【レビュー】『マネー・ショート 華麗なる大逆転』―エンディングに込められた「苦み」が味わい深い金融コメディ。

映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』より (C) PARAMAUNT PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.

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「金融危機って何だったの?」と感じている人は必見

サブプライム・ローン(低所得者向けの住宅ローン)の崩壊に端を発した世界金融危機から8年。アメリカ経済は復調して好調をキープしているが、2014年ごろから、金融市場では新たなサブプライム・ローンが幅を利かせるようになった。かつてのサブプライム・ローンが住宅を担保とするものだったことに対し、新しいサブプライム・ローンは自動車を担保とするもので、より低所得の者をターゲットとしている。これを受け、一定数の経済評論家は、再び金融危機が起こるのではないかと危惧している。

しかし、我々一般大衆からすれば、「そもそも、この前の金融危機ってどういう仕組みで起こったの?」という印象が強い。というのも、金融は、専門用語が飛び交う、非常に分かりづらい、理解するには大変な労力を要する業界だからだ。新聞やニュースを見ても、ある程度の予備知識がなければ、文字面を追うだけで疲れてしまい、その内容は頭に入ってこない…。そんな金融業界、そして先述の金融危機を理解する上で非常に有益となるのが、3月4日(金)に日本公開を迎えたアダム・マッケイ監督の最新作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』である。本作は、マイケル・ルイスの著作『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』を基に、サブプライム・ローンの崩壊を利用して大儲けしたアウトローたちの姿を描きながら、金融業界・金融危機を分かり易く解剖する作品だ。

物語は2005年のアメリカで幕を開ける。サブプライム・ローンを中心とする詐欺的な金融市場に疑念を抱いたトレーダーのマイケル(クリスチャン・ベール)は、市場が破綻することを予測した上で、サブプライム・ローンが暴落した際に巨額の利益を生む金融商品「CDS」を大量に買うことを決断する。当時は紙くず同然の価値しかなかった「CDS」を大量に買うというマイケルの行為は「奇行」でしかなかったが、銀行員のジャレド(ライアン・ゴズリング)はマイケルの狙いを察知して、ヘッジ・ファンドを経営するマーク(スティーブ・カレル)に、CDSを大量に買うことを提案し、共に利益を上げることを持ちかける。一方、個人投資家として活動していたジェイミー(フィン・ウィットロック)とチャーリー(ジョン・マガロ)も、ひょんなことからCDSの有益性に気づき、元トレーダーのベン(ブラッド・ピット)と組んで一山当てることを決意する。CDSを「爆買い」して周囲の嘲笑を買うマイケルらだったが、2008年に市場は崩壊の兆候を現し、彼らの「華麗なる大逆転」が始まる…。

 

映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』より (C) PARAMAUNT PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.

メガホンを取ったアダム・マッケイ監督は、『俺たちニュースキャスター』をはじめとする『俺たち』シリーズや、カーレースを扱った『タラデガ・ナイト オーバルの狼』などのおバカ映画で知られているため、彼が本作のような金融にまつわる作品を監督したことを、意外に思う映画ファンもいるかもしれない。しかし、マッケイ監督は『俺たちニュースキャスター』などの過去作でも、おバカなストーリーの中に、さりげなく社会派な一面を垣間見せてきた。

そんなマッケイ監督の社会派な一面が如実に表れたのが、『俺たち』シリーズの一つ、『アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!』だった。マッケイ監督は、同作のプロットでコメディと経済を絡ませ、エンドクレジットではポンジ・スキーム(出資金詐欺)やTARP(不良資産救済プログラム)の悪質さなどを交えながら、アメリカ経済・金融市場の問題点を指摘したのだ。恐らく、おバカ映画の監督として評価されてきたマッケイ監督の中には、社会派な作品も監督できることをアピールしたい思いがあったのだろう。同作で批評家から好評を博し、興行収入でもそこそこの成績を収めたマッケイ監督は、その後『俺たちニュースキャスター 史上最低!?の視聴率バトルinニューヨーク』の監督などを経て、本格的に金融を扱う本作に着手することとなった。

(C) PARAMAUNT PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.

映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』より (C) PARAMAUNT PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.

金融というテーマは、主にドキュメンタリーやサスペンスで扱われる。しかも、分かり易い説明ではなく、複雑な説明が与えられてしまいがちなので、鑑賞者は小難しい印象を抱いてしまうことが多い。また、金融という領域の中でも、サブプライム・ローンにまつわる一連の問題は、実害を被ったアメリカ国民は別にして、その他の人々からすれば、「知っているようで知らない」事柄だ。よって、金融およびサブプライム・ローンを主題とする本作では、主題と鑑賞者との間に「距離感」が生じることが懸念される。

 

映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』より (C) PARAMAUNT PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.

この問題の解決策としてマッケイ監督が採用したのが、登場人物によるナレーションだ。主に金融用語についての説明がなされるナレーションは、第四の壁(演劇や映画における観客との見えない壁)を超えて、登場人物が観客に語り掛けるスタイルで行われる。映画において、第4の壁を超えるナレーション自体は珍しくないが、本作のナレーションで特筆すべきは、俳優や歌手、有名シェフなどの著名人が、実名で登場していること。鑑賞者はその意外性に引き込まれ、さらに著名人たちが分かりやすいたとえ話を交えながら金融用語を解説してくれるため、今まで複雑なイメージを抱いていた金融用語を簡単に理解することができる。

ナレーションの他にも、『俺たち』シリーズで知られるコメディアンのウィル・フェレルと、小さな女の子が繰り広げるミニコント“The Landlord”(大家さん)など、多くの小ネタを挿入することで住宅市場に絡めた笑いを取り続け、鑑賞者を飽きさせない構成も秀逸だ。その一方では、要所でマーク・トウェインらの含蓄に富む一説を引用して、本作が単純なコメディとして終始しないことを鑑賞者に匂わせ、中だるみを生むことを防止し、展開に注視させ続けるというテクニックも光る。これらの巧みな演出が評価されたマッケイ監督は、チャールズ・ランドルフと共に、第88回アカデミー賞の脚色賞を受賞している。

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映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』より (C) PARAMAUNT PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.

金融市場を出し抜くアウトローたちの姿は愉快で爽快だが、映し出されるアメリカ国民の心理には、考えさせられるものがある。貸付業者の、「低金利なので(実際には後々つり上がっていくのだが)、低所得者でも、プール付きの家が買えるんです!」という甘い誘い文句に何の疑いも持たず、その本質(財産ではなく担保としての家を押し付けられたこと)を理解することがないままローンを組んだ国民は、絶対に爆発する時限爆弾を持たされたようなものだった。数年後、国民は「ローンは返しているから大丈夫さ!」と語るが、彼らは金利分しか返済していないこと、そして詐欺的な契約が孕む真の危険性(返済不可能な借金がもたらす住宅の差し押さえ)には気づいていない。

無論、口車で国民を騙した貸付業者の罪は重い。しかし、「マイホームの購入」という一世一代の決断を、余りにも短絡的に下してしまった国民にも、その軽薄さを内省することが求められるべきではないか?本作は、国民に対する直接的な批判を展開することはないが、鑑賞している内に、浅薄だった彼らにも責任の一端があることを感じさせる。

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映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』より (C) PARAMAUNT PICTURES. ALL RIGHT RESERVED.

終盤、アウトローたちは目論見通りに金融市場を手玉に取り、巨額の利益を得て勝利を収める。しかし、彼らの勝利は意外な副産物を生み、その副産物に象徴される金融市場の本質は、彼らの心に重くのしかかり、彼らを半ば英雄視していた鑑賞者も、予期せぬ苦みを味わうことになる。ただ、この苦みがラストに込められているからこそ、本作はリアリティに満ちた、上質な金融コメディとして完成されているのだ。この苦みがアメリカ国民や金融市場関係者にとっての薬となるか否か、それこそが、冒頭で紹介したように、暗雲立ち込めるアメリカの今後を占う指標になるだろう。

(文:岸豊)


映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
大ヒット上映中

監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット
脚本:チャールズ・ランドルフ、アダム・マッケイ
原作:マイケル・ルイス「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」(文春文庫刊)
原題 THE BIG SHORT
2015/アメリカ

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クリスチャン・ベール

生年月日1974年1月30日(44歳)
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ブラッド・ピット

生年月日1963年12月18日(54歳)
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