最後のマカロニ西部劇『ミスター・ノーボディ』

私が紹介したい映画は『ミスター・ノーボディ』だ。1973年、一世を風靡したマカロニウエスタンも斜陽を迎えた頃に公開された映画で、「最後のマカロニウエスタン」とも呼ばれる。原案は『荒野の用心棒』の監督セルジオ・レオーネ、主役2人をは若手のイタリア人俳優テレンス・ヒルと、『12人の怒れる男』などの名優ヘンリー・フォンダが演じている。

ミスター・ノーボディ

ミスター・ノーボディ

ぱっぱらぱーぱーぱっぱらぱー!

ストーリーは、謎の若い男“ノーボディ”が、そろそろ引退を考えている百戦錬磨の老ガンマンの最後の伝説作りを手伝い(唆し)、強盗団ワイルドバンチを相手取る、というもので、コミカルなアクションが中心の作品だ。監督はトニーノ・ヴァレリとなっているが、名匠セルジオ・レオーネがだいぶ手を加えているだけあって、名シーン・名セリフの連続で、異様に面白い。音楽もまた、エンニオ・モリコーネという豪華さで、映画も中盤になればテーマを共に口ずさんでしまう。とにかく楽しい。

「彼より早く?……ノーボディ」

オープニングは床屋の父子が無法者に襲われる場面から始まる。悪党たちを見事な銃捌きで倒したヘンリー・フォンダ演じる老ガンマンを見て、子供が「パパ、あの人より早く撃てる人なんているの?!」と驚くと、床屋はこう言う。「彼より早く?……ノーボディ(誰もいない)」床屋の意図せぬこのセリフが、この映画の主人公、テレンス・ヒル演じる“ノーボディ”のかっこよすぎる初紹介となる。フランコ・ネロ似の男前な顔つきと、無邪気に振りまく笑顔、飄々とした振る舞い、そして完全無敵のガンプレイには、老若男女、総ノックアウトされるに違いない。こんなに最強な“ノーボディ”がさらに愛しいのは、彼の少年っぽさゆえである。川の中で棒を振りかぶったまま、水面に浮かべたハエをじっと見つめる男。突然バシャンと棒を振り降ろし水中へ沈みこみ、再び現れた彼の手の中にはぴちぴちはねる大きな魚と満面の笑み。主人公の登場シーンだ。幼児のりんごを拝借し、悪党を日差し除けに利用し、トイレで対面の男と無言でコミュニケーションし、と人懐っこい笑顔で状況を上手く切り抜けていく。特に、りんご泥棒の腕は超一流なので必見。

ヘンリー・フォンダvsワイルドバンチ

150人のワイルドバンチを老ガンマンがたった1人で倒していくシーンが素晴らしい。銃声と爆発音の中で、めっためったと倒されるワイルバンチが次々にセピア色の写真に変わっていく。ただでさえ目が釘付けになるシーンだが、さらに感動するのは、地平線の向こうからゆらゆらと幽霊のように姿を現すワイルドバンチを西部劇の雄であるヘンリー・フォンダが倒す、という構図に気づいた時だ。映画は新しい時代へと向かい、西部劇は古臭い歴史の中に取り残される。1つの時代の終焉。過去の数々の西部劇の名作への憧憬、決別、哀愁を感じずにはいられない。最後、西部劇の未来は、“ノーボディ”、つまり、西部劇の英雄に子供のように憧れてきた全ての人々に託される。マカロニウエスタンながら、流血も女もほぼ無いほのぼのコメディ仕立てなので、マカロニ好きはもちろん、マカロニ初心者や子供の時のようなわくわくを求める全ての人にぜひ見てほしい。見終わった頃にはきっとフライパンを握ってチリコンカーンを食べたくなっているはずだ。

(文:haay95さん)


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