【レビュー】『バクマン。』―映画だからこそできる「漫画のコマと映像の融合」

(C)2015映画「バクマン。」製作委員会

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友情、努力、勝利、恋、そして継承の物語。

『DEATH NOTE』を大ヒットさせた大場つぐみと小畑健のコンビが生んだ『バクマン。』は、週刊少年ジャンプでの連載を目指す中学生2人と週刊漫画雑誌の厳しい実情を、「友情、努力、勝利」というジャンプのテーマと「恋愛」を通じて描き、累計1300万部を超える売り上げを記録した大ヒット漫画だ。その『バクマン。』が、『モテキ』の大根仁監督によって、佐藤健&神木隆之介のW主演で映画化された。

本作の主人公は、高校生の真城最高(佐藤健)。彼は声優を目指しているクラスメートの亜豆美保(小松菜奈)に恋しているが、話しかけることはできないまま、彼女の姿をノートに描くだけだった。そんなある日、最高のクラスメートで文才に長けた秋人(神木隆之介)が、最高のノートを偶然目にする。最高の画才に惚れ込んだ秋人は、「俺と組んで漫画家になってくれ」と最高に頼む。最初は秋人の頼みを断ってしまう最高だったが、偶然居合わせた亜豆に秋人が2人で漫画家になることを宣言してしまった流れで、本気で漫画家を目指すことになり…

原作は全20巻とジャンプのヒット作品では比較的短いものの、週刊連載の実情と漫画に関する情報が超膨大に詰め込まれている。通常の漫画では考えられないほどにセリフが多いし、大ゴマや見開きもほとんど使わず、「漫画に関する情報」をとにかく詰め込んだ作品だった。通常、説明的な描写が多い漫画は読者に飽きられやすいのだが(動きのある描写の方が読者は楽しみやすい。特に読者層が若いジャンプでは)、『バクマン。』はそこを逆手に取って、大場×小畑コンビのファンや、漫画に造詣のある玄人を中心にファン層を固め、「ジャンプらしくない」「ジャンプではなかった」漫画として成功を収めた。

(C)2015映画「バクマン。」製作委員会

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本作は、その膨大な情報量を誇る原作を2時間に凝縮している(展開は大きく異なるが)ため、ストーリーの密度が極めて高い。筆者は体感で2時間半、いや3時間にも感じられた。ただ、窮屈さは微塵も感じさせない。それは、ページではなく映像を通じて軽やかにテンポ良く膨大な情報を消化し、なおかつ説明不足な印象も与えないからであり、観客はストーリーの疾走感に引き込まれ、ストーリーを追うごとに目が離せなくなる。また、映画だからこそできる「漫画のコマと映像の融合」という斬新な演出も、映画でこそのオリジナリティを感じさせる。そして、本作の成功の最大要因となったのが、原作キャラクターと俳優陣の親和性。正しく完璧なキャスティングだったと言えるだろう。

主人公の最高を演じた佐藤健は、『るろうに剣心』での緋村剣心役のハマりっぷりが記憶に新しいが、本作では一転して現代における等身大の高校生を熱演。イケメンなのに気の抜けた表情ができ、なおかつオタクな空気も出せるという器用さが素晴らしい。もう一人の主人公・秋人を演じたのは、神木隆之介。彼もまた『るろうに剣心』で瀬田宗次郎を演じたことが話題となったが、本作では漫画好きの陽気な高校生を自然体で演じている。細かい仕草や喋り方、表情など、髪の色以外は原作の秋人そっくりと言える憑依術は、子役時代から演技力を培ってきた神木だからこそ成せるものだろう。最高と秋人が友情を結び、努力を積み重ね、時には対立しながらも成長していき、彼らの前に立ちはだかる天才・新妻エイジに立ち向かう姿はジャンプ作品の主人公そのもので、応援せずにはいられない。

最高と秋人が漫画家になる決定的なきっかけとなる本作のヒロイン・亜豆を演じたのは、『渇き。』で脚光を浴びた小松菜奈。同作で悪魔的な女子高生を演じた小松だったが、本作では声優志望の清廉な女子高校生を好演。透き通るような白い肌、柔らかな語り口、漂う色気…秋人が言ったように、「良いよなあ」の一言に尽きる。ジャンプのヒロインにはないエキゾチックな雰囲気も、逆に新鮮で良い。彼女が最高と織り成す、プラトニックでロマンに満ちた恋模様には、観ているこっちがドキドキしてしまう。ちなみに恋は「友情、努力、勝利」というジャンプの三大要素には入っていないが、多くのジャンプ作品で描かれてきた象徴的なテーマの一つだ。

(C)2015映画「バクマン。」製作委員会

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最高と秋人の前に立ちはだかる天才高校生・新妻エイジに扮したのは、若手NO.1俳優との呼び声も高い染谷将太。エイジはエキセントリックな天才高校生だが、そこは演技派の染谷。ニコニコしているかと思えば、急に表情を切り替えて、底知れない強さを感じさせる。その姿は、バトルものにたびたび登場する「倒し方が見つからないボスキャラ」のようで、天才という言葉に嘘臭さを感じさせない。

最も印象的なのが、ラストでピンチに陥った最高を挑発するシーン。危機的な状況にある最高を敢えて煽る姿は、一見すると「悪役」そのもの。しかし、それは裏を返せば最高をライバルとして認めたが故の行動とも取れる。エイジは本作における悪で、しかも原作より意図的に嫌な奴として描かれているにも関わらず、どこか憎めない。それは、彼がジャンプ作品に必要不可欠な要素の一つである「魅力的な悪役」だからだ。原作とはイメージが違うと感じる人もいるだろうが、筆者は演じた染谷に拍手を贈りたい。

もうひとり、本作には重要な人物がいる。それは、宮藤官九郎が演じる最高の叔父・信弘だ。幼き日の最高が憧れた信弘は言う。「漫画は、読者に届いて初めて漫画なんだよ」と。そう言って笑う信弘だったが、彼は人気の低迷によって連載が打ち切られたあと、過労が原因で死んでしまう。最高が漫画家になることを目指したきっかけは亜豆への恋心だったが、その決意の奥底には信弘の無念を晴らそうという思いがあった。その思いがあったからこそ、最高は秋人と共に信弘の部屋を譲り受け、努力を重ねた。つまり、最高は信弘の精神を「継承」したのだ。この「継承」というテーマも、およそ全てのジャンプ作品に通じる重要なテーマであり、本作では原作よりも強調されている。筆者はここにグッときた。信弘を演じた宮藤官九郎の、「ヌケ感」のある演技も素晴らしい。

高い壁にぶつかり、転んで、それでも立ち上がり、挑戦し続ける最高と秋人の姿を見ていると、諦めかけていた夢や挑戦してみたい何かに立ち向かう勇気が湧いてくる。この映画は、人生というストーリーの主人公であるあなたの背中を、きっと後押ししてくれるはずだ。

原作とは違ったストーリー展開は、原作ファンもハラハラさせること間違いなし。果たして最高と秋人は新妻エイジに勝利することができるのか? その結末は、ぜひ劇場で!(エンドクレジットも凝っているので見逃さないように!)

(文:岸豊)


映画『バクマン。』

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