自身の蓄積が、映画を通して伝播していく―映画『くちびるに歌を』三木孝浩監督インタビュー

三木孝浩監督

三木孝浩監督

『ソラニン』『僕等がいた 前篇・後篇』『陽だまりの彼女』『ホットロード』『アオハライド』――もはや日本映画を代表するヒットメイカーのひとりと言っていいだろう。そして、私たち観客にとっては「恋愛映画の名手」という印象が強いかもしれない。その三木孝浩監督が、意外な映画を撮った。

「(恋愛ものが)たまたま続いちゃって(笑)。恋愛映画専門というわけじゃないんですよ(笑)。ただ、今回はテイスト感も違うので、それがどう受けとめてもらえるのか、ドキドキしてるんですけど」

新作『くちびるに歌を』には、恋愛要素がほぼない。長崎県・五島列島の中学校、合唱部の物語。それぞれに悩みを抱える15歳の部員たちが、あるトラウマからピアノを弾けなくなったピアニストで臨時教員としてやってくる柏木(新垣結衣)と出逢う。原作は、アンジェラ・アキの「手紙 ~拝啓 十五の金へ~」をモチーフにした同名ベストセラー小説。

「原作(中田永一)を読むと15歳、中学生の頃を思い出させてくれたんです。優しい風景と穏やかな島のなかで生きていても、やっぱり、それぞれに生まれ出(いずる)悩みがあるんですね。その悩みに対してすごく一生懸命、全身でぶつかっている。しかも、15歳なりの覚悟がある。あ、これは自分が忘れかけていた部分だなって、ハッとしました。大人になればなるほど、悩みや自分の抱えている問題からの逃げ方、かわし方をおぼえる。自分の問題をちょっと違うところに置いておく。そういうことがだんだんうまくなっていくんですけど、15歳の頃って逃げる術を知らないので、真っ向からぶつかっていく」

(c) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (c) 2011 中田永一/小学館

(c) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (c) 2011 中田永一/小学館

15歳に向き合うことは、いまの自分に向き合うことに他ならない。

「思うことありますよね。15歳の自分は、そんなことしなかったよな……って。ドキッとさせられます。撮っていて、15歳の頃の自分と一緒に、映画を作っているような感覚がありました。映画が好きで、自分も何か作りたいと思い始めたのが、15ぐらいだと思います。じゃあ、その頃作りたかった映画がいま、作れているのか? 自分は変わってしまったのか、そうじゃないのか。なんとなく、15歳の自分に見つめられながら――不思議な緊張感がありましたね」

当初は、「手紙~」の歌詞にあわせて30歳のヒロインと、15歳の部員たちの「相互作用」を描くつもりだったという。しかし撮影を重ねるにつれて、「大人が15歳たちをどう感じるか」に主眼を置くようになった。

「その分、(観る側の)考える余白、つまり思案する時間の「間」を大事に展開させました。新垣結衣さんが演じたヒロインは、言わば大人の象徴。大人だったら誰しも心情を重ねられる部分があると思います」

生徒たちのリアルな悩みが「具象」だとすれば、大人の代表であるヒロインの傷は「抽象」。この「合わせ」が、映画ならではの立体感を生んでいる。

(c) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (c) 2011 中田永一/小学館

(c) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (c) 2011 中田永一/小学館

考えてみれば、三木監督の作品は、この「合わせ」がいつも絶妙だ。近作『アオハライド』も、ラブと青春を隣接させ、溶け合わせている。欲張りに、様々な要素を盛り合わせるのではなく、程よく馴染ませる。言ってみれば「合わせ味噌」のような塩梅があるのだ。

「そう言っていただけると、うれしいですね。まったく味の違うものや、味の強すぎるものではなく、映画全体のなかで空気感の上げ下げできるものは意識しているかもしれません。それが、僕にとっては「合わさった」ときの味のイメージなのかな。作品にとってベストな味って、あるはずで。今回は(ラーメンで言えば)とんこつではなく、塩味かもしれない(笑)」

まさに。『くちびるに歌を』は、端麗塩ラーメンの趣だ。

「たとえば、恋愛ものが続くことも、特に負担にはならない。同じ少女漫画(原作)でも別の方が描いてるものなので、その作品ごとにベストな実写のかたちが何かを探るわけです。その探る作業が楽しい。それぞれに、自分が胸打たれたり、あ、いいな、と思う部分が違うので、それを自分のなかで増幅させていく。そういう意味では、『くちびるに歌を』も方法論としては、毎回やることと、変わりはなかったんです」

(c) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (c) 2011 中田永一/小学館

(c) 2015 『くちびるに歌を』製作委員会 (c) 2011 中田永一/小学館

三木監督がヒットメイカーである理由。多くの観客の心にふれる映画を作り出す根源は、おそらく次の謙虚な言葉にあらわれている。

「自分にしか作れない新しい映画。それは生み出せないと思ってるんです。自分なりに「いいな」と思える要素を編み込んでいく。それが自分の作り方。自分に蓄積されたものを再構成しているのだと思います。『くちびるに歌を』も、いままで作ってきたものとはトーンは違うかもしれませんが、でも、もともと自分のなかに蓄積されていたものなんじゃないかと思います」

そう、かつて15歳だった三木監督の蓄積が、映画を通して伝播していくのだ。

(文:相田冬二)


映画『くちびるに歌を』
2015年2月28日(土)ロードショー

【原作】中田永一(「くちびるに歌を」小学館刊)

【監督】三木孝浩
【脚本】持地佑季子、登米裕一
【出演】新垣結衣、木村文乃、桐谷健太、恒松祐里、下田翔大、葵わかな、柴田杏花、山口まゆ、佐野勇斗、室井響、渡辺大知、眞島秀和
石田ひかり(特別出演)、木村多江/小木茂光/角替和枝 井川比佐志
【主題歌】アンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」(EPICレコードジャパン)
【製作】『くちびるに歌を』製作委員会
配給:アスミック・エース

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アーティスト情報

三木孝浩

生年月日1974年8月29日(43歳)
星座おとめ座
出生地徳島県

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