映画『俳優 亀岡拓次』横浜聡子監督インタビュー<亀岡拓次を魅力的にする3本のスジ>

横浜聡子監督

『俳優 亀岡拓次』。37歳、「プロ」の脇役俳優の日常=非日常を描いたこの映画は、先が読めない。どこまでが虚構で、どこからが妄想なのか。境界線の見えないことが心地良い。演じることに対して大上段に構えることなく、「職業」として淡々とこなしながら、その過程そのものを自由に泳いでいく主人公。横浜聡子監督は次のように語る。

「ある意味、亀岡拓次の旅の映画なんですけど。いろんな場所を転々としつつ、いろんな役を演じていく。ひとつの場所に留まらない『俳優』というものを主人公にした映画なんです。亀岡の脳内の旅というか、突然、自分の好きな映画の主人公になりきってしまう。現実と非現実のあいだをひゅっと跨いでしまう。そういう意味でもこの映画は旅だなあと思うんです。結局、生きることって不安定なことで。ほんと、先が見えないこと。先が読めない。それは人の人生そのものだなあと。ひとつの目標があって辿り着きます、という明確なゴールのある映画ではなく。まるで人の人生のように、その都度その都度必死に生きて、道を作る。そんな映画にしたかったのだと思います」

映画メイキングより/(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

映画メイキングより/(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

俳優は、作品なり、役なり、現場を転々としていく。

「その断片が、俳優の亀岡拓次そのものなんですよね。原作(戌井昭人)もそうなんですけど、断片でいこう、と思いました」

虚構と現実にヒエラルキーが存在していない。どちらが上でも、どちらが下でもない。「夢もまた現実である」という言葉があるが、夢は実在はしないが、体験としてはリアルだ。希薄な現実よりもずっと。

「寝てるときの夢って、結構起きたときに、その人に影響することってあるじゃないですか。明らかに、その人の現実に影響を及ぼしてしまう。一瞬かもしれないですけど。そういう意味では、夢と現実って切り離せないものだろうし。結局、人って人生の30年か40年くらい、妄想に時間を費やしているんじゃないかと。常に頭のなかで何かを考えているわけで。そういうことを考えると、人の頭のなかで考えていることも現実じゃないとは言いきれないと思うので。いつも、自分の映画のなかでは、現実と非現実に優劣つけずに同時に並べちゃう感じ、あります」

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

横浜監督の映画は『ジャーマン+雨』にしても『ウルトラミラクルラブストーリー』にしても『りんごのうかの少女』にしても、主人公が狂おしいほど獰猛に生きている。何かに衝き動かされながら、現実でもあり非現実でもある人生を突き進んでいる。

「私自身、もともと、妄想、好きなので(笑)妄想を大事に生きています。人間って、何かにおいて優劣をつけがちで。こっちが正しい、こっちが絶対的なものだというふうに決めがちなので。そこは、自分の映画を作るときはできるだけ、排除しようとしているかもしれないですね。無意識のうちに」

ただ、これまでとは主人公像の在り方が違う。亀岡は小市民である。横浜監督はこれまである意味「モンスター」を描いてきた。主人公たちは、過剰すぎる欲望を抱えていた。

「亀岡拓次は朴訥で、強烈な欲望もないですし、その都度その都度、女にモテたいとか、酒飲みたいとか、そういうちっちゃい欲はあるけど、映画の主人公としての最終的な目標みたいなことはあまりない人間です」

初めて原作ものを手がけたことは、どのように影響したのだろうか。

「だいぶ違いましたね。自分へのとっかかりが少ないというか。演出する上でも。ホン(脚本)を書く上でも。過去の自分の主人公たちは、自分なりのスジが通ってる人たちだったんですよ。周りからどんなにヘンなヤツと言われようとも。私はこうである! という行動原理が結構ハッキリしてたんですけど。これは、それを見つけるのにちょっと苦労したんです。結局、眠ること、酒を飲むこと、スケベであること。この3要素が、この人が生きる上での『人生のスジ』なのだということを途中で見つけて。この3原則をちゃんと撮れば、亀岡拓次は絶対魅力的になるし、特に明確な欲望がなかったとしても、この人は行動派なんでしょうね、酒飲んで、吐いて、小便して、寝て、これだけで充分立派じゃないかと」

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

三大欲望。つまり、食欲、性欲、睡眠欲。

「まさに小市民ですね。たしかに、そういう主人公はいないぞと。それだけで生きてる、と言ったら語弊がありますけど。それで充分じゃないかと思うんですよね」

亀岡はまさにプリミティヴである。

「たぶん、原初的という要素に関しては、私のいままでの主人公と結構かぶってて。自分のなかでだけ、なんですけど」

そうなのだ。小市民であり、小動物である亀岡は同時、彼なりの「野性」を生きてもいる。決して獰猛には映らないが、彼もまた動物のひとりで、亀岡拓次独自の逞しさが間違いなくある。

「なんでしょうね。何か悟っている境地にいっちゃってるようにも見えなくもない。また同じこと延々、死ぬまで繰り返すんだろうなって。凹まない。という意味では、これまでの主人公にかぶるんです。たとえば(『男はつらいよ』シリーズの)寅さんも、フラれたと思ったら、次のカットで小便したりとかしてて。結構、コロッと変わっちゃうんですよね。悲しい気持ちをそんなに引き摺らない。そういう強さはありますね、亀岡さん。いま、気づきました」

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

『俳優 亀岡拓次』を観て思うのは、人は生きるのだ、生き続けることができるのだ、というほとんど根拠のない確信である。この確信は根拠がないからこそ、胸を打つ。

「そう言いきる自信はないですけどね。ただ、自分が映画を作る上では、そういうふうに、たとえそれがウソであっても言いきりたいとは思って作ってます。人は生き続けるものであると」

亀岡は、避けていた舞台に久しぶりに登板する。そこで、ある大女優に「あなたは、時間が(演劇ではなく)映画なのよ」と言われてしまう。この台詞はかなり意味シンだ。本作は、俳優についての映画であると同時に、映画についての映画であることが、そこでは示唆されている。

「あなたの中に流れる時間が映画である……私もよくわかんないんですよ(笑)。なんなんですかね。結局、時間の凝縮なんですよね、映画は。舞台と違うのはそこです。舞台はリアルタイムで進行するけど、映画は莫大な時間をかけて撮って、それを無理矢理つなげて、新たな時間を構築してるわけですから。それを自然に見せることもできるし、不自然に見せることもできちゃう。編集で。これ、明らかにつながってないだろう、というふうにあえて見せることもできるわけで」

映画メイキングより/(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

映画メイキングより/(C)2016『俳優 亀岡拓次』製作委員会

ルールを作ることもできるし、ルールなんてないということにもできる。

「だから、監督は時間の魔術師なんでしょうね。いちばん実感するのは編集のときですけど、撮影のときも撮りながら考えます。結構、時間のことは考えますね。時間と常に向き合ってるんですね。そう言えば、映画って。もう少し、深く考えてみて、いいですか。家で(笑)」

(取材・文:相田冬二)


映画『俳優 亀岡拓次』
1月30日(土)テアトル新宿ほか全国ロードショー

出演:安田顕、麻生久美子、宇野祥平、新井浩文、染谷将太、浅香航大、杉田かおる、工藤夕貴、三田佳子、山﨑努
監督:横浜聡子『ウルトラミラクルラブストーリー』
原作:戌井昭人「俳優・亀岡拓次」(フォイル刊)
音楽:大友良英「あまちゃん」
製作:『俳優 亀岡拓次』製作委員会
配給:日活

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