【レビュー】『僕だけがいない街』―物語の構造について考えさせられる一本

(C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

映画『僕だけがいない街』より (C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

藤原竜也が挑む「時間逆行ミステリー」

俳優・藤原竜也は、『DEATH NOTE デスノート』『るろうに剣心』シリーズなどの実写化作品で、連続殺人犯や復讐に燃える幕末の志士といった個性的な漫画キャラの姿を体現してきた。迎えた2016年、彼は再び漫画の実写化作品へ出演を果たしたのだが、その役柄はこれまでの実写化作品と比べると、いつになく地味なものになった。ただ一つ、タイムリープすることができるという点を除けば。

『ツナグ』『そのときは彼によろしく』で知られる平川雄一朗監督の最新作で、藤原の主演最新作『僕だけがいない街』(原作:三部けい)は、事件を防がなければ同じ時間を繰り返してしまう【リバイバル】という謎のタイムリープ現象に巻き込まれた主人公が、母を死から救うために、幼少期に起こった児童連続誘拐殺人事件の真犯人を突き止めるために奔走する姿を描いた「時間逆行ミステリー」だ。

物語は、2006年からスタートする。漫画家志望の藤沼悟(藤原竜也)は、自分の身に降りかかる事件を食い止めなければ、何度も同じ時間を繰り返してしまう【リバイバル】という現象になぜか巻き込まれていた。ある日、自動車事故から少年を救った悟は、上京してきた母(石田ゆり子)と再会する。その後、少女を誘拐から救った悟の姿を見た母は、幼い頃に地元町で起きた児童連続誘拐殺人事件を覚えているか悟に尋ねるのだが、その直後に母は何者かによって刺殺され、悟はその容疑者に仕立てられてしまう。警察に捕まりそうになったその時、悟は幼少期に【リバイバル】していた。そして悟(中川翼)は、同級生の加代(鈴木梨央)が巻き込まれた連続誘拐殺人事件の真犯人を突き止めることが、母を死から救う唯一の手段だと理解する…。

(C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

映画『僕だけがいない街』より (C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

タイムリープを物語の材料とする作品で求められることは、タイムリープが作用した過去あるいは未来を、鑑賞者が納得し得るものにすること、つまり、「主人公にとって都合が良い、根拠のない改変」を生じさせないことだ。なぜかと言うと、仮にこれが生じてしまった場合、「過去を改変する」という常識的に考えてタブーである行為を行った主人公が、酷く自己中心的な人物に見えてしまうからだ(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の主人公マーティがその典型である)。その一方で、本作のもう一つの側面であるミステリーには、謎解きを矛盾なく積み上げながら、鑑賞者にカタルシスを与える結末を導くことが要求される。

本作は導入部分から、ストーリーを追うごとに回収していくのであろう伏線(らしきもの)を随所に散りばめつつ、突然訪れる母の死や、悟がその犯人に仕立てられるという予想できない展開を連続的に描くことで鑑賞者を引き込んでいく。中盤から展開される過去パートでは、連続誘拐殺人の真相追求に併せて、本作のもう一つの骨子である、幼少期の悟と加代が織り成す切ない青春の日々を描くのだが、ここで光るのが、中川と鈴木の子役とは思えない芸達者ぶりだ。

特に鈴木の演技が秀逸で、複雑な家庭に育ったことで生まれた影のある雰囲気、表情の切り替え、涙を瞳に浮かべるタイミングなどが絶妙で、物語のドラマ性を効果的に高めている。その後、物語は複数回の【リバイバル】を通じて現在と過去を往来するのだが、その結果として、「主人公にとって都合が良い、根拠のない改変」や「謎解きにおける矛盾」は生じていないため、物語の構成は良く練られているように見える。

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映画『僕だけがいない街』より (C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

しかしながら、問題点は終盤で現れる。悟は【リバイバル】によって、過去パートで真犯人を追い詰めるのだが、狡猾な真犯人は悟の裏をかいて、逆に悟を追い詰める。このあと悟に「あること」が起きるのだが、不可解なのは、この「あること」が現在パートに戻った悟にとって、ポジティブな(都合の良い)影響だけを及ぼしている点だ。

劇中での【リバイバル】は、悟が何かしらの行動によって過去を変えるという前提の下、現在パート→過去パートという流れで起こり、何らかの目的を達成すると、悟は現在パートに戻る仕組み(悟には複数の目的が与えられており、それぞれを達成するごとに悟は現在パートへ戻る)になっている。

問題となる過去パートでは、悟は自らの行動によって真犯人を追い詰めはするものの、「あること」によって彼を捕まえることはできないまま、現在パートへ戻ってしまう。この局面での悟の目的が「真犯人の特定」であれば、【リバイバル】のルール上は問題ないように思える。しかし、真にここで成し遂げられるべきなのは、「真犯人の確保」ではないのか?

映画『僕だけがいない街』より (C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

映画『僕だけがいない街』より (C)2016 映画「僕だけがいない街」製作委員会

というのも、例え過去パートで「真犯人の特定」ができたとしても、真犯人を取り逃がしたまま現在パートへ移行し、「真犯人の確保」という最終目的が半ば自動的に受け継がれるのは、主人公にとって余りにも都合が良いとしか言えないのだ。

「あること」以降の過去パートが、なぜ現在パートに繋がるのかという過程の描写も見られないし、「あること」はどう考えても悟にネガティブな影響を及ぼすはずなのに、現在パートの悟は何事もなかったように大人になっており、なおかつ周囲に起きている変化も、悟にとって非常にポジティブなものになっている。

この過去パートと現在パートの不可解かつ都合の良い繋がりには、納得できる整合性を見出すことができず、非常にモヤモヤさせられてしまう。

これらを踏まえた上で、本作を先述した「時間逆行ミステリー」としての要件と照らし合わせると、「謎解きにおける矛盾」こそ生じていない(伏線は回収されている)ものの、これが「主人公にとって都合が良い、根拠のない改変」と、その下層にある「物語の枠組みとなる時系列のひずみ」があってこそ達成されていることが分かり、本作を優れた「時間逆行ミステリー」と称すことは難しくなってしまう。

現在パートにおける藤原や有村、過去パートでの中川と鈴木の演技には光るものがあるが、過去と現在が交錯する物語の構造における、整合性の欠如は看過されるべきではない。幸いにも原作は未完であるため、三部けいには本作と一味違う結末を導いてほしいものだ。

(文:岸豊)


映画『僕だけがいない街』
2016年3月19日(土)全国ロードショー

原作:「僕だけがいない街」三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
監督:平川雄一朗
脚本:後藤法子
音楽:林ゆうき
キャスト:藤原竜也、有村架純、及川光博、杉本哲太/石田ゆり子
主題歌:「Hear ~信じあえた証~」栞菜智世(ユニバーサル ミュージック/EMI Records)
配給:ワーナー・ブラザース映画

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