ハリウッドの名匠が見せた、キャストとスタッフのアンサンブル―映画『マイ・ファニー・レディ』ピーター・ボグダノヴィッチ監督インタビュー

ピーター・ボグダノヴィッチ監督

ピーター・ボグダノヴィッチ監督

ピーター・ボグダノヴィッチ監督といえば、映画界の伝説のような存在。1939年にニューヨークに生まれ、映画の批評家として活躍した後、68年に監督デビュー。

『ラスト・ショー』(71)でアカデミー8部門にノミネートされ、続く『おかしなおかしな大追跡』(72)も大ヒット。ジャズの名曲をタイトルに、詐欺師の男と9歳の女の子の旅を描いた『ペーパー・ムーン』(73)はいまだ世界中で愛されている。

そんな監督が2001年の『ブロンドと柩の謎』以来、13年ぶりに手掛けた新作が19日公開の『マイ・ファニー・レディ』(14 )。古きよきハリウッドの香りをほのかに漂わせながら、名優たちのアンサンブルで魅せる軽妙なラブ・コメディだ。

今、活躍する映画人の中で、誰よりもハリウッドを知るひとりであるボグダノヴィッチ監督に、この映画の製作秘話はもちろん、最近のハリウッドや気になる次回作についても尋ねてみた。

(C)STTN Captial,LLC 2015

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『マイ・ファニー・レディ』の舞台は、ボグダノヴィッチ監督の故郷であるニューヨーク。
物語は5番街のバーでインタビューを受けるハリウッド・スター“イジー”のウソのようなホントの話で幕を開ける。

それは、イジーがいかにして映画スターになったか。

思いもよらぬ偶然が重なるシンデレラ・ストーリーの発端は、彼女が“お客”として、ひとりの男性と出会ったこと。実は彼女、女優に転身する前は、高級コールガールだったのだ。

その男性とは、ニューヨークに住む舞台演出家のアーノルド。彼女を部屋に呼び出した彼は、二人で夜の街に出かけようと誘う。ロマンチックな彼の提案に喜んだイジーは、さらに驚くべき申し出を受ける。「この仕事をやめると約束するなら、君の将来のために3万ドルをあげるよ」。

アーノルドの申し出を受け、コールガールをやめた彼女は、夢だった女優への1歩を踏み出す。そこには、アーノルドの妻である女優デルタや、彼女に恋する俳優ギルバート、イジーに一目惚れした脚本家のジョシュア、意外なところで絡んでくるブっ飛んだセラピストのジェーンなど、一癖も二癖もあるオトナになりきれないオトナたちが絡んでいた――

(C)STTN Captial,LLC 2015

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ボグダノヴィッチ監督が、かつての妻であるルイーズ・ストラットンと二人で練ったというこの映画の脚本。実は15年前に出来上がっていたという。

「ルイーズと僕の中に最初にあったのは、二つのアイディアなんだ。ひとつは、コールガールにお金を渡して、彼女がその仕事をやめること。もうひとつは劇中に出てくる“squirrels to nuts”(「ナッツにおやつのリスちゃんを」)という言葉。これがワーキングタイトル(製作中の映画タイトル)だったんだよ」

“squirrels to nuts”(「ナッツにおやつのリスちゃんを」)というのは、物語を掻き回すキーワード。この言葉が出てくる劇中のシチュエーションがかなり笑えるのだが、実はこれ、ハリウッドの往年の名匠エルンスト・ルビッチの映画『小間使い』(46)に出てくる台詞。映画通のボグダノヴィッチ監督ならではのこんな遊びも全編に散りばめられている。そんな監督ならではの脚本術とは?

「気に入ったことがあれば、二人でテープに録音して、アシスタントに書き起こしてもらってね。ルイーズも気に入っていた僕のやり方があるんだけど、4×6インチのインデックス・カードがあるでしょう。あれにひとつひとつシーンを書いて、ボードに貼っていくんだ。全部で40個ぐらい貼れるから、そうやってシーンのつながりを考えて、そこからプロットや台詞を考えていく。ちょうどニューヨークからロサンゼルスに行ったり、ハンプトンに行ったり、いろいろ移動していた時だったから、そのたびにカードを持っていろいろなところでやっていたね。だいたい2年ぐらい掛かったかな。このやり方をすると、ぱっと見ただけで映画全体が見渡せる。だから、とてもいいやり方なんだよ」

(C)STTN Captial,LLC 2015

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そうして仕上げた脚本は、15年の経過に応じ、新たに決まったキャストに合わせ、微調整が加えられた。主人公アーノルドについては、オーウェン・ウィルソンが演じることになり、もとの脚本のドタバタが少し抑えめになったそう。他にも面白いのが、『ノッティングヒルの恋人』(99)でヒュー・グラントのルームメイトを演じた俳優リス・エヴァンスの場合。

「リス・エヴァンスに演じてもらった俳優ギルバートの役は、最初はブラッド・ピットやディカプリオみたいなスターを想定していたんだ。結局、二人にはアプローチしなかったんだけど、彼らのようなイケメン俳優にオファーしてみたら、あまり興味を持ってくれなくてね。で、プロデューサーから僕自身も知っているし、リスはどう?と言われて。リスがやると、あの役がロックスター風になって、それもいいねと。土曜にオファーして日曜にNYに飛んでもらって月曜に撮影みたいな感じだったね(笑)」

(C)STTN Captial,LLC 2015

リス・エヴァンス(右)/(C)STTN Captial,LLC 2015

主演のオーウェン・ウィルソンをはじめ、プロデュースを担当したウェス・アンダーソンや映画『フランシス・ハ』(12)のプロデューサー、ノア・バームバックなど、ボグダノヴィッチを慕って、魅力的な映画人が集まった。登場する俳優たちも、まさに役者揃い。どこまでが脚本で、どこからがアドリブかわからないスムーズなアンサンブルが楽しいが、現場はどんな感じだったのだろう。

「今回はほとんどリハーサルの時間がとれなかったんだ。撮影が始まって2週間後に参加してくれた役者さんもいたし、全員揃ってリハーサルする時間もとれなくて。でも僕自身、キャリアの最初の頃はリハーサルを長め(1~2週間ぐらい)にしてから撮影していたけれど、作品ごとにどんどん短くなっているね。やはり、求めているのは新鮮な演技だから。リハをやりすぎると、よくないんだ。役者さんが打ち解けて、ちょうどよくなるぐらいがベストだね。テイク数に関しては、だいたい3~5ぐらいかな。役者さんたちも僕が早めのテイクで決めてほしいことをわかっているので、最初の方で決まるように努力してくれているよ」

演出家アーノルドを演じるオーウェン・ウィルソンは、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(01)をはじめ、ウェス・アンダーソン監督作品でおなじみの俳優。どこまで本気でどこまでフザけているのか、微妙な波長で観る人を笑いに誘う彼が、妻であり女優であるデルタ役を演じるキャスリン・ハーンと見せるタクシー内の場面など、アドリブ感たっぷりで楽しい。

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オーウェン・ウィルソン(右)/(C)STTN Captial,LLC 2015

「作品全体としては、そんなにアドリブは多くないと思うんだけど、オーウェンはウェス・アンダーソンとも作品を作っていて、いい脚本家でもあるから、台詞をテイク中に急に付け足したりできるんだ。そこは、ほとんど使ったんじゃないかな。タクシーの場面はスピード感や、どの部分を重ねるか、二人の間で計算してやってくれたよ。もともと脚本にはなかった掛け合いからね。タクシーの運転手の男性にオーウェンが最後に言うおかしな一言も彼のアドリブだし、別の場面に出てくる竜巻の台詞もそう。彼はもっと脚本を書いた方がいいと僕は常々思ってるんだ」

そんなオーウェン・ウィルソンに引けを取らず、とにかく魅力的なのが、ヒロイン“イジ―”を演じるイモージェン・プーツ。珍しい名前の彼女、日本ではまだあまり知られていないが、今年、公開された『恋人まで1%』(14)の演技もチャーミングな注目の存在だ。

「会って5分で、イジーは彼女だと思った。とにかくリアルなんだ。いつもいちばん楽しいことをわかっていて、余計なことをしない。ものすごくいい役者だし、すばらしい女性だよ」

イモージェン・プーツ(左)/(C)STTN Captial,LLC 2015

イモージェン・プーツ(左)/(C)STTN Captial,LLC 2015

他にも、気になるのが、ジェニファー・アニストン。母親のピンチヒッターでセラピーを担当するものの、まったく話を聞かないセラピストという壊れたキャラクター、ジェーン役をくしゃくしゃのカツラで熱演している。

「当初、彼女にはデルタ役をオファーしていたんだけど、彼女がこの役をやりたがってね。本当の彼女はジェーンみたいな人じゃないって知ってるから、みんな彼女が出てくると笑うんだよ」

ところで、前作『ブロンドと柩の謎』から13年ぶりの新作。久しぶりに手掛けた本作の手ごたえは?

「29日間で撮影したんだけど、撮影自体はすごく順調でいい時間だった。キャストも最高だし、スピーディに演じてくれて、スケジュールが半日も早めに終わったんだよ。でも、編集はけっこう大変だったかな。いろいろな意見が飛び交って。ま、幸い、作品は生き延びたけどね(笑)」

ジェニファー・アニストン(左)/(C)STTN Captial,LLC 2015

ジェニファー・アニストン(左)/(C)STTN Captial,LLC 2015

現在76歳の監督は、ハリウッドの黄金期を知る貴重な存在。今回の映画にも、愛情たっぷりに往年のハリウッド・スターたちの名前が語られる。そんな名匠の目に、最近の映画界はどう映っているのだろう。

「低予算の映画の中には面白いものもあるけれど、カトゥーン(漫画)の映画が多いし、『市民ケーン』(41)や『地上より永遠に』(53)みたいな、かつてのアメリカ映画が持っていたスケールは失われていると思う。ハリウッド黄金期と比べると、今のハリウッドは全く違った風景に見えるよ」

そんな監督、現在、次回作の脚本を準備中だという。

「ブレット・ラトナーがプロデューサーで、タイトルは『ウェイト・フォー・ミー』。僕が脚本・監督で、言ってみれば、コメディ・ファンタジーだね。主人公は映画監督であり、映画スターでもある男。6回結婚して、6人の元妻がいて、6人の娘がいる。6人目の妻が飛行機事故で亡くなった6年後から映画が始まるんだ。6人幽霊が出てくるんだけど、みんないい人。そのうちのひとりが元妻(笑)。最初は妻を亡くして6年後なので、主人公はかなり落ちこんでいるんだけど、そこからいろいろなことが起きていくんだ。いろいろなキャラクターが登場して、ロックスターも出てくるよ。いままで書いた作品の中でもっとも複雑で、ベストの脚本だと思う。実は35年も温めているんだ。1980年の11月に最初のアイディアが浮かんで以来、(アメリカでよく言う)“3幕仕立て”の3幕目がなかなか思いつかなくてね。思いついたのが1994年だったんだよ(笑)」

ハリウッドの頂点を経験し、プライヴェートでの悲劇を乗り越え、自らの本道のようなコメディでふたたび才能を輝かせ、円熟期を迎えているボグダノヴィッチ監督。人生を導く偶然の奇跡を描いた『マイ・ファニー・レディ』。最後の最後まで楽しいサプライズが用意されている。

(取材・文:多賀谷浩子)


映画『マイ・ファニー・レディ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA他全国公開中

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アーティスト情報

エルンスト・ルビッチ

生年月日1892年1月28日(55歳)
星座みずがめ座
出生地ドイツ・ベルリン

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オーウェン・ウィルソン

生年月日1968年11月18日(49歳)
星座さそり座
出生地米、テキサス州

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