戦場カメラマン・渡部陽一氏「戦場のギャップに、カメラマンとして大きく胸を揺さぶられた」

渡部陽一氏

渡部陽一氏

クリント・イーストウッド最新作『アメリカン・スナイパー』の公開を控えた13日、都内にて朝日新聞社・国際報道部のデスクとして国際ニュースを担当している望月洋嗣氏をホストに、イラク戦争では米軍従軍(EMBED)取材を経験したほか紛争地の最前線で取材を続ける戦場カメラマンの渡部陽一氏をゲストに迎え、トークショー付き試写会が開催された。

望月:戦場の現場ではどのようなことを感じてこられましたか?
渡部:どの戦場でも共通していたことは「戦争の犠牲者はいつも子どもたち」。最前線の現場では、そこで暮らさざるを得ない沢山の家族や子どもたちが犠牲になっている。紛争地は情報が統制されてしまったり、国境が閉ざされてしまったりと、その中で一体何が起こっているのかわからなくなっていく。そこで泣いている子どもたちの声が一人だけでも世界の方々に届けることが出来た時、どの国であっても国際情勢と繋がることができると感じているので、カメラマンとして丁寧に世界の声を記録に残していきたい。

望月:渡部さんは映画の舞台にもなっているイラクのファルージャで米軍帯同で取材をされたわけですが、ご自身だからこそのお話をお聞かせいただけますか?
渡部:キャンプ地の中で驚いたことは、10代後半から20代前半という今どきの若者が前線に兵士として入ってきたこと。キャンプ地の中では兵士はインターネットの電話で祖国に残してきた家族に電話をしている。激しく戦った後に武器を置いてキャンプ地に戻り、我先にと電話ブースに足を運び、電話をしながら兵士が泣いている。若い兵士たちも自分自身をコントロールできなくなり、少しでも生まれ育った自分の故郷と繋がりたいという思いで電話をかけていた。生活を共にする中で“どの国の若者たちも持っている気持ちの初心やベースは同じなんだ”と感じた。前線で戦っている姿ははまるで『ロボコップ』のように表情が見えないフル武装。でも一歩キャンプに戻ると、若い普通の若者たちになる…そんな戦場のギャップというものに僕はカメラマンとして大きく胸を揺さぶられた。

丁寧な口調で語りかける渡部氏

丁寧な口調で語りかける渡部氏

望月:主人公はイラクという恐ろしい戦場に繰り返し繰り返し派遣されています。どうしてこのように恐ろしい戦場に自らの意志で向かうのでしょうか?
渡部:イラクやアフガニスタンで従軍していた時、沢山の兵士が「一度戦場に足を踏み入れたものは、必ず戻ってくる」と言っていた。一年の任務を終えて祖国に戻ることが出来ても、また戦場に戻ってくる。これは中毒のような症状であるとも。戦場カメラマンにも“ウォー・フォトグラファー・シンドローム(戦場カメラマン症候群)”という言葉あり、現場に入れば出会うカメラマンのメンツはほぼ同じだった。でも、家族や恋人や子供のために必ず祖国に戻ること、その準備をどの兵士もしっかりしていた。

望月:クリス・カイルさんは実在の人物ですが、共感を覚えた部分はありますか?
渡部:戦場で自分の気持がコントロールできなくなり、チームの礼節を守ることができなくなっていく。そんな前線に立たされる兵士がどのように自分を管理し、自分を失っていくのか。戦場の狂気を僕はこの映画で感じることができると思っている。

バックには、渡部氏が撮影した写真が

バックには、渡部氏が撮影した写真が

望月:映画では非常に激しい戦闘シーンが続き、観たことのないような生々しさを感じました。映画はどう映りましたか?
渡部:映画の中で描かれている米軍の姿、イラクの市民の人たちとの接触の仕方、非常に生々しく、僕自身が従軍カメラマンとして見てきた姿がはっきりと描かれていた。イラクという国の街並みであったり、生活風習や文化というもの…主人公以外のバックグラウンドとしての描き方としても強く残していた。僕自身、カメラマンとして見たイラクと重なっている。映画からは非常に生々しく深いイラクの声が聞こえてきました。

望月:最後にメッセージをお願いします。
渡部:主人公は兵士であるけれども、家族を持っている。アメリカの生活も、イラクの家族の生活も、日本の私達の日常も、ほとんどみんな家族の時間は重なる。作品から様々なメッセージが伝わってくる中で「今自分自身何ができるのか」「何をしているのか」足元を気づかせてくれる、そんな作品であると感じました。


映画『アメリカン・スナイパー』
2月21日(土)丸の内ピカデリー 新宿ピカデリー 他全国ロードショー

■ストーリー
米軍史上最多160人を射殺した男。国を愛し、家族を愛し、それでも戦場を愛した男――。
ある日、9.11の惨劇を目撃したクリス・カイルは、自ら志願し、米海軍特殊部隊ネイビー・シールズに入隊をする。イラク戦争のさ中、クリスが命じられた任務は「どんなに過酷な状況でも仲間を必ず守ること。」その狙撃の精度で多くの仲間を救ったクリスは “レジェンド”の異名を轟かせるほどになる。しかし、彼の腕前は敵の知るところとなり、“悪魔”と恐れられ、その首には2万ドルの賞金を掛けられ、反乱兵たちの標的となってしまう。一方、クリスの無事を願い続ける家族。平穏な家族との生活と想像を絶する極限状況の戦地…過酷なイラク遠征は4回。
愛する家族を国に残し、終わりのない戦争は幾度となく、彼を戦場に向かわせる。 度重なる戦地への遠征は、クリスの心を序々に蝕んでいく…

原作:「ネイビー・シールズ 最強の狙撃手」クリス・カイル、スコット・マクイーウェン著(原書房)
監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー
配給:ワーナー・ブラザース映画

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