「言語というコインの裏表を扱ってみたかった」―映画『追憶と、踊りながら』ホン・カウ監督インタビュー

ホン・カウ監督

ホン・カウ監督

映画は大衆のための娯楽ではあるけれど、ものすごくパーソナルなことがきっかけで生まれる映画もある。英国期待のホン・カウ監督のデビュー作『追憶と、踊りながら』は監督自身の経験から生まれた、何とも美しくて優しい、愛とコミュニケーションを描いた人間ドラマだ。

ホン・カウ監督はカンボジアで生まれヴェトナムで育ち、その後、家族と一緒にロンドンへ移住した。

「この映画で僕が描きたかったのは異国人の母、自分の故郷とはぜんぜん違う国に住むことになった母親の話です。僕は中国語と英語のバイリンガルですが、母はカンボジア人で英語があまり話せない。幼い頃から母のために通訳をしていました。そして、脚本を書くときにふと浮かんだのは、英語が話せない母親にとっては子供がライフラインであり、もしもその子供がいなくったらどうやって生きていくのかということ。それがスタートでした。言葉は人と人とがコミュニケーションをとり理解し合うことのできるツール。でも、一方で言葉があるからこそ誤解が生まれることがある。言語というコインの裏表を扱ってみたかったんです」

(C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014

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そんな自身の経験からアイデアを得て、ロンドンの介護ホームで暮らすカンボジア中国人のジュン(チェン・ペイペイ)、その息子のカイ(アンドリュー・レオン)、彼の恋人リチャード(ベン・ウィショー)というキャラクターが生まれた。ゲイであることを母に告白できないまま亡くなってしまったカイ。遺されたジュンは息子の真実を知らず、恋人リチャードはその真実を隠したままジュンの面倒をみようとする。そこに隔たるのは言葉の壁──。アジア映画の伝説のヒロインとして知られるチェン・ペイペイの演技もさることながら主演のベン・ウィショーの演技がとにかく素晴らしい。

見たことのないベン・ウィショー、『007』シリーズのQ役や『クラウド アドラス』とは違うその美しさに心奪われる。

「僕にとってベン・ウィショーは尊敬する俳優のひとりです。『パフューム ある人殺しの物語』を観てから“なんて素晴らしい俳優だろう!”と、ずっと彼の活躍を見てきました。今回のリチャード役はゲイですが、演じる俳優がゲイかどうかはまったく関係なく、ベン・ウィショー自身がそうであることは後から知りました。今回の映画は役者に頼る部分がとても大きい、俳優が生身で演じきらなければならないタイプの映画です。だからこそベン・ウィショーの持っている強さと弱さ、演じるときの真摯さ、彼が持っているすべての要素がリチャードに必要でした。その想いを手紙に綴り脚本と一緒に送ったんです」

(C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014

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それを受け取ったベン・ウィショーは「素晴らしく美しい物語と驚くほどの誠実さに胸打たれた」と、リチャード役を快諾。原題の「LILTING(弾むような)」という言葉のように、ホン・カウ監督の心もベン・ウィショーの心もきっと踊っていたに違いない。特に監督にとってはずっと追いかけてきた俳優との仕事、嬉しさもひとしおだった。「彼は役のためにすべてを捧げてくれる俳優、想像以上に素晴らしい俳優でした。役のなかでの真実を追究しつづける、戦い続ける、その姿勢に感動しましたし、月並みな表現ですが本当にいい人なんです。優しくてちょっとシャイな人でした(笑)」

そして「LILTING」というタイトルに大切なものを込めたと語る。

「映画のタイトルを考えることはすごく難しい。この作品に関しては、カイが生きていた頃の“過去”と亡くなった後の“現在”とが混ざり合う雰囲気というか、過去も現在も人物もすべてを包み込むようなタイトルにしたくて、悩んだ末に『LILTING』という言葉にたどり着きました。原題を的確に日本語に訳すことは難しいですが、この言葉には『踊る』という意味のほかに『とても優しくリズムをとる』という意味があったり、また『リルティングする言語ですね』というようにも使う。その要素がこの映画にもあるんです」

「LILTING」を「追憶と、踊りながら」とした邦題はまさに監督の意図を代弁しているだけでなく、1カットで撮影したという約2分半のダンスシーン、映画史に残るであろう感動のラストシーンにも寄り添っている。

(C)LILTING PRODUCTION LIMITED / DOMINIC BUCHANAN PRODUCTIONS / FILM LONDON 2014

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「過去の回想と現代が同じ時間帯で共存する雰囲気を映し出したくて、あのダンスシーンのショットをやってみたいと思いました。過去に観たジョン・セイルズ監督の『真実の囁き ボーンメッセンジャー』という作品がアイデアのきっかけでもあります。観客にとっては優雅なダンスシーンに映っていますが、カメラの後ろの撮影隊はとんでもなく大変で。限られた時間、限られた空間、しかも1カットで撮る──どうしても納得のいく画が撮りたくて21テイクも撮りましたが、時間が許すならもっと撮っていたかったです」

愛する人を失っても明日はやってくる、遺された者は生きていかなくてはならない。過去をどう受け止め、記憶と共にどう生きていくのか……大切な人との愛について考えさせられる『追憶と、踊りながら』。素晴らしい映画と素晴らしい監督が誕生した。

(取材・文:新谷里映)


映画『追憶と、踊りながら』
5月23日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

監督・脚本:ホン・カウ
出演:ベン・ウィショー、チェン・ペイペイ、アンドリュー・レオン、モーヴェン・クリスティ、ナオミ・クリスティ、ピーター・ボウルズ
原題:LILTING
イギリス映画/2014年/英語&北京語/カラー/86分
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:ムヴィオラ

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アーティスト情報

ベン・ウィショー

生年月日1980年10月14日(37歳)
星座てんびん座
出生地英・ハートフォードシャー

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