熊切和嘉がおすすめする「兄弟の固く、もろい絆を描いた」5本

人間同士の濃密な愛憎を生々しく映してきた熊切和嘉監督の心に、今浮かんできた映画は、“兄弟”の間に生まれる、ときに残酷な感情を切り取ったこの5本。


熊切和嘉がおすすめする「兄弟の固く、もろい絆を描いた」5本

ゴッドファーザー PARTⅡ

第47回アカデミー賞®で作品賞ほか全6部門を受賞したマフィア映画の傑作。亡父がマフィアのドンとなるまでの過去と、その座を継いだ息子の現在が並行して描かれる。

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男たちの挽歌

香港ノワールという潮流を作ったバイオレンスアクション。内部抗争に巻き込まれた香港マフィアの二人と、そのうちの一人の弟である刑事が不利な戦いに身を投じる。

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シンプル・プラン

同名ベストセラー小説をサム・ライミ監督が映画化したサスペンス。舞台は冬の田舎町。ふとしたことで大金を手にした3人の男が、金の処遇を巡りいさかいを起こす。

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リバー・ランズ・スルー・イット

20年代のモンタナで、フライフィッシングを通して交流する兄弟の絆を見つめたヒューマンドラマ。弟役のブラッド・ピットは、本作の好演で若手実力派の地位を確立。

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欲望のバージニア

30年代初頭、禁酒法時代のアメリカ。密造酒の取引で悪名をはせ、不死身を誇る実在のアウトロー3兄弟が、腐敗した悪徳取締官とスリリングな死闘を繰り広げる。

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自作の撮影前にもよく観る『ゴッドファーザー PART II』は“人生の重みをくらう”一本

『ゴッドファーザーPARTⅡ』Copyright (c) 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright (c) 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (c) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『ゴッドファーザー PART II』Copyright (c) 1974 by Paramount Pictures and The Coppola Company. All Rights Reserved. Restoration Copyright (c) 2007 by Paramount Pictures Corporation. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (c) 2014 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.

僕にも兄貴がいるんですが、彼は昔から勉強もスポーツもできて、いわゆる地方で輝くタイプの人でした。僕はそんな兄貴にずっとコンプレックスを感じていたので、こうして映画の道に進んだという経緯があります。だからなのか、兄弟を描いた映画には心を動かされてしまうんですよね。

『ゴッドファーザー PART II』は、シリーズを通してファミリー2世代の壮大な歴史が描かれていくなか、次男フレドと兄弟との関係が全体の柱になっている気がしますね。血の気の多い兄と賢い弟に挟まれ、何の取り柄もなく、どう個性を出していいのかわからないでいるフレドの悲哀がたまらない。演じるのはジョン・カザールですが、『ディア・ハンター』を観た直後だったので、当時、自分の中でブームの俳優だったんです。本当に不器用な感じというか、明らかに誰かの足を引っ張りそうなキャラじゃないですか(笑)。強盗の一味に彼がいるだけでハラハラさせられるというか、サスペンスになるんですよね。映画自体も本当に見事で、冒頭、シチリアから船で新天地NYに到着したヴィトーが自由の女神像を見つめるシーンから、もうしびれっぱなしでした。自分も映画の撮影に入る前、「とことん頑張ればこういうものが撮れるんだ!」と気合いを入れるためによくこの作品を観返すんです。僕にとっては“人生の重みをくらう”一本です。

『男たちの挽歌』(c) 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.

『男たちの挽歌』(c) 2010 Fortune Star Media Limited. All Rights Reserved.

監督とプロデューサーのジョン・ウーとツイ・ハークの“義兄弟”的な関係にも憧れる

中学生のときに初めて観て泣いてしまったのが、『男たちの挽歌』。兄ホーと弟キットが、裏組織の幹部と刑事という対照的な人生を歩んでいきますが、兄弟モノは二人の境遇が違えば違うほどドラマが生まれます。昔はじゃれ合いながら相手を殴っていたのに、今は本気で殴るという対比が見事ですし、そうした兄弟の確執だけでも泣かせるんですが、そこに絡んでくるのがホーの“義兄弟”マーク。僕、マークとホーのイチャイチャぶりがたまらなく好きなんですよ(笑)。ジョン・ウー監督は、こうしたイチャイチャを恥ずかしげもなく描くのがすばらしいですよね。僕もそうですが、日本映画ならまず照れて敬遠しそうな描写。でもいい意味でベタベタなので、女の人が観たらキュンとなるんじゃないでしょうか。普段こういった類の作品を観ない妻もこの作品には熱狂していましたから。僕はというと、兄と弟、義兄弟と3人それぞれに感情移入していたんですが、後半、いざというときに兄貴が頼りになるというところからはキットの視点で観ていましたね。ジョン・ウーと製作総指揮のツイ・ハークとの“義兄弟”的な関係にもとても憧れます。

『シンプルプラン』

『シンプルプラン』

サム・ライミにとって“あり得た別の人生”を描いた映画のような気がする

『シンプル・プラン』は、雪の田舎町で起こる、大金を巡る駆け引きを描いた陰鬱な犯罪映画。劇中の雪景色が、自分の育った北海道の原風景と重なりますし、いつかこういう映画を撮ってみたいと思わせる一本ですね。特に印象に残っているシーンは、ビリー・ボブ・ソーントン演じる兄ジェイコブが、昔の彼女が実は賭けに負けて自分と付き合ってくれていたのだと弟に告白する場面。本筋のサスペンスにはあまり関係のないシーンに見えるんですが、何とも言えない痛みがあって大好きなんです。同時期、同じような設定の作品にコーエン兄弟の『ファーゴ』がありましたが、コーエン兄弟って僕から見るととてもクレバーな監督。対照的に『シンプル・プラン』のサム・ライミ監督は、思いが先走っている感じが画面から伝わってくるんです。それに彼にも兄弟がいて、地方出身でアメコミと野球が好きで……と、なんだか感じるものがあるんですよ。この作品は、サム・ライミにとって“あり得た別の人生”を描いた映画なんじゃないかなと勝手に思いました。あともう一つ、兄弟の親友ルーがまた絶妙なキャラクターで。ジョン・カザールと同じく“何かをやらかしそうな雰囲気”がとても気になりました。

『リバー・ランズ・スルー・イット』(C)1992 by ALLIED FILMMAKERS, N.V. All Rights Reserved.

『リバー・ランズ・スルー・イット』(C)1992 by ALLIED FILMMAKERS, N.V. All Rights Reserved.

釣りのうまい人は強い人『リバー・ランズ〜』の兄と弟の生きざまに惹かれる

兄弟を描いた映画と言えば、『リバー・ランズ・スルー・イット』も入れておきたいですね。クレイグ・シェイファー扮する生真面目な兄が、ブラッド・ピット演じる自由奔放に生きる弟にコンプレックスを感じているというストーリー。うちとは逆パターンの関係です。僕もあまりに違う生き方の兄貴に、ずっと反発していたんです。実は今年('14年)の正月、40歳にして初めて兄貴と朝まで飲んだんですが、だんだん互いにけんかモードになってきて、最後は怒鳴り合いになってしまいました(笑)。この映画の兄弟は、一見兄貴がデキる人に見えるんだけど、実は弟の方が地に足が着いているという、とても残酷な関係だと思います。あと、この映画を挙げたもう一つの理由が、個人的に釣りが大好きだから。僕の場合はフライフィッシングじゃなくて磯釣りなのですが、釣りの極意は、映画を撮るのと一緒。スタッフと釣りに行くと「ウキを見るのは役者の芝居を見るのと同じ!」って聞かせるんです。半分冗談、半分本気で。釣りって、じーっと待っているようで、実は脳内でものすごく闘っているんですよ。海の中をイメージしながらだいぶ集中しますから。釣りのうまい人というのは、自然を読む力やセンスが問われる。社会的な立場とはまた違う、人間の本質の部分で、とても強い人だと思う。だからこそ釣りを共通の楽しみとする『リバー・ランズ・スルー・イット』の兄と弟の生きざまにはとても惹かれます。いつかフライフィッシングもやってみたいですね。でもハマったら仕事をしなくなりそうですが(笑)。

『欲望のバージニア』(C) MMXI by BOOTLEG MOVIE LLC. All Rights Reserved.

『欲望のバージニア』(C) MMXI by BOOTLEG MOVIE LLC. All Rights Reserved.

3兄弟を描いた『欲望のバージニア』は、なぜか“ボンクラ”感が漂う

兄弟は兄弟でも“3兄弟”って響きは、なんだか特別な感じがします。たとえばボクシングの亀田3兄弟も、三男の和毅が実はいちばん強いって言われているのがなんだかドラマチックじゃないですか。3兄弟モノの映画ではずせないのは、深作欣二監督が撮った『狼と豚と人間』というモノクロ映画。高倉健と三國連太郎、北大路欣也という何とも豪華な役者が、スラム街に生きるアウトロー3兄弟を演じています。北大路さん演じる三男が、たてこもる廃屋の中から「兄ちゃん、こっち来いよ!」って叫ぶシーンがあるんですが、そのあどけない眼差しが最高にツボなんです。
“兄弟のギャング”という設定に惹かれて観た『欲望のバージニア』に出てくるのもアウトロー3兄弟。しかも、不死身の伝説をもつ3人は、のどをかっきられても、銃弾を受けても死なない。とにかく痛快なエンターテインメントだなと思いましたね。シャイア・ラブーフ演じる三男の視点を通して、彼が一人前の男になるまでが描かれていきますが、彼から見たトム・ハーディが扮した次男は頼りがいがあって本当にカッコいいんです。悪役のガイ・ピアースも振り切っていましたし、3兄弟に絡む謎めいた美女役は『ツリー・オブ・ライフ』『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステインですし、とにかくシブい俳優をそろえているのもいい。それにしても、3兄弟って聞くと、なんだか急に“3バカ兄弟”的に“ボンクラ度”が増すのはなぜなんでしょうか。『欲望のバージニア』はある意味“3兄弟”という“ボンクラ”魂が炸裂していましたね。
毛色の違う作品が集まりましたが、我が家のDVDの棚は大体こんなラインナップです。嘘はついていません。自分もいつかはオリジナルの兄弟映画を撮ってみたいですね。兄役と弟役にイメージしている俳優もいます。北海道の田舎を舞台に、元ボクサーでパンチドランカーの兄と、彼に振り回される弟みたいな話ができたらいいですね。


熊切和嘉

1974年北海道生まれ。『海炭市叙景』('10)など多くの作品が国内外の映画祭に出品され高い評価を得ている。近作に、ロックバンド、THE BACK HORNとタッグを組み音楽で登場人物の心情を表現した異色作『光の音色 THE BACK HORN Film』('14)など。

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