「一番の策士は監督です」―映画『罪の余白』内野聖陽×吉本実憂インタビュー

内野聖陽&吉本美憂

内野聖陽&吉本美憂

あの人は何故、あんな行動に出たのだろう? 人の心理というのは理解できそうでできない、であるからこそ、人は自分を、他人を、知りたいと思うものだ。禁断の問題作として映画化された『罪の余白』は、娘を亡くした行動心理学者の父親と、その娘の死と深く関わっている邪悪な女子高生の対決を描いた心理サスペンス。娘を亡くした父親役の内野聖陽さんと、邪悪な女子高生役の吉本実憂さんは、どんな心理で撮影に挑んだのか──。

物語は、名門女子校に通う安藤加奈の転落死から始まる。娘の死にクラスメートの木場咲(吉本実憂)が関係していることを突き止めた父親の安藤聡(内野聖陽)は、咲に罪を認めさせようとするが、逆に彼女の策略にはめられてしまう。そんな世代の違う2人の対決が出演の「決め手となった」と言うのは内野さん。

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

「シナリオを読んだときに、大人の男と10代の女の子が対決する構図が面白いと思いました。しかも、その女子高生が、あり得ないほどクレイジー。聞けば大塚監督が、女子高生を鍛え上げるワークショップをするというんで、僕も監督にお願いして、カメラリハーサルに有志として参加させてもらうことにしました」

そのリハーサルは撮影前に約1ヵ月間行われ、その間に吉本さんは咲としての邪悪さを身につけなければならなかった。多くの俳優が「悪役をやってみたい」と憧れる役を19歳という若さで演じた吉本さん。本人も「いつかやってみたいと思っていた」そうだが、相当に難しかったはずだ。どうやって邪悪になったのか?

「自分は咲という役としっかり向き合えるんだろうか……と不安はありましたが、それ以上に、この役を演じるんだ! と燃える気持ちもありました。陰のある役をずっと演じることが目標のひとつだったので、こんなに早くチャンスをいただけたことは嬉しいです。でも、咲は“陰のある”レベルを通り越した残忍な悪魔でした(笑)」と微笑む吉本さんに咲の面影は残っていない。こんなに優しそうな彼女があの役を? と思わせるあの演技はさすがだ。内野さんは「どんどん邪悪な部分を育てていきなさい」と助言し、「敢えてコミュニケーションを取らなかった」と語る。

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

「人は、人と言葉を交わすことでコミュニケーションを取って心に安心を得ると思うんです。それはごく普通のこと。でも、その安心感は、僕らが演じた安藤聡と木場咲にはいらないと思った。咲にとって安藤というオッサンは邪魔な存在なわけですから、撮影中もそういう存在でいなくてはならない。素人っぽいアプローチですが、映像は正直なので、撮影の合間に和やかに話したりすると、ふとした瞬間にそれが映像に映り込んでしまうことがある。なので、できる限り吉本実憂を知らない方がいいと思い、『悪いけど、君とは話さないからな』と伝えました(笑)」。内野さんの真摯な役作りであり優しさだ。

また、彼が目指したのは「普通の父親」だった。「特殊な父親だと観客が共感できないと思ったので、常に普通の父親としてどうなのかを考えていました。愛する娘を持つ親が、その娘を失ったらどうなのか? 普通の男、普通の親が悶え苦しむ様を大事にしました」。普通であるからこそ、娘の死を受け入れられず、咲に翻弄され暴走していく。その安藤の崩壊っぷりが咲の邪悪さをより際立たせている。

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

一方、吉本さんは内野さんの芝居に刺激を受けつつ「木場咲として安藤聡を超えていかなければならないので、ものすごく集中していました」と、プレッシャーを口にする。なかでも印象的だったシーンは、安藤が怒りを抑えきれずに咲に手をあげるシーン。内野さんが説明する。

「そのシーンは、大塚監督と、ここは本気で殴った方がいいんじゃないですかね?って話していたシーンです。フリではなく実際に当たった方がやっぱりスイッチは入りますからね。リハーサルであっても、本気で小突いたりすると、吉本さんの表情が般若のような顔に変わるんです。お互いがすごく嫌な気分になりましたけど、吉本さんもそうやって咲の演技をつかんでいったと思います」という先輩の言葉にうなずきながら、もう一つ「印象的な演出があった」と撮影をふり返る。

「面白い演出だなと思ったのは、教室のバルコニーでのシーンです。安藤聡に向かって咲は、唇に人差し指をあてるポーズ(黙ってという意味)をするんです。ついさっきまで怒っていたのに急に優しくなる難しい演技で、監督からは、このシーンは『罪の余白』をいったん忘れて、別の映画を撮っていると思って演じて、と言われました。最初は、どういうことだろう? って思っていましたが、完成した映画を観て、そういうことかと」。喜怒哀楽を巧みに操る咲の演技の裏には、大塚監督の細やかな演出があったというわけだ。

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

(C)2015「罪の余白」フィルムパートナーズ

「一番の策士は監督ですからね(笑)」と内野さんが言うように、この作品に仕掛けられた罠に素直にはまり、振り回されることが『罪の余白』の楽しみ方につながる。こんなにも心かき乱される映画はそう滅多に出会うことはないだろう。

(取材・文:新谷里映)


映画『罪の余白』
10月3日TOHOシネマズ新宿ほかにて全国ロードショー

出演:内野聖陽、吉本実憂、谷村美月、葵わかな、宇野愛海、堀部圭亮、利重剛、加藤雅也ほか
監督・脚本:大塚祐吉
原作:「罪の余白」芦沢央著(KADOKAWA/角川書店)第3回野性時代フロンティア文学賞受賞作
製作:2015「罪の余白」フィルムパートナーズ
配給:ファントム・フィルム

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アーティスト情報

内野聖陽

生年月日1968年9月16日(50歳)
星座おとめ座
出生地神奈川県

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谷村美月

生年月日1990年6月18日(28歳)
星座ふたご座
出生地大阪府

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