この気恥ずかしさがたまらない!見たくないのに目が釘付けになる映画『パラダイス』三部作

見たくない。でも見ずにはいられない。欲望がむき出しになった人の滑稽な姿に遭遇した時、両手で顔を覆いながらも、つい指の間から覗いてしまうことはないだろうか? 観客にとってそんな状態が最初から最後まで続く映画シリーズがあるという。その名は『パラダイス』三部作。昨年の劇場公開時に観てハマってしまった一人、代官山 蔦屋書店シネマコンシェルジュの冨丘紗里氏が語る、同作の面白さとは——?

現実では得られない愛を求めて暴走する女たち

パラダイス:トリロジー +1
DVD 10,000円/Blu-ray 12,000円(いずれも税抜)
発売・販売元:キングレコード㈱

知る人ぞ知るオーストリアの鬼才、ウルリヒ・ザイドル監督が2012年に発表した『パラダイス』三部作は、『パラダイス:愛』、『パラダイス:神』、『パラダイス:希望』からなる人間ドラマである。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの世界三大映画祭で物議を醸した後、2013年の東京国際映画祭で一挙上映されコアな映画ファンの間で話題になり、2014年2月に満を持して劇場公開。そしてついにこの4月、DVDがリリースされた。

3本はそれぞれ独立した物語であり、いずれも夏休みを迎えた女性主人公がパラダイス=楽園を求める姿が描かれる。『パラダイス:愛』の主人公である50代シングルマザーのテレサは、休暇先のケニアのビーチリゾートで女性観光客の相手をする現地青年との関係にのめり込む。『パラダイス:神』ではテレサの姉で敬虔なカソリック教徒のアンナ・マリアが主人公となり、祈祷会や移民への布教などイエス・キリストに近づくための活動に励む。『パラダイス:希望』ではテレサの13歳の娘メラニーが青少年向けの減量合宿に参加し、中年医師への恋心を募らせていく。

「主人公3人とも、観客が『そっちへ行かないで!』と思う方向へどんどん突き進んでいきます。テレサは最初、愛をお金で買うことに抵抗があったのに、無邪気な若者に目の前で愛情をちらつかされて『こんな自分を愛してくれる人がいる』と喜び、騙されていることを半ば自覚しながらも貢いでしまう。カレンの信仰も、自らを鞭打ちしたり、イエスに欲望したりと矛盾した方向にエスカレートしていく。そしてメラニーの場合、初恋だから直球勝負。相手の医師は本来メラニーを拒絶すべきなのにはっきりした態度を取らないせいで、彼女は全身でぶつかります。

そんなわけで彼女たちの言動に終始ハラハラするのですが、この映画が面白いのは、観客に『もしも自分が主人公の立場に置かれたら、同じことをしてしまうかもしれない』と思わせるところ。登場人物たちの外見や家族構成などの背景が絶妙で、どこにでもいそうな女性として描かれています。滑稽だけど、否定できないキャラクターの描き方がとても巧い。彼女たちが楽園を求める気持ちに共感できるだけに、観ていて非常にいたたまれないんです」(冨丘氏)

一癖も二癖もある巨匠たちが絶賛

では、いたたまれないのに目が離せないのはなぜなのか? 冨丘氏はその理由にウルリヒ・ザイドル監督の独特の映像センスを挙げる。確かにシンメトリーを多用した構図や、『パラダイス:愛』に顕著な鮮やかな色使いは、スチール写真を見てもわかるように非常にスタイリッシュ。

「たとえば『パラダイス:愛』には裸のシーンが結構あるのですが変に生々しくならず、主人公が太っていることもあり、まるで昔の絵画のような美しさがあります。同じ人間の欲望を浮き彫りにしていても、ラース・フォン・トリアーのような露悪的でジメッとした印象はまったくなく、見た目がおしゃれでユーモラス。だからこそ観ていて気恥ずかしさがこみ上げてくる。こんな感覚にさせられる映画は他にありません」(冨丘氏)

日本での知名度はまだそれほど高くないウルリヒ・ザイドル監督だが、90年代からドキュメンタリー映画界で高い評価を受けており、『パラダイス』三部作でもプロ・アマ混合のキャストに台本を渡さず、即興芝居をさせるユニークな演出方法を取り入れているという。その人間の本質を捉えて離さない作風は、ヴェルナー・ヘルツォーク、ミヒャエル・ハネケ、ジョン・ウォーターズといった妥協のない映画作りで有名な巨匠たちも賞賛しているとか。最近、映画に新鮮な驚きを感じていないという人にこそ是非観てほしい作品だ。

『パラダイス:愛』(2012年オーストリア=ドイツ=フランス)

監督:ウルリヒ・ザイドル 出演:マルガレーテ・ティーゼルピーター・カズング

一人娘を姉に預け、ケニアの美しいリゾートにやってきたテレサ。そこではシュガーママと呼ばれるヨーロッパの女性観光客たちがビーチボーイと呼ばれるケニア人青年相手にセックス観光を楽しんでいる。友人に勧められてビーチボーイと関係を持ったテレサは、久しぶりに女として扱われた喜びからアバンチュールにのめり込むが、相手から金銭を要求されるようになり……。植民地支配を彷彿とさせる歪なリゾート空間で、愛を求める女のエゴが暴走していく。

『パラダイス:神』(2012年オーストリア=ドイツ=フランス)

監督:ウルリヒ:ザイドル 出演:マリア・ホーフステッターナビル・サレー

ウィーンに暮らす敬虔なカトリック教徒のアンナ・マリアにとって、夏の休暇はイエス・キリストにすべてを捧げるためのもの。自宅で祈祷会を行ったり、性欲にまみれた他人の身代わりになって自らの体に鞭を打ったり、布教のために移民の家を訪ねたりしていたが、ある日、2年前に出ていった夫が戻ってくる。イスラム教徒で足の不自由な夫をアンナ・マリアは邪険に扱い、たちまち家は不穏な空気に包まれていく。

『パラダイス:希望』(2012年オーストリア)

監督:ウルリヒ・ザイドル 出演:メラニー・レンツジョセフ・ロレンツ

母がケニアでバカンスを楽しむ間、13歳の娘メラニーが連れて来られたのは、人里離れた施設で行われる青少年向けのダイエット合宿。運動プログラムや食事制限は過酷だが、少年少女たちは大人の目を盗んで食べ物をあさったりセックス談義に興じたりしている。そんな中、メラニーは父親ほど歳の離れた合宿所の医師に恋心を抱く。医師もメラニーの好意に応じるが、次第にメラニーが積極的になるとタブーを恐れて距離を置くようになる。

©Vienna 2012 Ulrich Seidl Film Produktion Tatfilm Parisienne de Production Arte France Cinema

【代官山 蔦屋書店】
シネマコンシェルジュ 冨丘紗里 氏

2011年10月から同店のコンシェルジュに。大学では映画について研究。年間150~350本の映画を観ている。国を問わず海外ものが得意分野で、単館系からヒット作まで幅広く網羅している。

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