「覚悟を決めた人」の話を見つめてみたかった-『起終点駅 ターミナル』(15)篠原哲雄監督インタビュー

 

 

桜木紫乃の同名小説の映画化作品で、先月開催された第28回東京国際映画祭のクロージング作品として話題を呼んだ『起終点駅 ターミナル』(15)が11月7日に全国公開を迎えた。佐藤浩市と本田翼の共演に注目が集まる本作の監督を務めたのは、『天国の本屋 ~恋火~』『真夏のオリオン』で知られる篠原哲雄監督だ。今回は、東京国際フォーラムで行われた完成披露試写会の直後に、篠原監督に同作の製作プロセスや、キャスティングの背景、演出面におけるこだわりなどについてお話を伺った。

―まずは本作の製作過程についてお聞かせください。

監督:『はつ恋』『地下鉄に乗って』『真夏のオリオン』『小川の辺』など長い事組ませて頂いているプロデューサーの方から、2012年の秋口に原作を読んでほしいと依頼がありました。男と女の出会いによって、それぞれの人生が変わっていくということをテーマにしている作品だということ、タイトル通り、駅には終点という意味もあり起点という意味もある。そんなことをめぐる人生の話に興味を持ちました。

自分自身は、主人公の完治のように法では裁けないような罪を背負って生きている人生の重みとは程遠いとは思いますが、誰しも人に言えないようなものは背負っていると仮定して、その罪を償うために自分に罰を課すというような覚悟はなかなか持てないと思います。その「覚悟を決めた人」の話を見つめてみたいと思いました。

そこから、脚本打ち合わせなどに参加し、原作から少しづつ映画的な肉付きが加わり、配役も徐々に決まっていきました。その後、桜木さんが直木賞を獲られるという凄いことが起き、それ以前に書かれたこの作品が最初の映画化になるそうで、そのことも意気に感じました。

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

―短編の長編映画化ということで、肉付けする部分は多かったと思うのですが、映画化においてはどこに力点を置かれたんですか?

監督:原作では、完治との出会いによって、敦子が新たな出発をしていくというところで終わるのですが、映画では完治自身が起点から出発するということまで描くことができました。原作の完治はこの町から出発はせずに「今後、どうなっていくんだろう」と読者に感じさせる余韻を持った終わり方なんですが、映画ではもう一度完治自身が自分に向き合うという行動を描いた。桜木さんも、その部分は喜んでくださいました。短編小説だからこそできることだったのではないかと思います。

―佐藤さんは完治を演じるにあたって、所作や息遣いに「オヤジっぽさ」がしっかり出ていました。そういった面での細かな演技指導はされましたか?

監督:細かい演技指導はしたというより、むしろ佐藤さんご自身が完治像を構築してくださった。でも、例えば白髪の状態はどこら辺まで何だろうかということも含め、お互いに検証が必要なことは話し合い作っていきました。心理描写においても、佐藤さんからご自身でアイデアが生まれた際は、撮影の数日前とかに事前に相談がある場合もありました。

例えば、完治が冴子のスナックに通う道筋のシーンでは、夜の寂しい繁華街の先にスナックがあるという状況の中、いくつかの場面は歩いている背中の佇まいだけで見せているのですが、とある場面では、冴子との今後に対し迷いがありながらも行ってしまうという空気を出すために、立ち止まって煙草を吸い、やがてそれを雪の上で消してから歩き出すという提案を受けました。完治の心境を考えたときに、まっすぐに行くのではなくて、「別れなければならない、でも別れたくない」というような心の葛藤をここで示したいということで、僕もすぐに納得しました。なるほど、それは脚本にもない個所であり、ご自身が役を通して生まれた瞬間だったのだと思います。

他にも、猫背気味に歩く上でのその角度の感じとか、動きには色々な工夫がありました。本来は躍動感がある役者さんなので、厚岸に敦子の実家を訪ねに行った際に、完治が思わず力強く走ってしまうシーンがあるんですが、「あれでいいかな?」「そこはいいと思います」みたいな話しもしましたね。

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

―料理のシーンがしっかり描かれていましたが、どういった意図があったのでしょう?

監督:完治という人は、一人で生活して、自分の十字架を背負って償っていくという生き方を自分に課しているので、特に人付き合いをするわけでもなく生きています。当然、食事も外でするのではなく、自分のために作って食べる。料理が1つの生き甲斐になっているんです。レシピもどんどん増え、料理も上手くなっている。敦子が入ってくることで、一人で食べることより人に食べてもらえる喜びを徐々に感じていく。完治がイクラも漬け込むと敦子が知り、筋子を持ってきて作ってほしいとお願いされたら、やるしかないんです。食を通じて人と人がコミュニケーションしていくのは、人間にとって自然な営みなんじゃないかと思います。料理そのものが人間のエネルギーの根源にもなることが示せたらと思いました。

―本田翼さんは本作に至るまでは、明るくて天真爛漫な、年齢設定も若い役を演じることが多かったと思います。若手の女優さんが自身のイメージとは異なる役柄に挑戦する場合は、成功することもあれば失敗することもあります。本作で敦子を演じるに当たっての本田さん自身の心境や、監督が抱いていた期待について教えていただけますか?

監督:本田君は、今までは青春映画やラブストーリーのヒロインを演じてきたんですが、本作では佐藤さんという日本を代表する俳優さんと共演することが喜びだったと話していました。根はとても素直な人だと思います。そして物おじしない図太いところもある。今どきの若者らしく人の話を聞いていないよう見えるときもあるけど、実はちゃんと聞いている。演出上、声の出し方など細かな点に配慮したけど、言われたことはきちんとやりますし、時に調子に乗って佐藤さんには怒られたりもするんですが、本人は萎縮するのではなく、逆に飛び込んでいくんです。

無邪気で明るくて、変に色がついていない感じがとてもよかったと思います。だからこそ、現場のなかで素直に自分を発揮できる。覚せい剤不法所持の被告人の役だけど、いかにも悪いことをしそうな女性ではないですよね。彼女の芝居は「敦子の苦悩を表現しよう」というものではないんです。その自然体なところが良かったんじゃないかな。

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

―佐藤さんと本田さんの共演シーンは、スムーズに進んだのでしょうか?

監督:イン前にリハーサルもして、佐藤さんも本田君との共演を探りながらという時間もありました。現場での佐藤さんは最初からプランを示してくれる人なので、本田君が佐藤さんの胸を借りていくということがほとんどだった。敦子が完治に対応して、二人のやりとりが成立するまで何度かテストするということもありました。でも、本田君は段々と敦子になっていったと思います。最初に完治にものを頼むときは神妙に、しかし完治の家を二度目に訪ねるあたりからは、その人懐っこさが自然に現れるように。芝居の方向をつかんでからは本当に自然体で演じてくれたと思います。

―本作の舞台・釧路について、行く前と実際に行ってロケしたあとでは、印象は変わりましたか?

監督:僕らが選んだロケーションは、いかにも釧路である場所は少なかった。原作でいう「果ての街」。どこという名称を売りにするのでなく、自然にそう感じられるようなことを心がけました。例えば、完治の家の表は最初はいかにも北海道にある二軒続きの長屋的な家を探しましたが見つからず、町中をぐるぐる回って、海の近くで風通しがよく、風景に広がりを感じる場所を見つけ、そこにオープンセットを建てることにしました。しかし、中はそれまでにロケハンで見ていた家の中を使わせてもらうということになりました。

実際にセットができていくにつれて、あの場所が本当に「果ての地」の家に思えてくるんですよ。実は、晴れてる日には海が遠くに見えます。あの見晴らしや、煙突のある家が遠目に見えている風景は、北海道の何気ない場所だと思う。実際にロケをしてみると、風が強くて、雲が出てきたり、夜は霧が出て、風景は豊かではあるけど撮影は大変な時もありました。でも、これが釧路なんだなと思えました。世界三大夕日に数えられる釧路の夕日が見える幣舞橋を完治が歩くシーン。ここが最も釧路がわかる場面かもしれませんね。

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

―映像については、注意した点はありますか?

監督:列車に関するシーンは、お客さんに迷惑をかけぬよう限られた時間での勝負だったので、事前に綿密な計画を立てて撮らさせて頂きました。雪のシーンは合成なんですが、そこに気づかれないよう合成部の方々がもの凄く頑張ってくれました。雪のなかでタバコを吸うシーンでも、雪の塊は美術部が作ったものを現場で配置し、地面に雪に見えるような粉を敷いて、靴の裏にも雪がつくようになっているんです。建物の屋根にも雪らしくみえるような綿などが敷かれ、あとは合成部さんの腕の見せ所。多少、企業秘密みたいな部分でもあるので、雪についてはこの辺で。

―本作のラストは原作とは大きく異なり、原作のラストが侘しさのような読後感を与えるのに対して、本作のラストでは希望が強く表現されていますね。

監督:このラストについては、完治の再出発の要素を加えるというアイディアが出た時から、この作品のスケール感が変わったように思いました。主人公の完治がどう変わっていくのかということが描ければ、原作が描いている終点がやがて起点になり人は出発していくのだという部分を、映画ならではのやり方で描けるのではないかと思いました。

―序盤で冴子とのパートをしっかり描いていますが、構成は最初から固まっていたのでしょうか?

監督:構成については、脚本の段階から試行錯誤していました。現在事象から始まって、過去が間に入り、さらに大過去があり、また現在に戻るといった構成も模索したんですが、最初に冴子とのできごとがあって、今の完治がスタートするという形を選択しました。現在の中に過去がよみがえってくるという形も考えたんですが、現在の完治で押し通して見ていく方が良いとわかりました。完治にとって冴子の意味合いが強ければ強いほど、その描き方の加減が難しい。見てのお楽しみかと思います。冴子の象徴である小道具の万年筆などの使い方にも注目してください。

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

―監督のお気に入りのシーンを教えてください。

監督: 何といっても、この映画のキラーショットなんですが、敦子が旅立っていく場面。車の中で完治が敦子に「帰ってくるな」と言った時に、完治の逆説的な優しさに触れた敦子の目にはさりげなく涙が溜まっていき、いいシーンになったなと思います。そして極めつけは、完治が息子の手紙を読んだ後にイクラを食べる場面ではないでしょうか? ここでの佐藤さんは自分の見せ方を熟知した芝居をしてくれています。しかも感情的にある種のピークに自分を持って行っているわけで、現場で見ていても感動しました。

ほかにも沢山あるのですが、全部が見どころと言えば見どころです。このインタビューでは触れられなかった他の俳優さんも皆さんいい味出してくださっています。是非とも俳優さんたちの共演を楽しんで観ていただけたら幸いです。

(取材・文:岸豊)


映画『起終点駅 ターミナル』

11月7日(土)全国ロードショー

原作:桜木紫乃「起終点駅 ターミナル」(小学館刊)
脚本:長谷川康夫
監督:篠原哲雄
出演:佐藤浩市、本田翼、中村獅童、和田正人、音尾琢真、泉谷しげる、尾野真千子
配給:東映

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