【レビュー】『ヘイトフル・エイト』―切れ味抜群な168分の会話劇に痺れろ!

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映画『ヘイトフル・エイト』より (C) MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.

ミステリーとコメディを見事に融合したタランティーノ監督の手腕に脱帽

全世界の映画ファンが待ち望んだクエンティン・タランティーノ監督の最新作『ヘイトフル・エイト』が、2月27日(土)に公開を迎えた。脚本の流出問題の影響で一時は公開すらも危ぶまれた本作だったが、タランティーノ監督が大幅に加筆修正を加えて脚本が完成し、映画化も実現。同監督作品の常連キャストに加え、曲者俳優が一挙に集結した本作で描かれるのは、雪山に佇むロッジで展開されるミステリーだ。

物語は、人里離れたワイオミングの山で幕を開ける。馬を亡くして立ち往生していた賞金稼ぎのマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は、偶然通りかかった賞金稼ぎジョン・ルース(カート・ラッセル)が貸し切った馬車に乗せてもらうことに。ウォーレンは、既に乗っていた賞金首のデイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)や、道中で相乗りすることになった新任保安官のクリス・マニックス(ウォルトン・ゴギンズ)らと共に、目的地の「ミニーの紳士服飾店」にたどり着く。しかし、そこに女主人ミニーの姿はなかった。代わりにいたのは、ミニーに店番を頼まれたと語るボブ(デミアン・ビチル)、絞首刑執行人のオズワルド・モブレー(ティム・ロス)、カウボーイのジョー・ゲージ(マイケル・マドセン)、元南軍の将軍サンディ・スミザーズ(ブルース・ダーン)だった。この不可解な状況を訝しむマーキスに、ジョンはロッジの中にいる「誰か」がドメルグの奪還を狙う刺客だと告げ、その人物を探し始めるのだが…。

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本作は、アガサ・クリスティ作品を彷彿させるミステリーとして幕を開けるが、タランティーノ監督らしい軽快で過激な会話の応酬によって、ブラックなコメディ性が組み込まれ、純粋なミステリーとは一線を画す、個性的な会話劇として展開していく。タランティーノ作品の常連であるL・ジャクソンが演じるマーキスのキレキレなセリフ回しを筆頭に、ジェイソン・リーが扮するドメルグによる予測不可能な言動、ラッセル演じるルースの有無を言わさぬ迫力を湛えた重低音ボイスなど、それぞれのキャラクターの個性が際立った会話劇には自然と引き付けられる。

登場人物たちは「誰がドメルグの刺客なのか」という謎を解く過程で、予想だにしない展開に場当たり的に直面するため、もちろん鑑賞者はストーリーを先読みすることはできず、展開に注視せざるを得なくなる。これはミステリーとしてはアンフェアに思えるが、先述した個性的で愉快な会話が生むコメディ性が中和剤として作用することで、鑑賞者にストレスを与えることを回避できている。タランティーノ監督のストーリーテリングのバランス感覚には、脱帽して称賛を贈るほかない。

謎解き(ミステリー)に「愉快な会話」というタランティーノ監督らしさが落とし込まれている一方で、基本的に「限定された空間」(つまりミニーの紳士服飾店)で物語が進行するという点は、彼の作品群では極めて珍しい。近年の『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がれざる者』、初期の『トゥルー・ロマンス』(脚本)、『パルプ・フィクション』『ジャッキー・ブラウン』『キル・ビル』シリーズでは、絶えず物語の舞台が変化していたが、本作では序盤を除くほぼ全てのパートが「ミニーの紳士服飾店」で展開される。思い返せば、「限定された空間」における「会話劇」を通じての「犯人探し」という物語の構成要素は、デビュー作の『レザボア・ドッグス』に通じるため、タランティーノ監督が本作で同作への原点回帰、あるいはパスティーシュを匂わせているのが、一映画ファンとして愉快で喜ばしい。

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肝心の謎解き(=ドメルグの刺客が誰か?)についてだが、本作は過去への遡及(=時系列の調整)を用いて終盤でカラクリを解明するため、鑑賞者の推理力ではその謎を読み解くことはほぼ不可能である。しかし、カメラがロッジに入った瞬間から、登場人物の目線の動きや、さりげない1フレームに、謎を紐解くヒントが断片的に映し出されていたことが伏線として鮮やかに表出するので、鑑賞者を納得させることができている。最大のヒントがタイトルに含まれていること、そして2015年のハリウッドにおけるトレンド(これを言ってしまうとほぼネタバレになるので詳細には言えないが)を否定するエンディングには、実にタランティーノ監督らしい皮肉を感じ、思わずニヤリとさせられた。

先読みを許さないものの、さりげなくヒントを与える絶妙なバランスの脚本に加えて、メタ表現を交えたボイスオーバー、緊張感たっぷりのメキシカン・スタンド・オフ、ドア越しの切り返しといった、タランティーノ監督らしい演出も随所で光る。また、70ミリのアナモルフィックレンズを用いた撮影も秀逸だ。このレンズは極めてワイドな画面構成を可能にするもので、雄大なロッキー山脈やロッジの内部が、画面一杯に広がる様は壮観の一言に尽きる。そして、かつて『キル・ビル Vol.1』を担当した種田洋平による、時代性を掬い取りながらも、タランティーノ印の黄色が差し色として存在感を放つプロダクションデザイン(=美術)も見事。軽快な会話劇が生むエンタメ性と、画面に散りばめられた芸術性を併せ持った本作は、暴力的な要素を多分に孕みながらも、愉快なミステリーとして最後まで鑑賞者を楽しませてくれる。タランティーノ作品でベストであると断言することはできないが、それでも必見の作品であることは疑いようがない。

(文:岸豊)


映画『ヘイトフル・エイト』
大ヒット上映中

監督・脚本:クエンティン・タランティーノ
音楽:エンニオ・モリコーネ
美術:種田陽平
出演:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンス、デミアン・ビチル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、ブルース・ダーン
配給:ギャガ

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アーティスト情報

クエンティン・タランティーノ

生年月日1963年5月27日(55歳)
星座おひつじ座
出生地米・テネシー・ノックスビル

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