私の作品には常に「変化の瞬間」がある―映画『ルーム』レニー・アブラハムソン監督インタビュー【2016年アカデミー賞(R) 4部門ノミネート】

Photo credit: Jon Furniss

レニー・アブラハムソン監督 Photo credit: Jon Furniss

7年間にわたって納屋に閉じ込められていた主人公ママ(ブリー・ラーソン)と、彼女の息子ジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が繰り広げる脱出劇、そして事件の「その後」を描いた映画『ルーム』が4月8日(金)に公開を迎える。

本作はその完成度の高さから、これまでに世界中で数々の賞に輝き、来週29日(月)に発表されるアカデミー賞では、作品賞・監督賞・主演女優賞・脚色賞の主要4部門にノミネートされている。同賞の発表を直前に控えた17日(水)、本作のメガホンを取ったレニー・アブラハムソン監督に、電話インタビューでお話を伺うことができた。

―主演のブリー・ラーソンは、外部との接触を遮断しての役作りをされていたということですが、それは監督のリクエストだったのでしょうか? また、そんな彼女のメンタル面をどうサポートされていましたか?

映画『ルーム』より (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

映画『ルーム』より (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

まず、私は監督として、役者が必要とするものを与え、彼らが望む方法で仕事をします。なので、私がブリーにそうするよう押し付けたことはありませんでした。しかし彼女は早くから、自身が演じるママがどのように感じるのかについて、心理的なリサーチをする必要があると気づいたのです。自分が演じるキャラクターがどう感じるかについて、役者は想像力を用いて表現することが多いですが、何かしらの肉体的あるいは実質的なものごとも手助けになります。

ブリーの場合は、劇中での心理的な描写に合わせて、低カロリーのダイエットを行ったほか、(役柄上)日焼けをしてはおかしいので、日の光を避けていました。そうする内に、彼女は素晴らしい役者と同様に、徐々に彼女が演じるキャラクターになっていったのです。私は以前にもこういった役者の変化を見た経験があります。こうして役に入り込むのと同様に、役から脱することも大切なのですが、ブリーはできていましたね。

あとは、彼女の元を訪ねたり、電話やメールを通じて、彼女が持っていたアイディアや、脚本について話し合うなどの有機的で近しい関係を築きました。素晴らしい医師や、フィットネスのトレーナー、トラウマのエキスパートである精神科医も用意しました。彼女が安心を得られるようにサポートし、彼女を安全な状態で保つために、注意深く撮影を行いましたよ。基本的に信頼関係が重要になりますが、幸運にも彼女は私を信頼してくれていたので、誇りに思っています。

ブリー・ラーソンとレニー・アブラハムソン監督

ブリー・ラーソンとレニー・アブラハムソン監督 Photo credit: Jon Furniss

―非常にドラマチックで衝撃的な作品ですが、淡々と細かい描写を積み重ねていって、劇的な音楽などで揺さぶられるというより、中から感情が湧き出るような作品だったように思えます。このある意味ではドキュメンタリーのような演出方法を採用した理由は?

最高の褒め言葉ですね。なぜなら私は、鑑賞者にどうリアクションをするか求めるよりも、鑑賞者が自分でストーリーや真実を発見して、感じてもらえるほうが、力強いものがあると考えているからです。綿密な計画に基づき、細かいニュアンスを練り込みながら撮影しているので、もちろんドキュメンタリーではないわけですが、見事な「スティッチング」(裁縫)のように、糸の跡が見えないような、つまり作られたものではない映画だと感じてもらえるようにしたつもりです。

もし、劇的な音楽などによって誇張された作品になってしまえば、本作の持つ感情的なインパクトは希薄化されてしまっていたでしょう。そうではなく、自然と感情が湧き上がってくること、鑑賞者がキャラクターたちを実在する人物だと感じ、彼らに近い立場で物語を追っていくことによって、起きた出来事によって生まれる感情的なインパクトを、まるで身近な人に起きたもののように感じ取ってもらえるのではないかと思います。

映画『ルーム』より  (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

映画『ルーム』より  (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

―前作の『FRANK‐フランク‐』は極度に内向的な人物についての物語で、本作は監禁された母子にまつわる物語です。心理的・あるいは物理的に、「閉じ込められた状態」というモチーフが重なるのは、偶然だったのでしょうか? それとも監督がテーマとして重んじているのでしょうか?

映画のテーマは、作品を見て発見するものだと思っています。そういう風に考えると、私の作品には常に「変化の瞬間」があるのです。例えば、前々作では破滅的な変化が描かれていて、前作の『FRANK‐フランク‐』では内から外へという変化が描かれていました。そして、『ルーム』にも内から外へという変化があります。結局のところ、私が興味を持っているのは、「自分が誰なのか」ということがいかに脆いものであるかについてです。何かしらの形で状況が変われば、「自分が誰なのか」ということ(=物語)は通用しなくなってしまい、自分でリライトしなければならなくなります。「自分が誰なのか」ということの表面性が、私が常にテーマとしているものなのかもしれませんね。

本作では、自分の息子のために、決然とした思いと強さを持って生きてきたママが、外の世界に出てみれば、実際には17歳の少女のままでした。彼女は息子と上手く接することができず、彼との距離も離れてしまいます。「外の世界に行けば、自分は幸せになれたはずのに」というセリフがありますが、彼女は外の世界に出ても幸せになる能力を持っていなかったのです。人というのは、自分を失望させたり、自分を驚かせたり、混乱させるものであって、私はそういったもの(=変化)に惹かれているのかもしれません。

映画『ルーム』より  (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

映画『ルーム』より  (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

―ジェイコブ・トレンブレイの演技が素晴らしかったです。子役から素晴らしい演技を引き出すコツはあるのでしょうか?

特にこれといったものはないのですが、自分の子供のように接することですね。目標にたどり着くために、アドリブを入れたり、やれることは何でもやって、なんとか切り抜ける。最も重要なことは、人として扱うこと。つまり、見下したり、操るのではなく、到達すべき場所へたどり着くために、共に頑張ることです。シーンによって必要なものは違うので、色々なテクニックを用います。

例えば、ジェイコブが理解できないこともあるので、理解できるように分かりやすく伝えたり、ゲーム感覚でセリフを繰り返してもらうことによって、必要とされるエネルギーを持った言い回しにたどり着くようにする。あるいは、編集で順番を変えてもセリフが通じる場合は、何回も同じ順番で言ってもらうとロボットのような子供に思えてしまうこともあるので、敢えて順番を入れ替えることもしましたね。

レニー・アブラハムソン監督とジェイコブ・トレンブレイ

映画『ルーム』より、撮影中のレニー・アブラハムソン監督とジェイコブ・トレンブレイ (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

―今の時代はヴァーチャルな世界が発達していて、リアルな世界を感じる必要がなくなっているように思えます。この点については意識されましたか?

原作者のエマとは、テレビや携帯など、現代人が今いる場所や一緒にいる人から気を逸らすために、つい手を出してしまうアトラクションについて話し合っていました。実は本作では、ママと旧友がFacebookで連絡を取っているシーンも撮影していたのですが、直接的すぎるのでカットしています。しかし、そうした感覚は、ジャックが部屋にいた時よりも、外の世界にいる時の方が孤独を経験していることから感じてもらえるのではないかと思っています。

彼が部屋にいた時は、ママと常に100%のアクセスを持っていたので、ある意味では理想的な状況でもあったのですが、部屋から外に出てみれば、一人で家にいるシーンがすごく多いのです。私も幼い頃に、病気で家にいると、周りに大人がおらず、静かで孤独な時を過ごしたことを覚えています。逆説的ではありますが、本作は、私たちの生き方や、どれほどお互いに距離があるのかを感じさせますね。

映画『ルーム』より  (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

映画『ルーム』より  (C)ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

―第87回のアカデミー賞で話題を呼んだパトリシア・アークエットのスピーチ以降、男性優越主義の否定や女性の解放を主題に掲げた作品が、本作を含めて少しずつ存在感を増しているように思えます。この流れについてはどういった印象をお持ちですか?

大切なのは、明確に男性中心的な傾向があることを皆が認識することだと思います。作られやすいストーリーの主役は白人男性になることが多く、これはハリウッド映画で顕著なことです。仰るように、女性中心の作品が作られるだけでも違う方向に力が働くことは、大切で重要なことだと思っています。実は温めている企画の一つにも、女性が単独で主演する作品があります。

しかし、私は運動家だからそうした作品を作っているわけではありません。単純に、自然なものの見方として、性別に関係なく平等であるべきだし、偏見は我々にできることを制限してしまう、くだらないものだと考えているからです。仰るような動きはありますが、非常にスローなペースですね。それはカメラの中(俳優)だけではなく、カメラの向こう側(作り手)にも同じことが言えます。

今年のオスカーでの監督賞候補を見ると、私を含む5人が男性ですが、そうであるべき理由はありません。我々は、なぜこういったことが起きてしまうのかを理解するために努力する必要があります。これからの映画界には、民族多様性の問題だけではなく、ジェンダーについても、長い旅が待っていますね。

(取材・文:岸豊)


映画『ルーム』
4月8日(金) TOHO シネマズ 新宿、TOHO シネマズ シャンテ他全国順次公開

■監督:レニー・アブラハムソン『FRANK‐フランク‐』
■出演:ブリー・ラーソン『ショート・ターム』、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョーン・アレン『きみに読む物語』
■提供:カルチュア・パブリッシャーズ、ギャガ
■配給:ギャガ

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