【レビュー】『サウスポー』―ドラマ性は薄いが、ギレンホールの熱演は必見

映画『サウスポー』より Artwork© 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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濃厚なボクシング描写とは不釣り合いな師弟関係の薄さが惜しい

ジェイク・ギレンホール。これまでに『ドニー・ダ―コ』『遠い空の向こうに』『ジャーヘッド』『ミッション:8ミニッツ』『エンド・オブ・ウォッチ』『プリズナーズ』『ナイトクローラー』など、ジャンルを問わずに数々の傑作に出演を重ねてきた彼は、今日のハリウッドを代表する俳優の一人と言って過言ではない。そんな彼が、『トレーニング・デイ』『イコライザー』で知られるアントワーン・フークア監督とタッグを組み、驚異的な肉体改造を敢行して一人のボクサーの人生を描き上げたのが、6月3日に公開を迎えた映画『サウスポー』だ。

ライトヘビー級チャンピオンのビリー・ホープ(ジェイク・ギレンホール)は、激闘の末に4度目のタイトル防衛に成功する。しかし、打たれることを厭わない彼のスタイルは、パンチドランカーになる危険性を孕んでおり、妻のモーリーン(レイチェル・マクアダムス)は心配が絶えない。そんなある日、敵の挑発に乗ったビリーが揉め事を起こした結果、流れ弾がモーリーンに当たり、彼女は命を落としてしまう。その後、ビリーの生活は荒れてしまい、裁判所に父親として不適合と判断された結果、娘のレイラ(ウーナ・ローレンス)は養護施設で暮らすことになる。全てを失ったビリーは、名トレーナーのティック(フォレスト・ウィテカー)の元を訪れて教えを乞い、娘を取り戻すために再びチャンピオンの座を目指すのだが…。

 

映画『サウスポー』より Artwork© 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

まず驚くべきなのは、第87回アカデミー賞にノミネートされた『ナイトクローラー』で痩身のサイコパスを演じたジェイク・ギレンホールが、同作の次に出演したのが本作であることだ。『ナイトクローラー』で14キロの減量を行って67キロほどしかなかったギレンホールは、本作に向けて13キロの増量を敢行。筋肉によってしっかりとした厚みが出ている彼の体は、実際のライトヘビー級のボクサーと比較しても遜色ない。外見だけでなく、ギレンホールはボクサーとしての技術もしっかりと身に着けている。ダッキング、L字ガード、スウェーバックなどのディフェンスは無駄なく流麗に行われており、オフェンスに切り替えてからのワンツーやコンビネーションも、速さに加えて重さを感じさせる(劇中でのラウンドは、全てギレンホール自身によって行われている)。

また、試合以外の場面でも、試合の翌日に起きると口の中から血が止まらず、歩くこともままならない姿など、既存のボクシング映画では描かれることが少ないボクサーの様子にスポットが当てられている点には、職人的なディレクションで知られるフークア監督の「らしさ」を感じるし、レフェリーやリングアナウンサーにアメリカのボクシング界で活躍する実在の人物をキャスティングするという小粋な演出も、物語のリアリティをさりげなく強める演出として機能している。しかし、こうした魅力があるにもかかわらず、多くの観客は本作に対して「何かが足りない」と感じるはずだ。その原因は何か。

 

映画『サウスポー』より Artwork© 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

それは、ビリーとティックの師弟関係におけるドラマ性の薄さである。ティックは劇中で「プロは教えない」と語るのだが、これを決めた背景に関する説明は全く為されないため、そもそもこの設定がいるのかという疑問が残る。また、彼は結局ビリーのコーチを引き受けることになるのだが、劇中の描写からは、ティックがコーチを引き受けた理由が、ビリーに対する憐憫でしかないことが明白であり、これが決定的なマイナスファクターになっている。確かに、ビリーに対してティックが抱く憐憫は、彼がコーチを引き受ける理由になり得る。しかし、ビリーとティックの絆を強める何か(例えばティックも妻と子を失ったなど)が描かれなければ、師弟関係に厚みが生まれて物語に大きな感動が生まれることはない。『ロッキー』シリーズの延長線上にあるため引き合いに出すのは酷に思えるが、『クリード チャンプを継ぐ男』と比較すれば一目瞭然だ。

 

映画『サウスポー』より Artwork© 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

物語の構造を考えれば、ビリーとティックが師弟関係(原因)を結んでから、ビリーは失ったものを徐々に取り戻していく(結果)のだから、原因に観客を納得させるだけのドラマ性がなければ、後発する結果に対して観客が抱く感動が矮小化することは不可避である。

物語に根差した「どん底からの復活」というテーマは、先述の『ロッキー』シリーズや、『シンデレラマン』『ザ・ファイター』など既存のボクシング映画と共通するが、これらの作品は「師弟関係における人物描写の重視」というアプローチによって、物語における原因と結果の間に極めて高いドラマ性を生むことを可能にし、観客に大きな感動を与えた。よって、これを軽んじた本作(その責任の大部分は、脚本を担当したカート・サッターにある)が、観客に対して物足りなさを感じさせるのは必然だと言える。

…とは言え、ビリーを演じたギレンホールのパフォーマンスが必見であることは先述の通りである。また、ストーリーを彩るサウンドトラックも素晴らしい。特に、挿入歌の“Phenomenal”、エンディングテーマの“Kings Never Die”を担当したエミネムは、世界観とマッチしたリリックによってストーリーを盛り上げ続ける。タイトルにもなっている「サウスポー」が登場するクライマックスも、実に劇的で美しい。だからこそ、ストーリーの骨子である師弟関係のドラマ性が、もう少し高ければ…と思わずにはいられなかった。

(文:岸豊)


映画『サウスポー』

6月3日(金)公開

■スタッフ 監督:アントワーン・フークア 製作:アントワーン・フークア、トッド・ブラック、ジェイソン・ブルメンタル、スティーヴ・ティッシュ、アラン・リッシュ、ピーター・リッシュ キャスティング:メアリー・ヴァーニュー、リンジー・グレアム 音楽監修:ジョン・フーリアン 作曲:ジェームズ・ホーナー  編集:ジョン・ルフーア ■キャスト: ジェイク・ギレンホール、フォレスト・ウィテカー、ナオミ・ハリス、カーティス・“50Cent”・ジャクソン、ウーナ・ローレンス、レイチェル・マクアダムス、スカイラン・ブルックス、ボー・ナップ、ヴィクター・オルティス、リタ・オラ、ミゲル・ゴメス

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