映画『アーロと少年』ピーター・ソーン監督&デニス・リーム(プロデューサー)インタビュー:作品を引っ張る才能と、伝えたい想い

(左から)監督を務めたピーター・ソーンとプロデューサーのデニス・リーム

(左から)監督を務めたピーター・ソーンとプロデューサーのデニス・リーム

アニメーションの面白さのひとつは「もしも」の世界を疑似体験できること。オモチャの世界の『トイ・ストーリー』やモンスターの世界の『モンスターズ・インク』、頭の中に存在する感情をキャラクターにした『インサイド・ヘッド』など、そんな「もしも」の世界をいくつも描いてきたディズニー/ピクサー作品に、新たな「もしも」の世界が加わった。

それは恐竜たちが生きていた6500万年前、もしも地球に巨大隕石が衝突しなかったとしたら、恐竜たちが絶滅の危機を免れたとしたら? という物語『アーロと少年』。大きいのに弱虫な恐竜のアーロと、小さいのに勇敢な人間の少年スポット。ひとりぼっち同士の彼らが出会い友情を育んでいく感動作だ。

『アーロと少年』の監督を任されたのは、ピーター・ソーン。『カールじいさんの空飛ぶ家』と同時上映された短編『晴れ ときどき くもり』で監督デビューを果たしているが、長編アニメーションは本作が初となる。しかもピクサー史上最年少での抜擢! アニメーターとしての実力はもちろん「人柄の良さとリーダ性が備わっていること」も選ばれた理由だとプロデューサーのデニス・リームは語る。

(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「ピーターの長所を挙げたらきりないので要約してお話しますが、ひとつはズバ抜けた才能の持ち主であることです。彼の才能にスタッフはインスピレーションを得ていますし、しかもカリスマ性があるうえに人柄もいい! 1人1人のスタッフをとても大切にするその姿勢によって、監督のために自分もベストを尽くそう! と、周りをやる気にさせる力を持っているんです」

ソーン監督と製作チームが最初に取りかかったのは、恐竜たちが生きる世界をどう描くのか、徹底的なリサーチから始まった。彼らが向かったのはアメリカ北西部のオレゴン州やワイオミング州、モンタナ州。大自然のなかに身を置くことで自然の美しさやスケール感をつかみ「自分がどれだけちっぽけな存在かを目の当たりにした」とソーン監督。

「恐竜の骨が出土している場所に行ってみたかったというのもありますが、何よりも恐竜たちがどんな場所に生きていたのか、そのスケール感を肌で感じたいと思いました。そこで目にした自然はとても美しく、同時にとても危険をはらんでいて、その美しさと危険さの両面性を『アーロと少年』にも反映させたかった。主役はアーロですが、彼のその時々の心情を自然が代弁している。自然描写はアーロが勇気を身につけることで大人になっていく旅の“助演”役でもあります」

大自然をキャラクターのひとつとして描くにあたり、目指したのはリアリティ。とはいっても、写真のようなリアルさではなく、この作品のなかでいかにリアルに“感じる”のか──。荒々しい大地、降り注ぐ雨、舞うように揺れる植物、吸い込まれそうな空とそこに浮かぶ雲……その美しさと力強さに圧倒されるだろう。こだわったディテールのなかにアーロたちを存在させるために、監督は「どこまでリアルに近づけるのかバランスが必要だった」と言う。その映像が出来上がるまでの秘話とは?

(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「実は、最初はそれほどリアルではないアニメーションの背景を作り、そこにアーロを置いてみました。でも、それだと容易く生きていけそうで生命の危険を感じなかった。また、リアルな自然描写にあわせてアーロもリアルな恐竜に近づけてみましたが、それも生きていけそうに見えてしまって(苦笑)。僕らが作ろうとしたのはサバイバル物語。生きていそうな雰囲気だと困るわけです。野生の自然のなかに放り出されたアーロが危険にさらされないと意味がない。アーロは恐竜ですが、少年のように感じてもらわないとならなくて。自然のリアリティと恐竜のリアリティ、それぞれのバランスを見つけることは難しかったけれど、クリエイターとしてはとても面白い作業でした」

アーロの成長を通して私たちが受け取るのは、家族の存在がどれだけ愛おしいか、友だちの存在がどれだけ勇気を与えてくれるのか。アーロと父親の関係性を描くにあたっては、ソーン監督自身の体験も反映されている。

「この物語を作るうえで特に話し合ったのは、人々が生きていくなかで感じる“恐れる心”についてです。私はニューヨークで育ちましたが、幼い頃、韓国系の生まれであることが影響しているのか、何かやりたいことがあったとしても自分でそれを止めてしまうことがありました。根底にあったのは“恐い”と思う気持ちです。この作品を作っているときに2人の子供の父親になり、子供たちには自分のように恐いという気持ちで歩みを止めてほしくないと思った。そんな願いも込めています」

監督の願いをよく表しているのは、映画が始まって間もなく登場するアーロとパパの会話だ。大切な食糧を盗む生き物(=スポット)を捕まえるようにパパから仕事を与えられたアーロだが、心優しいアーロは情に流されてスポットを逃がしてしまう……。

(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

(C)2015 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

「お父さんはアーロに、(盗人の人間を)殺してなかったのか! 今すぐ殺せ! と怒り、アーロはものすごく恐れを抱いてしまいます。それを見たお父さんはハッとして、お前のことを愛しているから、強くなってほしいから言っているんだよと話しをします。そのシーンは私と私の娘とのエピソードが由来です。ある日、娘があまりにも親指をしゃぶっているので、そんなにしゃぶるならお父さんがお前の親指を噛んで取っちゃうぞ! と言ったら泣いてしまった。そのとき、アーロのお父さんと同じで、何でそんなことを言ってしまったんだろう、自分は何に恐れてそんなことを言ったのだろう、と考えた。そのエピソードをこの映画のなかに取り入れました」

映画が完成した今、監督が「僕のスピリットです」と優しく力強く伝えるのは「強くなるためにはどうしたらいいのか?」という問いの答え。

「強くなるために何をするべきなのか、この映画を作る前も作っている最中もずっと考えていたことです。でもなかなか見出せずにいた。辿り着いたのは、強さとは、肉体的に精神的に自分をボコボコにして傷つけて乗り越えるものではなく、愛を通して生き延びること、恐れることなく生きること。それが僕の出した答えであり、僕のスピリットです」

(取材・文:新谷里映)


映画『アーロと少年』
2016年3月12日(土)全国ロードショー

監督:ピーター・ソーン
製作:デニス・リーム
製作総指揮:ジョン・ラセター
原題:The Good Dinosaur
全米公開:2015年11月25日
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST