【レビュー】『黄金のアデーレ 名画の帰還』(15)-主演2人の名演に涙すること必至

 

(C)THE WEINSTEIN COMPANY / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / ORIGIN PICTURES (WOMAN IN GOLD) LIMITED 2015

国家的拝金主義に挑んだ、偉大なる個人の戦い。

オーストリアが生んだ天才画家、グスタフ・クリムト。「ユディト」「接吻」「ベートーヴェン・フリーズ」などの黄金を贅沢に使った彼の作品は、恍惚と退廃を感じさせる独特なタッチで、時代を超越して観る者を魅了してきた。輝かしい逸話に富むクリムトの絵画だが、彼の代表作の1つである「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」が生んだドラマは、全世界に衝撃と感動を与え、今なお語り継がれている。『マリリン 7日間の恋』(11)で知られるサイモン・カーティス監督の最新作『黄金のアデーレ 名画の帰還』は、その驚くべきドラマを描いた作品だ。

 

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本作の主人公は、カリフォルニアで用品店を営むマリア・アルトマン(ヘレン・ミレン)。彼女はオーストリアの名家出身で、クリムト作の名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」のモデルとなった、アデーレ・ブロッホ=バウアーの姪である。第二次大戦におけるナチスの侵攻によって、母国を捨ててアメリカへ逃れ、82歳になるまで平穏に暮らしてきたマリアだったが、ふとしたことから、大戦の集結後からオーストリアの美術館に展示されていた「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」の正当な所有権が、自身に帰属するという驚きの事実を知る。こうして、愛し愛された叔母への思いを再び胸に抱いたマリアは、若手弁護士ランディ・シェーンベルク(ライアン・レイノルズ)の協力を得て、オーストリア政府に対して「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」の返還を求める訴訟を起こすのだが…。

 

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本作は「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」をめぐる一連の裁判を描いた作品だが、いわゆる法廷ドラマではない。本作が主眼を置くのは、裁判を通じてマリアとランディに訪れる、人間的な変化と成長のドラマだ。ミレン演じるマリアは、一見すると快活な老婦人だ。しかし他者には見えない心の影の部分では、国と両親、そして大好きだった叔母への思いを捨ててアメリカへ逃げた過去に、ぬぐい去ることができない罪悪感を感じている。ミレンは、この複雑な心境を抱き続けてきたマリアを、極めて自然に演じ切った。キャラクターのバックボーンにある悲劇性を表現しようとした場合、往々にして「やりすぎ感」を与える俳優・女優は多いが、デイムの敬称を冠すミレンの演技力は伊達ではない。特に、長いキャリアを通じて極められた表情の演技が素晴らしい。オーストリアの美術館で「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」を目にした瞬間の笑顔や、悲しい過去に思いを馳せる瞬間に見せる切なさを湛えた横顔は、鑑賞者の心を自然と、しかし確実に惹きつける。

 

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他方で、マリアを支え続ける若手弁護士のランディを演じたレイノルズも、素晴らしい演技を披露している。ランディは中盤まで冴えない男丸出しだ。彼は弁護士としてパッとせず、養うべき妻と子供のために、1億ドルを超えるという「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像Ⅰ」の評価額に目が眩んでマリアに協力を申し出る。「もっといい暮らしがしたい」「失敗した自分を乗り越えたい」という、誰もが共感できる等身大の目的を持つ、普通の男としての、寧ろダメな男としてのランディの姿が、レイノルズの一挙手一投足によってしっかりと表現されているからこそ、後半における彼の成長は大きな感動を生む。自身の軽薄さを内省し、マリアに隠れて男泣きするランディの姿には、筆者も思わずもらい泣きしてしまった。

 

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2人は性格も裁判に望む動機も正反対だが、次第に影響し合い、互いに欠けていたものを補い合う。こうして彼らが成長するのに合わせて、オーストリア政府の狡猾な戦略によって滞っていた裁判には光が差し込む。「変わること」を受け入れたマリアとランディ、「変わらないまま」のオーストリア政府、それぞれに与えられる結末は、至極当然で誰もが納得できる。

 

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劇中で交互に描かれていた「過去」と「現在」が鮮やかに収束し、鑑賞者に清らかなカタルシスを与えてくれるラストシーンも素晴らしい。芸術の秋深まる今日この頃、芸術に造詣のある人も、そうでない人も、魅力あるドラマを紡いだ本作を見逃すのは勿体無いと断言しよう。

(文:岸豊)

>「僕が撮ることで自分の個性が光ると思った」―『黄金のアデーレ 名画の帰還』サイモン・カーティス監督インタビュー


映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』

11月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー

監督:サイモン・カーティス 『マリリン 7日間の恋』
脚本:アレクシ・ケイ・キャンベル
出演:ヘレン・ミレン、ライアン・レイノルズ、ダニエル・ブリュール 他
配給:ギャガ
提供:ギャガ、カルチュア・パブリッシャーズ

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