「この映画はごく普通の人々の物語」―『明日へ』プ・ジヨン監督インタビュー

プ・ジヨン監督

プ・ジヨン監督

一生懸命に働き、入社5年目にしてようやく正社員への昇格が決まったソニ(ヨム・ジョンア)。けれど、ほどなくして会社から、一緒に働いてきた何十人もの女性従業員に対し、一方的な解雇通達を言い渡されてしまう。彼女たちは結束し労働組合を作り、大企業相手にストラキを起こすが…。

2007年に韓国で実際に起きた事件をもとにした『明日へ』は、過酷な状況のなかで働く女性たちのたくましさ、成長、家族の関係を描いたヒューマンドラマ。メガホンを取ったのは女性監督プ・ジヨン。彼女がこの映画を通して伝えたかったこととは何なのか──。

─韓国における非正社員は労働者の約45%(14年調査)で、その半数は女性。『明日へ』はそんな女性たちが立ち上がった実際の出来事を描いていますが、社会問題を題材にすることは挑戦でもありますよね?

もともと映画制作会社「MYUNG FILMS」でシナリオが作られ、2012年に監督のオファーをいただきました。私は女性がたくさん出ている映画が好きなのでこのシナリオがとても気に入りましたし、登場する女性たちにさまざまな困難が降りかかり、それを乗り越えていく姿に共感しました。また、韓国で深刻な社会問題となっている非正規雇用問題を扱うことにも意味がある。こういう映画が(韓国の)シネコンのような大きな映画館で上映されるような商業映画として作られることに興味を持ち、参加することにしました。

(C)2014 MYUNG FILMS All Rights Reserved.

(C)2014 MYUNG FILMS All Rights Reserved.

─主演のヨム・ジョンアさんをはじめ出演者のほとんどが女性です。現場の雰囲気はいつもと違いましたか?

そうですね(笑)。女性キャストの多い作品なので、韓国でとても人気のある(男性俳優の)キム・ガンウさん、ト・ギョンスさんが出演してくれたのは嬉しかったです。撮影現場には俳優全員のための控え室が用意されていたんですが、キム・ガンウさんは女優さんたちのパワーに気後れしてしまって、一度もその中に入れなかったようです(笑)。外でウロウロしているか、バン(車)のなかにいるかどちらかでした。トップ女優たちが集まるとピリピリしたムードになったのでは? と聞かれることもありますが、この映画の内容と同じで、みなさん団結しているようでした。

─その団結した女性従業員たちと警察隊との攻防戦はとてもリアルで、女性たちVS警察隊という構図はある意味衝撃的でした。

スーパーマーケットを占拠した女性従業員を警察隊が鎮圧するシーンは、実際に起きたことです。可能なかぎり現場の雰囲気を事実に近づけるために、資料をたくさん読み、ドキュメンタリーを観たりしました。実際の鎮圧はとても暴力的でもあったので、映画のなかではケガをしないよう心がけていましたが、女性従業員を演じる俳優たちにとっては、涙も流れる悔しい演技をしながらの闘争。大きなケガはなくとも切り傷はありました。とてもエネルギーが必要なシーンでした。特にラストの水泡シーンは「みんな疲れ切っているだろうな…」と心配していましたが、本人たちは「水泡の圧力を上げてくれ!」「もっと水をかけてくれ!」という熱気を発していましたから。

(C)2014 MYUNG FILMS All Rights Reserved.

(C)2014 MYUNG FILMS All Rights Reserved.

─本当に迫力ありました。女性は結婚、出産、子育てをしながら働く。その環境は日本も同じです。この映画を通じて改めて女性が働くということはどういうことなのかを考えさせられますが、監督自身としては、何を伝えたかったのでしょうか?

もちろん、伝えたいことはありますが、観てくださった方がそれぞれ何かを感じてもらえたらいいと思っています。敢えてひとつ挙げるとしたら──この映画は女性たちが職場で連帯して戦っていく物語です。お互いに支え合いながら共に乗り越えていく姿がとても美しい。その姿を受け止めてもらえたら嬉しいですね。キム・ヨンエさんの演じるスルレは清掃婦ですが、長年清掃婦をやってきた知恵と経験を持っているキャラクターで、彼女の知恵と経験によって問題を克服するシーンもあります。この映画はごく普通の人々の物語。普通の人々が不当な状況に置かれたときに人生の主人公となり、乗り越えていく。それを応援する話なのです。

─監督は、映画監督以外の仕事をした経験はありますか?

たくさんあります。25歳のときに映画マーケティングの仕事に就き社会人をスタートしましたが、2〜3年やってみて自分には合わないと思い、映画の演出をしたいと思い、仕事を辞めて映画アカデミーという映画学校の試験を受けました。でも、ずっと落ち続けて、実は3浪しています(苦笑)。浪人中はキムパ(韓国のり巻き)屋さんの配達、テレマーケター、論述問題の採点…ありとあらゆるアルバイトを経験したことで、世の中はいろいろな職種の労働者によって支えられていることを知りました。また、私の家はそれほど裕福ではなかったので、働く母親のもとで育ちまし、私自身もいま2人の子供を育てながら映画監督として働いています。撮影で家を空けて帰ると家のなかが散らかってすごいことになっている──というのは映画のなかと同じですね(笑)。

(C)2014 MYUNG FILMS All Rights Reserved.

(C)2014 MYUNG FILMS All Rights Reserved.

─3浪しても映画監督になりたかった理由、突き動かしたものは何だったのでしょうか?

韓国の女性は、ふつう24〜25歳で大学を卒業して、就職して、30歳になる前に結婚するというのが女性の生き方のパターンのひとつになっています。ですが、私はありきたりな道に興味がなかった。自分は何を求めているのか、自分が楽しめる仕事は何かをずっと探し続けていました。映画のマーケティングの仕事をしながら、いつの間にか物作りへの関心が強まっていき、映画を作って、それを世の中に送り出すことってどんな感じなんだろう? と興味を持ってからは、何が何でもやってみたい! と思うように。そのためには一度しっかりと映画の勉強をしなくてはならないと考え、映画学校に入ろうと決めました。また、当時『自転車泥棒』(イタリア映画/ヴィットリオ・デ・シーカ監督)を観たのが、映画監督を目指したきっかけのひとつでもありました。

(取材・文/新谷里映)


映画『明日へ』
大ヒット上映中

監督:プ・ジヨン
脚本:キム・ギョンチャン
製作:シム・ジェミョン
キャスト:ヨム・ジョンア、キム・ヨンエ、キム・ガンウ、ムン・ジョンヒ、チョン・ウヒ、ド・ギョンス(EXO)
2014年/韓国/104分/カラー/5.1chデジタル/原題:카트/日本語字幕:小寺由香
配給:ハーク
配給協力:アークエンタテイメント

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キム・ヨンエ

生年月日1951年4月21日(67歳)
星座おうし座
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