映画『山河ノスタルジア』ジャ・ジャンクー監督インタビュー「僕は、ずっと普通の人々の暮らしを描いてきた」

ジャ・ジャンクー監督l

ジャ・ジャンクー監督l

いま、世界で最も高く評価されている中国人監督のひとりだろう。ジャ・ジャンクー。1997年、『一瞬の夢』でデビューしてからまだ20年にも満たないが、その歩みはもはや巨匠と呼んでまったく差し支えない。彼は一貫して、個人と社会のかかわりを見つめてきた。前作『罪の手ざわり』では中国で実際に起きた4つの暴力事件をモデルに、従来では考えられなかった活劇的要素も展開するなど、そのキャリアにおいて大きなカーブを見せた。そして、最新作『山河ノスタルジア』では、さらなる一歩を踏み出し、わたしたちを驚かせる。

「ええ、確かに、今回は人物の感情を中心に描こうと思いました。そこはこれまでとは違いますね」

ジャ・ジャンクーの映画はこれまで、登場人物の内面に直接スポットを当てるのではなく、あくまでも淡々と綴られる出来事を通して、人々の気持ちが浮かび上がってくる独特の映像文体を有していた。それがここでは逆なのだ。『山河ノスタルジア』は、人々の感情を通して、悠久の時間の流れが浮かび上がる。

1999年、2014年、そして2025年へ。映画は、三部構成で紡がれる。ひとりの女性が母になり、やがて、その視点は息子にバトンタッチされる。限られれた人物たちの四半世紀にわたるクロニクルであることもさることながら、未来を描いている点が決定的に新しい。

(C) Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

(C) Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

「過去があるから現在があるわけですよね。過去の出来事が、現在を作り上げているとも言えます。過去を見つめることで、現在がよりクリアに見えてくるということはあると思うのです。それと同じように、未来の視点から現在を見つめるとどうなるか。ベクトルが反転しているだけで、特別変わったことをしているわけではありませんよ」

この映画はSFではない。人間ドラマである。だが、近未来としての描写もさり気なくある。しかし、そのことが現代の批評になっている。凄まじい経済発展を遂げた中国の姿が、2025年のオーストラリアを舞台にしたエピソードから、逆説的に浮かび上がってくる。

「現在があるからこそ、未来もあるのです。現在が過去とつながっているように、未来もまた現在とつながっています」

個人と社会のつながりを描いてきた監督ならではの「コロンブスの卵」的な視点だ。未来を通して、現在を考える。これはフィクションでなければできないことである。

「人は変わります。私も、過去の自分とは違う。しかし、つながっているものもある。それを描きたいのです」

あるとき時間は無慈悲なまでに過ぎ去ってしまう。そこでは多くのものが失われる。

「文明の進歩もそうですよね。2025年のパートで描きましたが、コミュニケーションツールの進化は、人と人とが直接逢うことの可能性や価値を弱めてしまうこともある」

(C) Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

(C) Bandai Visual, Bitters End, Office Kitano

しかし、この映画は悲観的ではない。

「けれども、互いを思い遣る気持ちがなくなるわけではないのです。すべてがなくなるわけではない。たとえば、歴史的な建築物は数多く残されています。時代が変わっても、残るものはある。私は、映画もそのようなものだと考えています。映画はひとつの「残留物」なのです」

ジャ・ジャンクーは「僕は、ずっと普通の人々の暮らしを描いてきた。それは今回も変わらない」と振り返る。彼は、人々の暮らしを見つめつづけることで、映画にしかできない「濾過」をおこなっている。そうして、わたしたちは、生きることの「エキス」に出逢うのだ。

(取材・文:相田冬二)


映画『山河ノスタルジア』
4月23日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

出演:チャオ・タオ(『長江哀歌』『罪の手ざわり』)、チャン・イー(『黄金時代』『最愛の子』)、リャン・ジンドン(『プラットホーム』)、ドン・ズージェン、シルヴィア・チャン(『恋人たちの食卓』)
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野
2015 年/中国=日本=フランス/125 分
提供:バンダイビジュアル、ビターズ・エンド/オフィス北野
原題:山河故人
英題:Mountains May Depart

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