊地成孔氏

菊地成孔氏

2月3日(火)代官山 蔦屋書店にて、ジャン=リュック・ゴダールが3Dで描く最大の野心作『さらば、愛の言葉よ』の公開を記念し、自身もゴダールに関する著書を手がけている音楽家の菊地成孔氏、そして「ELLE」などで活躍する映画ライターの久保玲子氏とともにトークショーが開催された。

3Dの在り方が驚異的

久保:高揚感にあふれていて、かつ3Dでもある本作のご感想はいかがでしょう?
菊池:前作の『アワーミュージック(04)』はとても面白かったんだけど、長かった。しかし今回は1時間9分なのであっという間に終わります。映画やゴダールに興味がなくて、でもモダンアートや映像作品に興味がある人でも十分楽しめるし、価値があると思う。この映画はゴダール史が語られるときには必ず入ってくる作品だと思います。

久保:3Dということも大きいですか?
菊池:そうですね…『フィルム・ソシアリスム(10)』(邦題はゴダール・ソシアリスム)が終わってすぐ、“次の作品が3Dらしい”という噂が飛び交っていました。そしていざフタを開けてみたら、久しぶりにポップなゴダールで。『さらば、愛の言葉よ』は観ていてまず映像がカッコイイし、通俗性なポップさに満ちている。ゴダールお得意のアバンタイトル(オープニング前のプロローグシーン)から開始10分っていう掴みの中での3Dの在り方が驚異的ですね。端的にいうと、映画史上初の3Dのアート映画。相当高尚にポップに3Dをやったという印象です。

久保:3Dという技術が出てきて、子供のように楽しく戯れているというか、楽しそうな様にこちらも高揚させられますよね。
菊池:彼はハイテクノロジストというか、ゴダールは他の巨匠と比べても一番機材の発達に意欲的だった。なので、今回の3Dは“飛び道具”というよりは、ナチュラルに辿り着いた気もします。喜びに満ちていて、カッコイイと思っているうちに30分位経ってしまう。途中、例によって“ん? わからないな”というところもありますが(笑)

(C) 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

(C) 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

久保:前作からフランソワ・ミュジーが外れていますよね。前作も今作も彼は絡んでいないんですが、音楽はいかがでしたか?
菊池:あのクラスのレジェンダリーの名匠の中で“プロの音楽家と仕事をしたのは最初の8年間だけで、後は一切ない”というその唯一性が相当すごい。ゴダールが不器用に切り貼りしていた“ゴダールなりの音”を様式美に高めてくれるのが、非常に音楽家としても優秀なフランソ・ミュジー。彼は、比較的人間嫌いでどんどんスタッフやキャストが変わっていくゴダール組の中で、唯一ゴダールと30年以上パートナーを務めていた人物。“フランソワ・ミュジー退場、ファブリス・アラーニョ登場”っていうのがゴダールの晩年のトピックスになると思う。今や動画も音声も「Pro Tools」っていう編集ソフト上で編集できるのに、ミュジーはそれが可能な時代に入ってからも昔ながらのやり方をやっていたけど、ついにはそれも放棄してしまった。ゴダールがやったのは“ソニマージュ”っていって、いかに音を3D的に聴かせるかということだと思う。音響情報は3Dもへったくれもない。ステレオになった段階で3Dだし、音をことさら映像のように3D的に聴かせるのはほとんど意味が無いけど、ゴダールは先にそれをやっていたんです。

この映画はフェミニスティック

菊池:映画のパンプレットで蓮實重彦先生が「ゴダールのフェミニズム的な側面がこれまでになく際立つ映画。それが3Dカメラで撮られたということでいいのか?」と書いていて、でもそれは確か。女性の裸が写っているからフェミニスティックだってわけでもないですが。ゴダールの作品はそんなにヌードが無いですが、今回の裸は比較的普通にエロいですね。
久保:そうですね。フランス女優ならではの、別に隠さなくてもいい、バーン! みたいな感じのノリですよね。
菊池:バーンと出てきて、こちらがドギマギしてしまうくらい普通で。その後に何度か繰り返されるライトモチーフとして洗面所に血が流れるのですが、それが夫というか愛人による暴力なのか、経血なのかがわからない。つまり観る側の思考を問われている。男女の関係を考えさせる問を突きつけている意味でもかなりフェミニスティックかなと。
菊池:久保さんから見てどうですか? 女性の裸がいっぱい出てくることについては…
久保:(ゴダールの作品では)久しぶりだったので…『アワーミュージック』は別の意味で官能的でしたけど。裸に関しては圧倒されるだけで止まってしまった。
菊池:なるほど。男性の裸も出てきますよね。排泄のシーンも出てくるので。さすがに大便が飛び出したりはしないけど(笑)

(C) 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

(C) 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

ゴダールは居なくてもゴダール映画は撮れる

久保:タイトルが『adieu』なので、カンヌでは「これが最後のお別れか」と発表になったけど、本作を観るととてもやめられないだろうと思うんですが、この後どこに向かうと思いますか?
菊池:ゴダールがこの映画の評価を気にするかしないか想像つかないですけど、おそらく世界中で特にアメリカ人とか好きそうですね。
久保:大ヒットしてますよね
菊池:すごいですよね。「アメリカでウケちゃったよ」とゴダールが今さら喜ぶのかなと思うけど、意外と喜ぶかもしれない。この規模で…何せ二人で撮れちゃって、そのうえPC一台で編集できて、今までですら“DJゴダール”って言われていたくらいの切り貼りのテクニックが簡易化することでクオリティも上がっていますし。毎回「これで終わりだ」と言っているけど、そう言いながら撮ってるんで。まぁ、死ぬまで撮るんでしょうね。
久保:彼の側にいる撮影技師とかは「彼は映画をやめられない」と言ってるので、新しいオモチャを見つけて、嬉々として撮っていてくれそうですね。
菊池:同い年のイーストウッドも…
久保:ガンガン行ってますからね。
菊池:イーストウッドはもうディレクターズ・チェアに座っていないという説がありますが…。
久保:ゴダールもカメラマンに「勝手に撮って来い」と言ってますから。近いものはありますよね。
菊池:佐々木敦さんと話した時に出た結論は“ゴダールは居なくてもゴダール映画は撮れる”。それはミュジーが証明したし、今回のファブリス・アラーニョもそう。ゴダールが(C)(マルシー)さえ開放すれば、これがゴダールの映画ですっていうことになりうる世紀になった気がしていて。(C)さえ得られれば、それがゴダール映画となって、世界中の若い人がジャン=リュック・ゴダールを撮るっていう状況が起こりうるんじゃないかというSF的な想像力を掻き立てる人です。

(C) 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

(C) 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

ゴダールがナウい?

来場者から「字幕では、日本のスラング“ググる”が出てきますが、そのことについてどうお考えですか?」と聞かれると、「ゴダールはナウくなったんです。これは妄想だけど、カメラマンが教えてくれたと思います。『フィルム・ソシアリスム』ではナウくないですし、今回急に若返った。引用も昔より大雑把で、世界文学全集みたいになってきて。今後も若返る可能性はあると思います」と持論を展開してみせた。

最後には「とにかくポップなので、ゴダールがアンナ・カレーニナ時代のポップさを取り戻したぐらのショックはある。何度も観たくなる映画ですね。ポップな映画なので観てほしい。ゴダールが“女性とは何なのか”と考えるようになった。これは老境に入ったことと無関係でないとも思う。フェミニスティックな問題提起もたくさんされているので、それにも注目していただければ」と自身の感想を混ぜて映画をPRし、密度の濃い1時間のイベントは幕を下ろした。

イベントの様子

映画『さらば、愛の言葉よ』
第67回カンヌ国際映画祭 審査員特別賞 / 第14回パルムドッグ 審査員特別賞
1月31日よりシネスイッチ銀座ほか全国公開中

配給:コムストック・グループ
© 2014 Alain Sarde - Wild Bunch

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

関連サイト

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST