『サウルの息子』ネメシュ・ラースロー監督インタビュー「人類が破滅に向かっていく空気や危うさ、怖さを感じています」

初来日を果たした

初来日を果たしたネメシュ・ラースロー監督

第68回カンヌ国際映画祭でグランプリに輝いた『サウルの息子』(15)。アウシュヴィッツで収容者の運搬と死体処理に従事した部隊、通称「ゾンダーコマンド」の一員であるハンガリー人の男の姿を描いた本作は、徹底したリアリズムと長回しを多用した秀逸な映像表現で、世界中から激賞を受け続けている。今回、本作のプロモーションで初来日を果たしたネメシュ・ラースロー監督にお話を伺うことができた。

 

© 2015 Laokoon Filmgrou 

―本作の特徴のひとつに長回しを用いた撮影が挙げられますが、その長回しをする上で、最も困難だったのはどのシーンですか?

監督:どのシーンが一番難しかったか、というのは答えるのが難しいですね。というのも、全てのシーンがとても難しかったからです。何が難しかったかと言うと、「難しくないように見せる」こと。つまり、いかに普通に見せるかということが難しかったのです。しかし、敢えて選ぶとするなら、水のシーンですね。本作には、中盤と終盤に水のシーンがありますが、機材や音響の問題があったので、最も難しかったと言えるでしょう。

―水と言えば、エンドクレジットには、レクイエムのような音楽と共に雨音が挿入されていました。これにはどんな意図があったのでしょう?

監督:あの雨音は、ひとつのコントラストなのです。劇中では、死体を燃やすシーンや、焼却炉のシーンなどで、火がたびたび登場します。火に対するものとして雨を挿入することによって、なにかを表現するというよりは、寧ろ私の本能的な部分で、火があるなら水も、というバランスの問題ですね。涙としても解釈できますが、何を表現しているかを言ってしまうのは不粋なので、あの雨音に対する解釈は観客に委ねています。ただ、人によっては火を鎮火する水と解釈したり、涙と解釈するかもしれませんね。水や火といった元素は、映画そのものがフォーカスの合っていないあやふやな、現実なのか夢なのかが判然としない状況のなかで、ひとつの枠を作る、そして本作の世界を締めるという意味において重要な意味を持っているのです。

 

© 2015 Laokoon Filmgrou 

―エキストラやスタッフの数は膨大だったと思うのですが、どれ程の規模で撮影されましたか?

監督:本作では、エキストラも非常に重要な脇役でした。監督経験のある友人に依頼して、エキストラの監督として現場に置いた結果、エキストラたちは脇役並みに、誰がどのように動くかといった指示を受けていたので、ボヤけていながらも、背後では(指示に対して)忠実に動いているのです。目に見えない部分も、しっかりと動かすという点には気を付けました。規模で言えば、エキストラの人数は、予算的にギリギリの約400人でした。

―サウル役のルーリグ・ゲーザにはどんな指示を出しましたか?

監督:彼は本能的にサウルを演じてくれました。自然ではない部分は指示を出しましたが、基本的に彼は内向的な世界を確立しているので、細かい指示はあまりしませんでした。

 

© 2015 Laokoon Filmgrou 

―監督は幼少期をパリで過ごされたとのことですが、先日に発生したISによるパリ同時多発テロに関連して、20世紀における巨悪としてのナチス、そして現在大きな問題になっているISについては、どんな考えをお持ちですか?

監督:過去と現在において、平行しているものを感じます。私は、人類が破滅に向かっていくという一種の本能を持っていると考えているのです。ISやナチスだけでなく、ソ連やボコ・ハラムなど、多くの人々を殺す集団が存在してきました。20世紀において、人類の中の狂暴性や凶悪性が最も肥大化したのが、第二次世界対戦だったのです。今回のテロに限ったことではありませんが、現在の情勢には、当時と同じような、人類が破滅に向かっていく空気や危うさ、怖さを感じています。

―地獄を描くかのような本作の撮影中、希望や光を見失わないためにはどんなことを心がけましたか?

監督:本作は「あの世」を描いているのではなく、あくまでも「この世」のある時代に、実際に起こったことを描いています。なので、地獄のようなストーリーではありますが、実際に起こったことであることを理解した上で撮影していかなければなりませんでした。息抜きをするというよりは寧ろ、全員が本作にどれだけ入り込むことができるかということを重視しました。

―『倫敦から来た男』でタル・ベーラ監督の助監督を務めてらっしゃいますが、タル・ベーラ監督からの影響は本作に現れていますか?

監督:彼から学んだことで最も重要だったのは、観客がどれほど映画に入り込むことができるようにするかということです。つまり「主役の感情や考えに、観客がどれだけ同調できるようにするか」という彼の手法には大きく影響を受けています。

(取材・文:岸豊)

【ネメシュ・ラースロー監督プロフィール】
1977年に、ハンガリーのブダペストで舞台演出家と教授の両親のもとに生まれる。子供時代と青年時代をパリで過ごす中で、パリ政治学院とパリ第3大学で映画を学ぶ。2003年にブタペストへ戻り、タル・ベーラ監督に師事し、『倫敦から来た男』(07)で助監督を務める。長篇デビュー作となった本作で、第68回カンヌ国際映画祭のグランプリに輝いた。

【STORY】
主人公のサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、アウシュヴィッツ強制収容所でユダヤ人の誘導と死体処理の任務を任された部隊「ゾンダーコマンド」の一員。ある日サウルは、ガス室から奇跡的に生還しながらも、無残に殺された息子とおぼしき少年を発見する。少年をユダヤ教式の土葬で葬ってやりたいと考えたサウルは、遺体を回収し、ユダヤ教の司教:ラビを探し回るのだが…


映画『サウルの息子』

大ヒット上映中

監督:ネメシュ・ラースロー

脚本:ネメシュ・ラースロー、クララ・ロワイエ

主演:ルーリグ・ゲーザ

2015年/ハンガリー/カラー/107分/スタンダード

配給:ファインフィルムズ

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