西村賢太が選ぶ「横溝正史原作の映画」10本

作家の西村賢太さんは、“金田一耕助シリーズ”などで知られる横溝正史の大ファン。横溝小説を基にした多数の映像作品のなかから、愛してやまない10本をナビゲート!

※ピックアップ作品は、2012年末に発行された『シネマハンドブック2013』掲載のものとなります。ご了承ください。


西村賢太が選ぶ「横溝正史原作の映画」10本

八つ墓村

原作は、金田一耕助シリーズ長編第4作。落武者の怨念が息づくとされる村で、32人が惨殺される事件が起こる。28年後、再び発生した連続殺人に金田一が挑む。

⇒作品詳細・レビューを見る

本陣殺人事件

岡山県の旧家で新郎新婦が殺され、密室だった現場から、3本指の血痕が見つかる。時代設定が原作の戦前から現代へと変更され、金田一がジーンズ姿で登場。

⇒作品詳細・レビューを見る

悪魔の手毬唄

二つの旧家が対立する村で、その村に伝わる手毬唄の歌詞になぞらえた殺人事件が起き、金田一が真相を探る。金田一と、旧友である磯川警部の友情も語られる。

⇒作品詳細・レビューを見る

病院坂の首縊りの家

金田一最後の事件。廃墟で天井から吊るされた生首が発見され、金田一がこの猟奇殺人の謎に迫る。市川崑監督&石坂浩二主演の映画版シリーズとしても最終章。

⇒作品詳細・レビューを見る

悪魔が来りて笛を吹く

旧華族である一家で、フルートの音色とともに次々と殺人事件が発生。一族の乱れた人間関係が浮き彫りになる。銀行員が毒殺された帝銀事件がモチーフ。

⇒作品詳細・レビューを見る

悪霊島

金田一が捜していた男が、不気味な言葉を残して怪死。金田一は言葉の意味を求めて謎の島に渡る。舞台である60年代の象徴としてビートルズの曲が使用された。

⇒作品詳細・レビューを見る

蔵の中

肺炎を患い蔵に隔離された姉と、献身的に姉の世話をする弟の異様な関係をつづった物語。金田一シリーズとはまた違う、耽美的な幻想世界が映し出される。

⇒作品詳細・レビューを見る

幽霊男

金田一が、ヌードモデル猟奇殺人事件の犯人だと思われる“包帯で顔を覆った男”と対決する。ダークスーツに帽子でビシッと決めた金田一を河津清三郎が好演。

⇒作品詳細・レビューを見る

人形佐七捕物帖 妖艶六死美人

江戸時代末期を舞台に、人形のような色男である岡っ引きの佐七が殺人事件を解決する時代劇ミステリー。風流六歌仙といわれる美女6人が次々と惨殺される。

⇒作品詳細・レビューを見る

獄門島

戦死した友の手紙を預かった金田一が、彼の故郷、獄門島を訪れ、俳句を使った殺人事件に巻き込まれる。犯人が原作とは別の人物に変更され、話題になった。

⇒作品詳細・レビューを見る


『八つ墓村』―日本映画のなかで一番好きな1本で、100回は眺めています

『八つ墓村』

『八つ墓村』

横溝映画で、という以上に日本映画のなかで一番好きな1本です。原作の怪奇性のみを強調しすぎている、との批判もあるようですが、どのシーンも芥川也寸志の音楽と相まっての叙情と恐怖の連続で、観ていて飽きるところがない。CD化されたサントラ盤は、今も仕事中にBGMとして欠かせない1枚です。

壮大な怪奇ロマンと呼ぶにふさわしい名作で、中学1年の折に名画座で初めて観て以降、劇場、ビデオ、DVDで優に100回は繰り返し眺めています。萩原健一の魅力を知ったのも、この映画での抑制の利いた、主役としての好演技からでした。

『本陣殺人事件』―機械的なトリックの解明を丁寧すぎるほど丁寧に演出

『本陣殺人事件』

『本陣殺人事件』

謎解きに重きをおいた、本格的な推理映画。横溝作品のなかでも僕が最も好きな原作だけに、その映画化作には厳しい目を向けざるを得ないのですが、これはこれで、横溝世界の雰囲気を伝えることには成功しています。展開のメリハリがない分、何か唐突に謎の核心へ進むきらいはありますが、しかしあの機械的なトリックの解明を丁寧すぎるほど丁寧に演出しているのがうれしい。

低予算会社ならではの原作選びが、意外に功を奏した格好です。横溝自身は金田一役のジーンズ姿の中尾彬を“さわやか”と評しており、これには少々異論はありますが…

『悪魔の手毬唄』―若山富三郎以上の“磯川俳優”は今後もまず見られない

横溝映画のなかで、原作に忠実という点では本作が屈指のものでしょう。季節が夏ではなく冬との違いはありますが、それがこのストーリーには見事にマッチしている。オープニングで金田一が冬枯れの古沼のほとりを巡るタイトルバックは、観る者に骨へとしみ入る底冷えを覚えさせ、これから起きる悲しい惨劇の予感をいやが上にも盛り立ててきます。

特筆すべきは磯川警部に扮した若山富三郎の演技。これ以上の“磯川俳優”は今後もまず見ることはかなわないと思います。シンセサイザーとダルシマーを効果的に使用したテーマ曲も秀逸。

『病院坂の首縊りの家』―横溝正史の演技と長ゼリフがファンとしてはうれしい

『病院坂の首縊りの家』

『病院坂の首縊りの家』

一方、原作改変の度合いでは、この作品が中期横溝映画のなかではNo.1。しかしそれは決してワーストのカテゴリーには入らず、原作とは別物としての『病院坂〜』が楽しめます。本人役で登場する、横溝正史の演技と長ゼリフもファンとしてはうれしい限り。単にその作家の、在りし日の姿を眺められるだけでもありがたい。

公開当時、“これが最後だ!”というのがキャッチフレーズになっていましたが、市川監督のシリーズとしては、本当にこれをもって打ち止めにしてほしかった。後年の2作、ことに『犬神家の一族』のリメイク版は、やはり蛇足。

『悪魔が来りて笛を吹く』―DVDで映像の美しさといろいろな仕掛けに気がついた

『悪魔が来りて笛を吹く』

『悪魔が来りて笛を吹く』

劇場にて、リアルタイムで観た初めての横溝映画です。当時小学5年だった僕は、横溝ブームのもう下火に近づいていた頃の世代になるわけです。演出にいろいろな仕掛けがあったことにも気がつきました。ことさらに惨殺死体を強調するところがないのも好ましい。推理映画として実に丁寧な作り方がされています。ちなみに、僕が自分で初めて買ったレコードは、本作のサントラEP盤でした。

『悪霊島』―歴代金田一のなかで、鹿賀丈史がひょうひょうとした点では随一

いわゆる、“横溝ブーム”の終幕を引いた映画との印象。本作が公開された2ヵ月余後に、横溝正史は没しています。主演の鹿賀丈史は、歴代金田一のなかでもひょうひょうとした点では随一。基本、シャープな動きで一風変わった名探偵を好演しています。

DVDでは権利の関係で、本家の『レット・イット・ビー』、『ゲット・バック』が別アーティストによるカバーに差し替えられていますが、これが意外にも残念。別にビートルズには何のこだわりもないのに、公開時には違和感を覚えたその使用が、案外正解であったのだと今になって気づかされました。

『蔵の中』―何よりもこの原作を映像化したことに驚かされた

『蔵の中』

『蔵の中』

『悪霊島』と同時期上映だった本作。熱烈な横溝ファンだった中学2年時、公開初日の初回に横浜の封切館に出かけ(してみると、その日は学校は休みだったか?)、最終回まで立て続けに眺め続けた記憶があります。

ヒロインにニューハーフの新人を起用したのがちょっと話題になりましたが、何よりもこの原作を映像化したことには驚かされました。先般、拙作の『苦役列車』が映画化された際、“まさかの映画化”なるコピーが付されましたが、僕にとっては本作こそその感想を抱いた、ただ一度の体験です。『本陣〜』とともに、もっと評価されて然るべき佳品。

『幽霊男』―当時流行していた軽いスリラーものとしての雰囲気は満点

『幽霊男』

『幽霊男』

横溝正史は金田一のキャラクターに深い愛着を抱く一方、その映画化にはえらく鷹揚なところがあったみたいです。昭和50年までに作られたもののなかで、『本陣〜』での中尾彬以外は、みなリュウとしたスーツ姿の金田一です。本作では悪役のイメージが強かった河津清三郎がニヒルな金田一を演じていて、これがさほど悪くはない。原作の背景と撮影の時代が一致している分、当時流行の軽いスリラーものとしての雰囲気は満点。

『人形佐七捕物帖 妖艶六死美人』―若山富三郎は松方弘樹より“人形のようないい男”に近い

横溝映画では人形佐七シリーズも数多く作られています。DVD化されているものはほとんどないのが残念ですが…。本作は若山富三郎による佐七シリーズの第1作。佐七と言えばTV版での、若き日の松方弘樹の当たり役ですが、その名の由来の“人形のようないい男”との点では少々男臭すぎる。案外、若山の方がイメージ的には近いのかもしれません。中川信夫監督らしい、どこまでも娯楽に徹した一篇です。

『獄門島』―登場人物のイメージも原作とかけ離れているが、不思議と秀作

中学2年の時でしたか、京橋のフィルムセンターで昭和24年製作の『獄門島』(この映画では、ごくもんじまと発音されていた)を観たことがあります。金田一の風采以外にも犯人に関する部分が大幅に変えられていたのは興醒めでしたが、このリメイク(?)版でもやはりその部分が改悪されています。和尚や早苗のイメージも原作とかけ離れ、磯川警部の登場しないもの足りなさでありながら、しかし不思議と秀作の印象。


(C)1977 松竹株式会社 (C) 1975 高林プロダクション/東宝 (C)東宝 (C)東映 (C)1981角川映画

プロフィール

西村賢太

1967年東京都生まれ。中学卒業後、フリーターなどをしながら主に私小説を書き続ける。'07年に『暗渠の宿』で野間文芸新人賞を、'11年に『苦役列車』で芥川賞を受賞した。

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST