オスカー像を手にするのは誰だ!?―【2016年 第88回アカデミー賞】主要部門+@を徹底予想!!

映画界が年間を通じて最大の盛り上がりを見せるアカデミー賞。第88回目となる今年も、数々の傑作と名優が各賞にノミネートされ、日本時間で今月29日に発表される受賞結果には、世界中から注目が集まっている。その発表を目前に控えた今回は、これまでの傾向と昨年からのハリウッドの流れを基に、激戦必至の受賞結果を予想してみよう。

作品賞:『スポットライト 世紀のスクープ』(日本公開:2016年4月15日)

映画『スポットライト』より (C)2015-SPOTLIGHT-FILM,-LLC

映画『スポットライト 世紀のスクープ』より Photo by Kerry Hayes (C) 2015 SPOTLIGHT FILM, LLC

作品賞に関しては、部屋に閉じ込められていた母子の脱出と「その後」を描いた感動作『ルーム』が圧倒的な支持を得ているが、同作は主演女優賞の筆頭でもある。作品賞と主演女優賞は相いれない関係にあるため、同作は主演女優賞を獲ると予想した上で、筆者は本作が作品賞に輝くと予想した。

理由としては、「カトリック教会の神父が犯した児童に対する性的虐待と、その組織的隠蔽の暴露」という、アメリカ国民にとって身近で重大なトピックを扱っていることに尽きる。住宅市場バブルの崩壊をコメディタッチで描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』も捨てがたいのだが、同作は後述の理由から監督賞を獲り、作品賞は逃すのではないか。また、オスカーの歴史では、同じ監督が2年連続で受賞したケースもないため、昨年『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で受賞したアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の『レヴェナント:蘇えりし者』も候補から外れるだろう。

ジャーナリズムを主題にした映画が作品賞に輝いたことは、第20回の『紳士協定』以外にないため(あの『大統領の陰謀』ですら逃している)、そういった意味でも本作の受賞に期待したい。

監督賞:アダム・マッケイ/『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(日本公開:2016年3月4日)

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映画『マネー・ショート-華麗なる大逆転』よりPhoto-credit-Jaap-Buitendijk ©-2016-Paramount-Pictures.-All-Rights-Reserved

監督賞は、アダム・マッケイ監督が獲るべきだろう。今までウィル・フェレルらと『俺たち』シリーズなどのおバカ映画作りに心血を注いできたマッケイは、本作で「住宅市場バブルの崩壊という社会的なテーマを、コメディタッチで軽やかに描き出した。実のところマッケイ監督は、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』でアメリカ経済の闇を部分的に扱うという社会派な一面を覗かせていたので、いつか本格的に経済を扱った作品を作るのだろうと映画ファンを期待させていた。

マッケイ監督はその期待に応え、持ち味であるユーモアを詰め込みながらも、含蓄に満ちたエンディングを迎える秀逸な経済コメディとして、本作を完成させた。今までの作品と比べると、本作は大きなギャップを持ち、作品としてのクオリティも高いため、マッケイ監督の受賞には大いに期待できる。『レヴェナント:蘇えりし者』のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督については、昨年に続く2年連続受賞が期待されているが、ハリウッドやアカデミー賞における、エスニシティが絡むパワーバランスの観点から見ると、非常に難しいだろう。

主演男優賞:レオナルド・ディカプリオ/『レヴェナント:蘇えりし者』(日本公開:2016年4月22日)

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation.  All Rights Reserved.

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

とある事情で本作を未だに鑑賞できていないにもかかわらず、ディカプリオの受賞を予想するのは心苦しいのだが…読者諸兄よ、本作におけるディカプリオの演技は、今までと比べ物にならないようだ。というのも、彼は劇中で本物のバイソンの生の肝臓を喰らい、馬の死骸(こちらは作り物)の中で眠るといった過激な描写に果敢に挑戦し、不義によって死の淵に立たされた男の生への執着と、裏切り者への驚異的な復讐心を体現しているのだ。

この役者魂が全開な演技からは、(彼自身は言っていないが)主演男優賞を絶対に獲るという心意気を感じる。また、ディカプリオは本賞を今までに3度逃してきただけに、今回こそ受賞してほしいという、ファンとしての思いもある。『リリーのすべて』で見事に「女性化」したエディ・レッドメインの2年連続受賞(昨年は『博士と彼女のセオリー』で受賞)に期待する人も多いだろうし、『スティーブ・ジョブズ』のマイケル・ファスベンダーも素晴らしい演技を見せているが、ディカプリオほどのインパクトを放ってはいないのではないか。

主演女優賞:ブリー・ラーソン/『ルーム』(日本公開:2016年4月8日)

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映画『ルーム』より、母子を演じたブリー・ラーソンとジェイコブ・トレンブレイ  ©ElementPictures/RoomProductionsInc/ChannelFourTelevisionCorporation2015

『JOY』でノミネートされているジェニファー・ローレンスがそうだったように、インディペンデント映画で着実に演技を磨いた女優は、オスカーを獲得して一気にスターダムを駆け上がる可能性を秘めている。ラーソンのことを知っている映画ファンは少ないだろうが、主演した『ショート・ターム』での等身大な演技で批評家や映画人を魅了したことも記憶に新しい彼女は、複雑で細やかな感情表現が要求された本作でも素晴らしいパフォーマンスを見せ、アカデミー賞の前哨戦と言われる各賞では主演女優賞を総なめしている。

『キャロル』のケイト・ブランシェットも秀逸な演技を見せたが、過去に『ブルー・ジャスミン』でオスカーを獲得しているため、今回は逃すだろう。『ブルックリン』のシアーシャ・ローナンについては、脚本を読んだ限り、素晴らしいキャラクターではあるが、オスカーに輝くタイプの役柄ではないという印象。付け加えて言えば、『リリーのすべて』で助演女優賞にノミネートされているアリシア・ヴィキャンデルは、『エクス・マキナ(原題)/Ex Machina』の主演女優として本賞にノミネートされるべきだった。

助演男優賞:シルヴェスター・スタローン/『クリード チャンプを継ぐ男』(日本公開:2015年12月23日より公開中)

(C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

映画『クリード チャンプを継ぐ男』より、シルヴェスター・スタローンとマイケル・B・ジョーダン (C)2015 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. AND WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

助演男優賞は、恐らく世界中の映画ファンのほとんどがスタローンに獲得してほしいと願っているはずだ。本作での「老いたロッキー」の姿は、鑑賞者の脳裏に忘れ難いイメージを刻みつけたし、前哨戦のゴールデン・グローブ賞では、助演男優賞を受賞している。クリスチャン・ベイル、トム・ハーディ、マーク・ラファロ、マーク・ライランスと強力なライバルがひしめくが、スタローンに匹敵する印象を与えているとは言えないし、とにもかくにも、スタローンの受賞スピーチが見たい。

助演女優賞:ルーニー・マーラ/『キャロル』(日本公開:2016年2月11日より公開中)

(C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

映画『キャロル』より、ルーニー・マーラ (C)NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

助演女優賞は、あくまでも助演として輝きを放った者に贈られる。名だたる曲者俳優が名を連ねた『ヘイトフル・エイト』において、最も存在感を放っていたジェニファー・ジェイソン・リーは確かに素晴らしい演技を見せたが、やはり目立ち過ぎ感が拭えない。

では誰が受賞するか? それは『キャロル』のルーニー・マーラだろう。マーラは決して個性的な演技は見せていないが、50年代という複雑な時代において、自己の内面に葛藤する女性を、控えめな感情表現を用いて、見事に演じきった。そこはかとなく儚げで、繊細な雰囲気を漂わせるマーラは、本作でテレーズというキャラクターと見事にシンクロしており、幅広く役柄を演じ分けてきたキャリアの中でも、最高の輝きを放っている。

長編アニメ映画賞:『インサイド・ヘッド』

(C)2015Disney/Pixar.

映画『インサイド・ヘッド』より (C)2015Disney/Pixar.

昨年の『ベイマックス』がそうだったように、賞レースで圧倒的な強さを見せるディズニー作品がオスカーを逃すことは、まずない。よって、『インサイド・ヘッド』の受賞は約束されたようなものだ。我らが『思い出のマーニー』は、宮崎駿が不在のジブリ作品としてノミネートされただけでも十分だが、好悪が分かれる作品であるため、普遍的な人気を持つ作品に与えられる長編アニメ映画賞は難しいのではないか。

脚本賞:アレックス・ガーランド 『エクス・マキナ(原題)/Ex Machina』

脚本賞は、斬新な作品に与えられることが多い。本作以外の候補には、『ブリッジ・オブ・スパイ』『インサイド・ヘッド』『スポットライト 世紀のスクープ』『ストレイト・アウタ・コンプトン』があるが、『インサイド・ヘッド』以外はどれも実話を基にした脚本であり、オリジナリティは薄いと言えるし、アニメ作品が脚本賞を受賞した前例はないため、『インサイド・ヘッド』も厳しい。

一方の本作は、完全オリジナル脚本であり、「人工知能搭載型の女性アンドロイド」の開発に隠された人間の闇、舞台となる研究所のデザインなど、物語の骨子となる部分が極めて斬新で、悲劇的でありながらもカタルシスを与えるエンディングも秀逸だった。また、物語の中心に、2015年のハリウッドにおける大きな変革の流れの一つだった、「男性優越主義の否定」が組み込まれている点でも評価を高めるだろう。

脚色賞:チャールズ・ランドルフ、アダム・マッケイ/『マネー・ショート 華麗なる大逆転』

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映画『マネー・ショート-華麗なる大逆転』よりPhoto-credit-Jaap-Buitendijk ©-2016-Paramount-Pictures.-All-Rights-Reserved

昨年、『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』のグレアム・ムーアが受賞したように、脚色賞は新しい才能に与えられることが多いとされているが、それは違う。評価されるポイントは、「優れた原作を、いかに変化させるか」だ。この点で言えば、本作は圧倒的に素晴らしい。ユーモアはあったが、コメディ小説ではなかった原作の『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』が、これほど笑えるコメディ映画になるとは…。

第四の壁の破壊やボイスオーバー、親しみのある映像の挿入、豪華なカメオ出演を交えながら説明されるアメリカ経済崩壊の顛末には、切れ味抜群のブラック・ジョークとアイロニーが散りばめられており、一瞬も飽きることがない。しかし、終盤にかけてはシリアスな面が徐々に大きくなっていき、最終的に含蓄のあるオチが導かれることで、単なる経済コメディ以上の価値を持つ社会派作品として完成される。絶妙な脚色がもたらした原作からの変化の幅は、『ブルックリン』『キャロル』『オデッセイ』『ルーム』のそれを大きく上回っている。

撮影賞:ジョン・シール 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

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映画『マッドマックス 怒りのデスロード』より (C)2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

昨年(『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』)、一昨年(『ゼロ・グラビティ』)と2年連続受賞したエマニュエル・ルべツキは、史上初の3年連続授賞がかかっているわけだが、撮影賞は主要部門を逃すであろう本作を担当したジョン・シールに与えられると思う。名匠ロジャー・ディーキンス(『ボーダーライン』)や、ロバート・リチャードソン(『ヘイトフル・エイト』)、エド・ラックマン(『キャロル』)もそれぞれ魅力的な映像を見せてくれたが、計算と技術によって構成されたカメラワーク、そしてド派手な演出によって生まれたシールの映像のクオリティは、正直に言ってケタが違う。

美術賞:コリン・ギブソン、リサ・トンプソン 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

美術に関しても、本作が圧倒的に素晴らしい。奇抜で派手な改造を施されたマッスルカーの数々は、物語に鑑賞者を引き付ける要因となっていたし、旧シリーズとは比較にならないくらい洗練されたマッドな美術があったからこそ、現実離れした世界での闘いには、不思議と真実味が感じられた。『ブリッジ・オブ・スパイ』『リリーのすべて』『オデッセイ』も確かに良い美術を誇るが、本作ほどの魅力は感じない。また、メインカテゴリーの有力候補である『レヴェナント:蘇えりし者』に本賞が与えられるのは考え難い。

予想しておいて外したら赤っ恥だが、果たして結果はどうなるのか…?第88回アカデミー賞は、日本時間の今月29日(月)に発表される。

>【2016年 第88回アカデミー賞】ノミネートされなかった名優たちを振り返る

(文:岸豊)

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