「変身したい男たちには、特に観てほしい」―映画『ローリング』冨永昌敬監督インタビュー

冨永昌敬監督

冨永昌敬監督

冨永昌敬監督の映画『ローリング』は、軽やかにして深遠である。その筆致は、豊かさを秘めた書物のページをめくる快感と、読み進んでいく愉悦を、わたしたち観客に与える。

「これまで作ってきた映画でも、登場人物の誰かが何かしらのモノローグをしゃべるんですけど、今回がいちばん必然性のあるものになったような気もします。たとえば『パンドラの匣』は、かなりリアルタイムな心境を主人公が(心の声として)話していた。今回は、権藤という主人公のひとりが、何もかも経験した上で語っている。ちょっと時制が違うんですよね。それで、そもそも狙っていなかったような「まとまり」が出来ちゃったのかな、という気もします。たぶん、ナレーションがなかったら、また違うことになっていたと思います。前に作っていたものは、ナレーションを半分に減らしても、そんなに(作品として)変わらなかったんじゃないか(笑)。今度のは、必要なところに、必要なことばが、しかも、振り返って(過去のこととして)ちょっと後悔しているような感じで権藤が語っていることが、「読んでいく」ような感覚に、もしかしたら一役買っているのかもしれません」

(c)2015「ローリング」製作委員会

(c)2015「ローリング」製作委員会

盗撮で捕まり、教職を失った権藤。彼は流浪の果てに、かつての教え子、貫一と再会。ひとりの女性をめぐって、男たちの奇妙な行方が描かれていく。
最初は28歳の青年、貫一のモノローグで脚本を書き始めた。しかし、途中で止まった。43歳の権藤に視点を切り替えた。すると、全部を書き上げることができた。「それは、単なる、自分の加齢かもしれない」と笑う。
先生が好きな子供だったという。もし、先生が性犯罪などの不祥事を起こし、教職を追われたら? そんな、いたたまれない妄想を、切り裂かれた気持ちで描いた。元教え子の側からではなく、元教師の側から。

「もし、そんなことがあったら、僕自身、貫一のように、先生に対してお節介を焼くと思うんですよ。『先生、こうしたほうがいいよ』と。そして、もし、僕が権藤だったら、『俺はこれから変わるんだ』ということを疑わない。『俺はもっと良くなる』と思う(笑)。男が変身する。振り返れば、これまでも自分の映画のテーマになっているようなところがあります。今回はハッキリ、変身しなければいけない理由が、この物語のなかにあった。そうして、権藤はゆっくり不良になっていくんです」

(c)2015「ローリング」製作委員会

(c)2015「ローリング」製作委員会

悲惨な物語ではある。しかし、どこか大らかな息吹きがある。なぜかほっと和んでしまうような、意外な結末も待っている。その流れ方、事象がローリングしていく様、テクスチャは、冨永監督にしか生み出せないもので、それをたとえば「映画による文学」と呼んでしまいたい誘惑にも駆られる。

「わかりやすい物質がいくつか出てきます。おしぼり、ハードディスク、電動ドリル、骨、鳥の巣……あと、ソーラーパネルですね。ソーラーパネルは画面に物質としては出てこない。これは、ある意味、ソーラーパネルを使いこなせなかったひとたちの話だから、出しちゃいけないと思ったんですね。彼らには、手が届かないもの、というか。20年後、30年後には、なぜソーラーパネルにここまで? と思うでしょう。でも、いまはソーラーパネルごときに狂奔する人がいる、ということなんです。ときにひとは、ソーラーパネルを前にして、太陽さえも俺のもの、みたいな錯覚をしてしまう」

(c)2015「ローリング」製作委員会

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冨永監督があげた「アイテム」に翻弄されるひとびとの右往左往ぶりは、滑稽なまでに愚かだが、その見つめ方は決して冷徹ではない。なんとも形容しがたい、体温がそこからは感じられる。

「想像力が欠如しているわけではない。都合のいいことだけ、想像をふくらましている。でも、現実にそういうひとはいるじゃないですか」

そう、これは安易な共感を求める「わたしたちの物語」ではなく、わたしたちの隣にいるかもしれない誰かをめぐる「隣人の物語」なのである。その、単に感情だけに訴えるのではない豊かなフォームこそが、「文学」を想起させるのだ。
たとえば、電動ドリルをめぐる、あるパッショネイトなシークエンスは、わたしたちに未知の感動を呼び起こす。なぜ? こんなことを! 極端なことを言えば、その光景は、あるとき文明というものを軽々と超えてしまう人間たちの、愚直で純粋な前進に他ならない。

「結果的に、文明と無関係でいられる、という意味では登場人物はかなり前向きに、間抜けだと思うんですよ。あんまり無能であることに困ってはいない。無能であることを受け入れれば、エラーも含めて前向きにはなれると思うんです。親近感なのかどうかわからないですけど、そういうひとが出てくる映画を作りたい気はします。あまり頭脳明晰なひとは、自分の映画には登場してほしくない。逆に、単純粗暴で反射神経だけで生きてるみたいなひとでなければ、ああいう映画ならではのアクションは起こらない。映画を面白くするために、登場人物を無能にしてしまうのは、自分のダークサイドなのかもしれませんが(笑)」

(c)2015「ローリング」製作委員会

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とはいえ、冨永監督が作り出す世界は、決して現実から隔絶しているわけではない。そこは、決して、異人変人が跋扈するユートピアではないのだ。

「自分の世界ありき、になってしまうと、なんでもありでルールがなくなってしまう。だから、なるべく現実の世界と地続きであるフリをしながら、異世界とつながるようにしたい。こんなに間抜けなことってあるか? という場面がしばしばあると思うんですが、でも、自分は、そういう間抜けなひとや出来事を、ニュースやひとから聞いた話で知っている。それはあるよ、という気持ちがあるんです。だから、そんなに荒唐無稽にはなってないと思う。ニュースでも、なんでそうなるの? という痛ましくも間抜けな出来事、事件があるじゃないですか。(犯人が)ものすごい突飛な供述をして、もう吹き出してしまうような。(事件の)当事者はほんとうに可哀想ですけど。僕たちはそういうことが『起こりえる』ということを知っているはずなんですよね。それを思い出してもらえたら、という気持ちもあります」

つまり、現実と延長コードでつながれた世界。

「痛ましく、嘆かわしいほど、間抜けな事件が起こったとき、そこには切実な訳があるのではないか。自分が、先生の不祥事や事件に興味を持ってしまうのは、ちょっと話を聞いてやりたくなるからでしょうね。ニュースになってる部分しか見なければ、何を馬鹿なことを、と思うのが大多数ではあると思いますけど、ひょっとしたら、それなりのワケがあってのではないか。ニュースでは絶対報じられない部分が気になるんです」

(c)2015「ローリング」製作委員会

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それにしても。なぜ、「変身する男」に惹かれるのだろう。

「自分が変身したいわけじゃないんですけど、どうしても変身したいひとに興味が向いちゃって。世の中には、自意識の過剰なひとと、足りないひとがいますよね。こんな仕事をしている僕らはたぶん、過剰な人間がほとんどだと思う。一方で、自意識の足りないひとを街で見かけたときの感動を、大事にしてるんです。自意識が足りないという表現は大げさかもしれないけど、人目をあまり気にしない、というか。たとえば、自分の独り言に気づいてないひととか。自意識とどう付き合うか。そのコントロールは誰にとっても無縁ではない。それがあるとき変身を経て、すべてを放棄し、自意識ゼロになる。自分が何者でもかまわなくなる。たとえば、お金がなくても、女にモテなくても、どうでもよくなる。それもひとつの変身です。そこまでいくと、すがすがしいというか。こっちが気後れするくらいに。ひょっとしたら、そういうことに憧れているのかもしれない。あるとき、何かをきっかけにして、ひとは変身するのではないか。そこは今回、自分にしては丁寧に描いたつもりです。変身したい男たちには、特に観てほしいですね」

(c)2015「ローリング」製作委員会

(c)2015「ローリング」製作委員会

(取材・文:相田冬二)


映画『【ローリング】ROLLING』
6月13日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開!

監督・脚本・プロデューサー:冨永昌敬
出演:三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太、松浦祐也、礒部泰宏、橋野純平、森レイ子、井端珠里、杉山ひこひこ、西桐玉樹、、深谷由梨香、星野かよ、高川裕也
製作:ぽてんひっと スタイルジャム カラーバード マグネタイズ
配給:マグネタイズ
配給協力:プロダクション花城
宣伝:カプリコンフィルム
2015年/DCP/93分/カラー

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