「観ているひとが身近に感じる作品を作りたいと思ったんです」―映画『この国の空』二階堂ふみインタビュー

二階堂ふみ

芥川賞作家、高井有一の同名小説を、名脚本家、荒井晴彦が、自らメガホンをとって映画化した『この国の空』。終戦間近の東京で、妻子と離れて暮らす隣家の中年男、市毛と密やかな時間を育む19歳、里子を演じた二階堂ふみは、目の覚めるような存在感でヒロインを体現している。

「(里子と市毛の関係は)許されぬ恋とはまた違うかなと。私は恋でもなければ愛でもないと思っていて。戦争というものが背景にあって。人間の、生きる、食べる、欲する、というものをすごく素直に描いた作品。だからこそのふたりの関係かなと思っているんです。里子というキャラクターをいただいたときに、荒井監督が書かれた脚本がすごく綺麗な日本語で。戦争という状況下を生きるということと、死んでしまうかもしれないということ。生死をすごく感じたし、ギリギリのところで生きている人間の言葉に、重みを持たせたかったんです。なので、成瀬(巳喜男)監督や小津(安二郎)監督の作品の、あの時代の女優さん特有のしゃべり方、日本語がすごく綺麗に引き立つようなしゃべり方を、今回は徹底的に作り込んで。口調と動作をかなり作り込みました」

(C)2015「この国の空」製作委員会

(C)2015「この国の空」製作委員会

成瀬作品における、高峰秀子を彷彿とさせる。そう伝えると、目が輝いた。

「うれしいです。私のいちばん好きな女優さんなので」

それは単なる模倣ではない。2015年に公開される映画における、ある種の「映画的説得力」として、日本語を大切にした芝居が、確かな機能を果たしている。当初、私は、この演じ方は監督の指示だと考えていた。ところが、二階堂は自発的にそれをおこなっていた。彼女は、映画を、俯瞰から見つめることのできる演じ手なのである。

「この映画をやると決まる前から、あの時代の女優さんのしゃべり方って、なんであんなに綺麗で、日本語が引き立つもので、それでいて、力強さがあるんだろう。あのしゃべり方って、ほんと素敵だなあと思っていて。ああいうセットとか、ああいう状況、背景に入ると、現代のしゃべり方だとちょっと違和感が出てくるじゃないですか。やっぱり、そこは大事だと思うんですよね。背景や、状況や、設定によって、言葉って変わるし、ニュアンスも変わる。ってことは、しゃべり方や、声の質や仕草は、キャラクターづくりとしてすごく大事だと思ったので」

そう。映画は、映画にふさわしいリアリティを作り出すもの。演じ手もまた、そうした映画的リアリティに自覚的でなければいけない。

(C)2015「この国の空」製作委員会

(C)2015「この国の空」製作委員会

「戦争という、70年前に本当にあったことを扱った作品に自分が関わるときには、やっぱり、観ているひとが身近に感じる作品を作りたいと思ったんです。自分とは全然違うような人間が、遠い世界でやっていたこと、じゃなくて。この国で、自分と同じような人間が、そういうことを体験していたということを、やはり肌で感じる作品を作りたいと思いました。戦争というものを語る上で、ちゃんと腑に落ちるように。非日常として見せてはいけない、その意識はありました」

相手役の長谷川博己とは、園子温監督の『地獄でなぜ悪い』で共演していた。

「もともと仲がいいので、現場では距離を置くようにしていましたね。やっぱり、あのふたりは近いようで、全然違う方向を見ているし、違うものを見ているし、全然噛み合ってないと思っていたので、なるべく心の距離は保つようにしていました」

(C)2015「この国の空」製作委員会

(C)2015「この国の空」製作委員会

里子と市毛の関係は、恋でも愛でもない、と語る二階堂ならではの洞察と実践である。

「理屈で動いているキャラクターではないと思っていました。ふたりとも、あくまでも戦争の被害者だと思うんです。戦争があったから、里子と同世代の男はいなくて、たまたま市毛がいた。それだけだと、私は思っていました。戦争さえなければ、市毛は家族と幸せになれたのかもしれない。里子は里子で、若い男の子と恋をして、楽しんで、結婚をして、ということを迎えられたかもしれないじゃないですか。(だから、ここで描かれているのは)やっぱり、生きる、っていうことですよね。だから、食べるシーンも多くあるし。人間、時代が違えど、生きるっていうことは、動物と同じで、食べること、寝ること、欲すること、これが大事だなと。その状況下にあるふたりだと思います」

里子のなかにある「強さ」に惹かれたという。

「いまとは、時代的にも、社会的にも違うんですけど、精神的な芯の強さは、私の祖母とかを見てても思うんですけど、戦争というものを生き抜こうとする女性の強さはすごく感じて。生命力というか。それが若さなのか、それとも、あの時代の女性だからなのかとか、いろんなふうに読み取れるんですけど、里子自身が持つ強さが、映画の最終盤にさしかかるときに女として確立する、と私は思っていました。なので、しゃべるときも、所作も綺麗なんだけど、食べるときは必死。そこは私のなかで意識したツボでした(笑)」

(C)2015「この国の空」製作委員会

(C)2015「この国の空」製作委員会

考えてみれば、高峰秀子も、日々を暮らす=生きるということの強さを感じさせる女優だった。

「生命力を感じる女優さんですよね。覚悟が決まっていて、ちゃんと、そこにいるようなーー」

それは、いまの二階堂ふみにも言えること。
彼女が初めて観た高峰の映画は『名もなく貧しく美しく』(1961)だったという。
おそらく、覚悟はそのときから決まっていたのではないだろうか。

二階堂ふみ

(取材・文:相田冬二)


終戦70周年記念作品『この国の空
全国公開中

出演:二階堂ふみ、長谷川博己、富田靖子、利重剛、上田耕一、石橋蓮司、奥田瑛士、工藤夕貴
脚本・監督:荒井晴彦
原作:高井有一「この国の空」(新潮社)
詩:「わたしが一番きれいだったとき」茨木のり子
製作:「この国の空」製作委員会
制作プロダクション:ステューディオスリー KATSU-do
協賛:大和ハウス工業
配給:ファントム・フィルム KATSU-do

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二階堂ふみ

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