「ひつじはひつじらしく牧場に」―『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』リチャード・スターザック監督インタビュー

監督の手元にあるのは、実際に撮影で使用されたフィギュア

監督の手元にあるのは、実際に撮影で使用されたフィギュア

世界有数のストップモーション・アニメーション・スタジオとして知られる英国のアードマン・アニメーションズ。これまでに『ウォレスとグルミット』や『ひつじのショーン』といったシリーズを生み出し、米国アカデミー賞では10回ノミネート、4回の受賞歴を誇る凄いスタジオだ。そのアードマンが新作として世界へ送り出すのは、生誕20周年にして初の長編映画化となる『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』。TVシリーズのスタートメンバーであるリチャード・スターザック監督に『ひつじのショーン』の誕生&制作秘話、作品に込めた想いを聞いた。

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

──『ひつじのショーン』は『ウォレスとグルミット 危機一髪!』に登場したキャラクター、ショーンを主人公にしたスピンオフとして2007年からテレビシリーズが始まりました。そのテレビシリーズの監督を任されたわけですが、どうやって『ひつじのショーン』の骨格ができていったのでしょう。

「まず、アードマンに呼ばれてテレビシリーズのストーリーのアイデアを出してくれって言われたのがそもそものスタートでね。僕が呼ばれた時点でのひつじのショーンのキャラクター設定は── 1.コンピューターを使いこなせる 2.お金持ち 3.ガールフレンドもいる──何とも英雄的なひつじだった。でも、そこからストーリーは全然浮かんでこなくて。提案したのは、ひつじはひつじらしく牧場にという発想。ひつじたち、牧場主、牧羊犬が牧場という会社で働くような感じかな。そうすることでショーンたちに問題(=困難)を与えることができると思ったんだ。面白いストーリーにはキャラクターたちが立ち向かう問題がないと始まらないからね。

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

──なるほど。今回はショーンたちが牧場主にいたずらを仕掛けたことで牧場主が都会で大変なことになるお話。彼を救い出すミッション(=困難)が与えられますが、アニメーターにとっては映画の85分をセリフなしでというのはかなりの挑戦だったのではないですか。

そうなんだ、長編でセリフがないのはものすごく大変だった。セリフなしで映画を成立させるために一番重要だったのはストーリーで、そのストーリーのなかでキャラクターたちがその時々に何を考えているのかを観客が瞬時に理解できなくてはならないからね。セリフがあれば簡単にキャラクターの気持ちを伝えることができるけど、セリフがないとそれは難しくなる。ひつじたちの間にひつじ語はあるけれど、それは僕らには分からない設定だしね(笑)。そして、台本をもとにした絵コンテにそってアニメーターがひとつひとつキャラクターのモデルを動かして撮影をしていくんだよ。

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

──撮影された写真は25枚で1秒の映像となるそうですが、85分の映像になるまでは気が遠くなる作業ですね。

そうだね(笑)。そのキャラクターがどういう動機でどういう気持ちなのかというのを動きで表現していくのがアニメーターの仕事、まさに俳優だね。僕ともう一人の監督のマーク・バートンの役割はアニメーター全員にどういう映画になるのかを把握してもらうために指示を出すことで、撮影は20以上のスタジオで同時に進められているんだけど、全員が最新の情報(=絵コンテ)が見られるシステムになっているんだ。

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

──その数からもストップモーション・アニメーションがどれだけ大変なのか伝わってきます。アードマンのアニメーター集団は自分たちの作るアニメーションの他にどんなアニメーションに興味を持っていますか。

アードマンのアニメーターやスタッフ全員、日本のスタジオジブリ作品のファンだよ。もちろん私もね。僕が一番影響を受けたのは『千と千尋の神隠し』。描かれている日本的な文化をすべては理解できていなくても、あのシュールさや心が温かくなる物語が好きなんだ。『ひつじのショーン』もそうだけど、基本的に家族の話であることも好きな理由。ジブリといえば、面白いエピソードがある。ブリストルで行われる映画祭に『ハウルの動く城』が上映されたとき、映画祭の知り合いから「宮崎駿が来ているぞ! 舞台挨拶があるからすぐに来いよ! ほとんど喋らない人だから彼の舞台挨拶は貴重だぞ! 急げっ!」って連絡がきて、慌てて2マイル(約3.2キロ)ほど離れた仕事場から走って会場へ行ったんだ。無事に間に合ったんだけど、宮崎さんが話したのは「Hallo!」のひと言だけだったというね(笑)。

ダッシュ、したのに…/(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

ダッシュ、したのに…/(C)2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

──(笑)今ではアードマンとジブリはお互いを尊敬しあう存在として交流があるそうですが、その背景にはそんなエピソードがあったんですね。続いて、ひつじたちのリーダー格のショーンをはじめ牧羊犬のビッツァー、ひつじの赤ちゃんのティミーとママなど、それぞれのキャラクターに個性がありますが、監督の一部を反映させているキャラクターはいるのでしょうか。

似ているとしたら牧場主かな(笑)。顔の輪郭とか見た目が似ているというのもあるけど、中年で、ちょっぴり短気で怒りっぽいのは僕にそっくりかもしれない。というのは、僕のキャリアはアニメーターからスタートしているけど、クレイ・アニメーションはとにかく時間がかかる。短気だからすぐにイラついてしまって……。アニメーターより監督&脚本の方が性に合っているんだろうね(笑)。

(C) 2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

(C) 2014 Aardman Animations Limited and Studiocanal S.A.

──脚本を作るうえで、今回は新たなキャラクターとして動物捕獲人のトランパーと都会をさまよう野良犬スリップを誕生させています。この新キャラに託したものとは何でしょう。

トランパーに関しては町に行ったショーンたちに障害がないとストーリーとして面白くならないので、トランパーは最初から障害=悪役として登場させようと思っていて。ただ、最初はコンプレックスのあるチビの牧場検査人っていうアイデアもあったんだけど、最終的には捕獲人というキャラクターに落ち着いた。スリップに関しては、無声映画の時代のチャーリー・チャップリンの映画に出てくるマッチ売りの少女のような孤独な存在として作ったキャラクターで、同時にスリップはショーンたちに町中を案内する役割もある。みんなが可愛がってくれたら『ウォレスとグルミット』からショーンが飛び出したように、スリップが主役になる可能生もあるかもしれないね(笑)。

中央の男性キャラクターがトランパー

中央の男性キャラクターがトランパー

セリフが一言もないのに、ショーンたちのいたずらにワクワクドキドキして、家族の繋がりにジーンと胸が切なくなって、笑ったり驚いたり……さまざまな感情を刺激してくれる『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』。老若男女すべての人の心を動かす凄い映画が誕生した。

(取材・文/新谷里映)


『映画 ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~』
7月4日(土)より 新宿ピカデリー他全国ロードショー

原題:『Shaun the Sheep The Movie』
監督・脚本:マーク・バートン(『ウォレスとグルミット野菜畑で大ピンチ!』『マダガスカル』)、リチャード・スターザック
製作:アードマン・アニメーションズ(イギリス)、スタジオ・カナル(フランス)
2014年/イギリス/アニメーション/英語/カラー/85分
Presented by スターチャンネル
配給・宣伝:東北新社

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