8年ぶりの監督作、脚本、そして役者としての自分―映画『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』松尾スズキインタビュー

松尾スズキ監督。本作ではキャストの一人でもある

松尾スズキ監督。本作ではキャストの一人でもある

松尾スズキが、8年ぶりに監督作を発表。映画監督デビュー作『恋の門』同様、漫画の映画化で、主演に再び松田龍平を迎えた。演出家として。脚本家として。俳優として。大人計画での活動でも追求している、この「三位一体」それぞれのファクターについて、新作『ジヌよさらば~かむろば村へ~』を通して問いかけてみた。

まず、監督として。この8年の間、映画に対する向き合い方は変化したのだろうか。
「撮ってみて思うことですけど、前みたいにやたらカット割りに凝ったり、より「これは映画なんだ」と思おうとする力が抜けたかなという気はしますね。それはたぶん『クワイエットルーム(にようこそ)』(2007年の長編監督第2作)をやったときについた自信ですけど。ちゃんと人間が芝居をしていれば、そんなにカットを割らなくていい。前は、舞台から映画にいったということで、「舞台出身だ」ということが強調されるのがすごく嫌だったんで、より映画的により映画的に、ということにちょっと囚われてたような気がしてて。そこから解放されたことが自分にとってはよかったと思います。映像に懲りたくらなくてもいいんだ、というね。ちゃんと、いい芝居が撮れていれば」

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』にはもはや松尾スズキが「映画に挑戦した」というニュアンスはない。映画と仲良くやり、難なく自分の懐に入れている印象がある。松尾の唯一無二の作家性を発露する媒体として、映画が「ふさわしい」ものになった。そう、松尾と映画がとても近しく、そして馴染んでいる。映画は「他者」ではなく、きちんと松尾の血肉となっているのだ。
「そうかもしれないですね。8年撮らなくて、その間に発酵してきたものもあるとは思いますし。もちろん、原作のいがらし(みきお)さんの漫画のリズムも大きく影響はしてるんですけどね。(8年間)撮ってはなかったんだけど、その間に(俳優として、映画に)出ながら、「次撮るときはどうするんだ?」とか、(他の)監督さんの撮り方を見たり。たとえば松本人志さんの映画(『R100』に出演)の撮り方とか、出来上がったものを見たりしながら、「こういう撮り方もあるな」と、ずっとシミュレーションはしてましたから」

無数のシミュレーションが発酵してきたことで結果、今回で言えばいがらしみきおの漫画「かむろば村へ」というある意味「難題」も、松尾ならではの「劇」と中和している。次に脚本家として。
「原作のなかのファンタジックな部分を、リアリズムのなかにどういうふうに落とし込むか。それは世界観を早めに作っちゃうことだなと。そうすると、早めに西田(敏行。舞台となる村の「神様」を演じる)さんの目が光ったほうがいいなと(笑)。これは笑っていい話なんだということを見せておかなければいけない。でも、なんとなく、芝居とかもそうですけど、自分の血肉のなかにそういうファンタジックな部分とリアルな部分が同居している、っていう感覚はあるんですよね。西田さんはすごく普通にやってくださって。「神様」という気負いがないですよね。あれは「神様」なのに俗っぽい、というところがいいわけで。でも、目が光るという超常現象を起こすわけじゃないですか。それで、日常と非日常がすっと混ざる」

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

聖と俗。日常と非日常。「大人計画」の演劇もまた、それらが「混ざる」ことでかたちづくられてきた。お金恐怖症の「潔癖」青年が、けったいな村で個性的な「俗物」たちに揉まれながら、無銭生活を営もうとする『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』は、まさに松尾的な「対比」と「隣接」によって成立している。

「神様が、ある世界観のなかに、人としている。それは、僕のやってる芝居のなかでもたまにあることなんで、そこはすっと呑み込むことができたと思いますね」

松尾は、俳優として唯一無二の個性を放ちつづけている。舞台はもちろん、映画、ドラマでも、松尾にしか出せない人物像がそこにはある。本作で演じているヤクザ、多治見もまさにそうだ。
「あれがもし、悪役っぽくなかったとしたら、僕の人柄ですかね(笑)。それが出ちゃったのかな。悪役やるのは好きなんだけど。まあ、アドリブも多かったし、やるからには笑いをとりたいというスケベ心があって、そこに凝縮されちゃったかもしれない」

監督・松尾が俳優・松尾をキャスティングするのか。はたまた、俳優・松尾がいたほうが、監督・松尾は「世界」を作りやすいのか。
「キャスティングって面倒くさいことなんですけど、それがひとり(分)減るわけですよ(笑)。必ず、そいつ(俳優・松尾)のスケジュールは僕に合わせられるわけですから。あと、僕が言うことを「僕」はきくし(笑)。そういう物理的なこともあるけど、自分が監督としての特色を出していくとしたら、監督してる人が出ることも含める。ウディ・アレンとかもそうですけど。そういう売りを自分のなかで作っておきたいなとは思うんですよね」

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

今回は大人計画の面々が、ズラリ勢ぞろいしている。村杉蝉之介、伊勢志摩、荒川良々、皆川猿時……とりわけ、大人計画の看板俳優、阿部サダヲがメインキャストの村長役で登板、映画監督・松尾スズキとガップリ四つに組んでいる様は感動的だ。
「阿部とは信頼のレベルがハンパない。はやく阿部と、濃い映画の仕事をしたいと思ってた。今回は、ふたりで新しいキャラクター作れたなと思ってますね。いきなり、荷物をバスのなかにぶん投げるという乱暴なことをするんですけど、(撮影)当日、なんかないかなと思って決まった、という。台本には書いてないんですよ。そういうときに、「はい、わかりました」って、ぽーんとやる。それを見て龍平がびっくりする。僕らは現場主義ですからね。そこにあるもので何か面白いこと作ろう、みたいなことやってきた劇団なんで。僕に突然言われることはみんな慣れてるから」

こうした松尾スズキ=「大人計画」的世界観を、映画的に際立てるのが主演、松田龍平。「不思議なことが起きても驚かない」異形の主人公は、松田でなければありえなかった。
「もともと映画俳優のなかでも突出して、映画俳優だなという想いがあって。独特の「異邦人」感というのは常にどこでも出してるなって。宮藤(官九郎)脚本の『あまちゃん』のミズタクですら、どことなく「異邦人」の匂いを漂わせている。何かただ者ではない感じがある。あの空気は普通の俳優には出せないですから。あれは得難い存在だなと僕は思ってるんですよね。普通の日本人じゃないですね(笑)」

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会

この物語は異境が舞台でありながら、そこに迷い込んだ主人公が狂言回しにならずに、あくまでも淡々とマイペースを全うする点にある。
「コメディの主役って、損な役回りになることが多いんですが、この主人公はところどころでボケますんで(笑)。それでまわりがツッコミ役に変わったりする。ボケとツッコミが入れ替る。主人公なのに、脇役のような美味しさがある」

そう、ボケとツッコミもまた、松尾ワールドのなかでは、聖と俗、日常と非日常のように、手をつないでいるのである。

(取材・文:相田冬二)


映画『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』
4月4日(土)より新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー

監督・脚本・出演/松尾スズキ
原作/いがらしみきお「かむろば村へ」(小学館 ビッグコミックス スペシャル刊)
出演/松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、二階堂ふみ、片桐はいり、中村優子、村杉蝉之介、伊勢志摩、オクイシュージ、モロ師岡、荒川良々、皆川猿時、西田敏行
特別協力/福島県柳津町 特別協賛/福島民報社 配給/キノフィルムズ
(C)2015 いがらしみきお・小学館/『ジヌよさらば~かむろば村へ~』製作委員会


大人計画/日本総合悲劇協会vol.5『不倫探偵~最期の過ち~』
東京公演:5月29日(金)~6月28日(日)下北沢本多劇場
大阪公演:7月1日(水)~7月5日(日)サンケイホールブリーゼ

(左上から)二階堂ふみ、松尾スズキ、片桐はいり、伊勢志摩、村杉蝉之介、平岩紙、皆川猿時、近藤公園

(左上から)二階堂ふみ、松尾スズキ、片桐はいり、伊勢志摩、村杉蝉之介、平岩紙、皆川猿時、近藤公園

作・演出:天久聖一、松尾スズキ
出演:松尾スズキ、片桐はいり、二階堂ふみ、伊勢志摩、皆川猿時、村杉蝉之介、近藤公園、平岩紙

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アーティスト情報

松尾スズキ

生年月日1962年12月15日(55歳)
星座いて座
出生地福岡県北九州市

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松田龍平

生年月日1983年5月9日(35歳)
星座おうし座
出生地東京都

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