辻村深月がおすすめする青春と思春期の光と残酷さを描いた傑作9本

少年少女の思春期特有の葛藤や繊細な心の機微をすくい取った作風が幅広い層から支持される村深月さん。紹介してくれたのは、甘くも苦いあの感情が甦る9本。


辻村深月がおすすめする青春と思春期の光と残酷さを描いた傑作9本

『リリイ・シュシュのすべて』

インターネットの掲示板を利用して書かれた実験的な小説を映画化。同級生からのいじめに苦しむ中学生を中心に14歳の少年少女たちの心の闇や痛みを描き出す。

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『青い春』

男子高校を舞台に、退屈な日常をやり過ごし、いらだちを募らせる不良高校生の日常と仲間同士の確執を描いた青春群像劇。原作は漫画家、松本大洋の短編集。

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『狼少女』

昭和の時代、見世物小屋に興味をもつ少年と、転校生の美少女、いじめられっ子の少女の交流。『トワイライト ささらさや』の深川栄洋監督の初の劇場用長編作品。

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『つぐない』

イアン・マキューアンの小説『贖罪』を基に、13歳の少女の過ちで引き裂かれた男女の運命を描く。第80回アカデミー賞®で作品賞ほか全7部門の候補となり作曲賞を受賞。

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『ゴーストワールド』

冷めた目で世の中を見つめ、周囲をどこかバカにする幼なじみの女子二人。一人が就職し、前に進み始めたことで二人はすれ違っていく。原作は米国のコミック。

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『エレファント』

銃乱射事件の犯人や被害者となる高校生たちの、事件当日の一日を淡々と描く青春群像劇。第56回カンヌ国際映画祭で史上初となる監督賞とパルムドールをW受賞。

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『桐島、部活やめるってよ』

第22回小説すばる新人賞を受賞した、朝井リョウのデビュー作を映画化。クラスの人気者、桐島が部活を辞めたという噂が広まり同級生それぞれの思いが浮き彫りになる。

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『カラフル』

森絵都の同名小説を『河童のクゥと夏休み』の原恵一監督がアニメ映画化。死んだ“僕”が天使から“小林真”という中学生として人生をやり直す機会を与えられる。

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『パンズ・ラビリンス』

スペイン内戦後の'44年。独裁政権軍大尉である義父から逃れたいと願う少女が、ある晩現れた妖精に導かれ森の中の迷宮へ。迷宮の番人から3つの試練を課せられる。

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青春の残酷さをえぐる作品それでも私のように救われる人が必ずいると思う

『リリイ・シュシュのすべて』© 2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS

『リリイ・シュシュのすべて』(C)2001 LILY CHOU-CHOU PARTNERS

大学4年生の頃に映画館で観て以来、誰かに「いちばん好きな映画は?」と聞かれるたびに迷いなく『リリイ・シュシュのすべて』と答えています。田園風景の中で、あんな風にヘッドフォンから歌を聞いた記憶がきっと誰にでもあるはず。

10代の頃の、現実が残酷であればあるほど世界がきれいに見えた時間のすべてを封じ込めた名作。あまりに好きすぎて、私はDVDもブルーレイも持っているのに、いまだに2回目を観られずにいます。こんなようなことをあちこちで発言していたところ、私のその記事を読んだという、とある青春漫画の名手である漫画家さんから「僕もこの映画大好きだけど、これ好きってあまり人に言えなくない?」と聞かれました。青春の残酷さをこれでもかとえぐる映画でもあるので、それもよくわかる……と思う一方、それでも聞かれると真っ先にお薦め映画として答えてしまう。それは恐らく、この映画で私のように救われる人が必ずいる、と思うからなのでしょう。

“屋上”が印象的な『青い春』『狼少女』は子ども時代のままならなさを見事に表現

『狼少女』© 2005『狼少女』フィルムパートナーズ

『狼少女』(C) 2005『狼少女』フィルムパートナーズ

『青い春』はミッシェル・ガン・エレファントの音楽とともに流れるトレーラーに度胆を抜かれ、あまりのかっこよさに立ちくらんだ記憶があります。衝撃のラストまでとんでもない疾走感とともにつれていかれます。“屋上”という、ともすれば青春時代には開放的な空気とともに描かれがちな場所に漂う逃げ場のない圧迫感と、ぎりぎりに漂う死の気配。クライマックス、屋上のフェンスの前に立つ青木の背中と、その下に流れていく時間の速さは、何度思い出しても震えるくらいすごい映像です。

今を代表する俳優たちの若かりし日の演技が見られる、という点でも神がかった瞬間を切り取った映画なのだと思います。出演する誰の姿も、すべて必見。松本大洋さんの原作の漫画を読んでいて結末を知っている、という人にもぜひ観ていただきたいです。私は知っていたからこそ、画面から片時も目が離せませんでした。

私が深川栄洋監督のファンになったきっかけの作品『狼少女』。映画館に観に行って、過呼吸になるかと思うくらいに号泣しました。別れや疎外されることや、そんなわかりやすい言葉で語れない、子ども時代のままならなさをここまで表現した映画はないと思います。「この気持ちがわかる」という切なさで胸が何度も押されるのです。

例えば、ずっと友達がいなかったときに、最初にできた友達と遊ぶ楽しさ。厳しいお母さんに怒られて、すごく悲しいけど、それでもそのお母さんのことが好きでどうしようもないこと。大人だったらもっと言葉にして伝えられる大事なことが、言葉にしない分、もどかしいけど純粋なまま、この映画のなかにはたくさんたくさん表現されています。

『ゴーストワールド』© 2001 UNITED ARTISTS FILMS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『ゴーストワールド』(C) 2001 UNITED ARTISTS FILMS INC. ALL RIGHTS RESERVED.

“後悔”に思いを馳せる『つぐない』少女二人の鬱屈に共感する『ゴーストワールド』

『つぐない』Film © 2007 Universal Studios. All Rights Reserved.

『つぐない』Film (C) 2007 Universal Studios. All Rights Reserved.

若さゆえの潔癖さと嫉妬から姉とその恋人を苦しめる過ちを犯してしまった主人公ブライオニー。生涯にわたって、その時間に還り続け、戻らない時間の中で生きるというのがどういうことか。罰せられることすらもはや望めない彼女の後悔に、観終わってから数年が経った今も時折思いを馳せます。ジョー・ライト監督は、そのフェティッシュなほどの映像美が癖になって、新作が楽しみな監督ですが、『つぐない』は、その後悔の時間とともに流れるピアノの音の演出が本当に見事。

主演が、ソーラ・バーチとスカーレット・ヨハンソンという最強とも言うべき組み合わせの『ゴーストワールド』。LA郊外の退屈な街に住む二人の鬱屈が、最初は両方ともわかる……と思いながら観ていたのですが、徐々にソーラ・バーチ演じるイーニドの不器用さの方に気持ちをわしづかみにされていきました。自意識を持て余し、虚勢を張って、大事な人を傷つけて、それでも自分でもどうしようもない彼女が本音を語ることで丸裸になっていくシーンは胸が痛いです。

そんな彼女が親しくなる、冴えない中年男を演じるスティーヴ・ブシェミもすごくいい。アメリカでも日本でも、同じようにこの種の地方の空気みたいなものがあるんだ、と衝撃を受けました。ラストでイーニドが選ぶ決断も静かに深く感動的。これは私のための映画だ、と強く思います。

高校生の日常と非日常
言葉にならないさまざまな感情を切り取った2作

『エレファント』© 2004 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.

『エレファント』(C) 2004 Home Box Office, Inc. All Rights Reserved.

'99年に起こったコロンバイン高校の銃乱射事件をテーマにした『エレファント』。淡々とした日常のなかに惨劇が起こるというのはどういうことなのか。説明をしてしまうより、まずは観ていただきたい。鬱屈、暴走、閉塞感。私は常々、そうした言葉で名づけるのではなく、その枠組みに当てはまらない感情を物語の形にして届けるのが小説家の仕事なのかもしれないと思っているのですが、この映画は、その「物語の形」すら拒んで相手にしない、そういう途方もなさを描いた傑作だと思います。

『桐島、部活やめるってよ』は“高校生”をやったことがある人なら誰しもが誰かに共感できる映画だと思います。現役の高校生からかつての高校生まで、みんながわかる感情にあふれていて、観ながら何度も胸がきゅんとなったり、もどかしさに「あーっ!」と頭を抱えたり。ラストに起こるささやかな邂逅の奇跡(あえて、私はこれを奇跡と呼びます)には、絶句するほど感動しました。

あまりの感動にDVDを購入したのですが、映画本編に加えて、出演者のオーディオコメンタリーがすごくよくて、映画の内側と外側、両方にまばゆいほどの青春の時間が流れていたんだなぁと、そのこともとても嬉しく感じた作品です。

心の中に、“地底の王国”を持てる人は、それを持たない人に比べてずっと強いはず

『カラフル』© 2010森絵都/「カラフル」製作委員会

『カラフル』(C) 2010森絵都/「カラフル」製作委員会

森絵都さんの同名小説のアニメ映画『カラフル』。一度死んだ“僕”が、中学生“小林真”として人生をやり直す、という設定がものすごく魅力的。

この話に出てくる佐野唱子ちゃんという少女が私は本当に大好きで、彼女が“小林真”をどう見ていたか、というのを語るシーンで毎回涙してしまいます。恋愛としての好きとか、そういう全か無か、みたいなだけでない、好き、いいと思ってる、という感情をものすごく丁寧に語ってくれたあの場面には、共感できる人がたくさんいるはず。自分が見ていなくても、誰かが自分を見ていてくれるということの嬉しさと希望をストレートに伝えてくれます。大人になってから観ても十分共感するけど、リアルタイムに見られる人たちのことが私は本当に羨ましいです。

『パンズ・ラビリンス』の主人公の少女、オフェリアが生きる現実と、ダークファンタジーに分類される世界のあり方は、非現実を描いているようでいて、現代の思春期を生きる私たちの姿そのものだと思います。人間は──特に思春期の頃は、むきだしの現実だけを生きることは絶対にできなくて、心の中にたくさんの他の現実を持つことで日々を過ごすものだと思います。

『パンズ・ラビリンス』© 2006 ESTUDIOS PICASSO,TEQUILA GANG Y ESPERANTO FILMOJ

『パンズ・ラビリンス』(C) 2006 ESTUDIOS PICASSO,TEQUILA GANG Y ESPERANTO FILMOJ

私は10代の頃、学校と家の往復ぐらいしかしていなかったにもかかわらず、それを意外に思うくらい、本や映画を観ることで、あちこちにたくさん出かけたような気になっていました。それを話すと、よく“現実逃避”のような形でざっくり語られてしまうことが多く、そのことも本当に嫌で嫌でたまりませんでした。そのため、「何重にも折り重なった現実を二重写しのように生きてきたのだ」と言い張ってきました。

『パンズ・ラビリンス』のオフェリアが招かれた地底の王国は、私が生きてきた、そういう世界と似ている気がします。心の中に、より強い地底の王国を持てる人は、それを持たない人に比べてずっと強いはず。このことを描いてくれてありがとう、とギレルモ・デル・トロ監督にお礼を言いたいです。


辻村深月

辻村深月

1980年山梨県生まれ。『鍵のない夢を見る』で第147回直木賞を受賞、'13年にTVドラマ化された。ほか、著書の映画化作品に『ツナグ』('12)、『太陽の坐る場所』('14)がある。

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アーティスト情報

辻村深月

生年月日1980年2月29日(38歳)
星座うお座
出生地山梨県笛吹市

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