パリ人肉事件の張本人が樹海に…! ピンク・イヤーに目撃すべき怪作『眼球の夢』

今年公開の映画『華魂 幻影』(佐藤寿保監督)、『バット・オンリー・ラブ』(佐野和宏監督)、『64-ロクヨン- 前編/後編』(瀬々敬久監督)。公開規模も題材もバラバラに見えるこの3作品には、実はある一つの共通点がある。成人映画というジャンルに新しい風を吹き込んだことから名付けられた“ピンク四天王”という称号。今年はサトウトシキ監督を除く“ピンク四天王”と呼ばれる3監督の新作が、一挙に公開されるピンク・イヤーなのだ。

ピンク四天王で鬼才・佐藤寿保監督

ピンク四天王で鬼才・佐藤寿保監督

中でも気を吐いているのが、成人映画ながらも『狂った舞踏会』(1988)『浮気妻 恥辱責め』(1992)がロッテルダム国際映画祭で上映されるなど、国内外に熱狂的なフリークを有している佐藤監督だ。今年4月に大西信満主演の『華魂 幻影』が公開され、7月30日には日米合作の『眼球の夢』、しかもそれに合わせてレトロスペクティブ上映も計画されている。また今年3本目となる新作映画も、順調にいけば年内公開予定という。

向井寛主宰の獅子プロダクションで滝田洋二郎監督らの助監督を務め、1985年に『激愛!ロリータ密猟』で長編映画監督デビュー。以降ピンク映画というジャンルにとらわれない作風の成人映画をコンスタントに発表してきた。映画『藪の中』(1996)で一般映画に進出し、阿部サダヲ主演の『女虐 NAKED BLOOD』(1996)、松田龍平が主演したオムニバス映画『乱歩地獄 芋虫』(2005)、AV業界の舞台裏を暴いた『名前のない女たち』(2010)などを手掛けるが、作品の根底に一貫してあるものは、少女の浮遊感や視線の暴力、都市におけるコミュニケーションの断絶、アウトサイダーへの共感など。それらテーマに血と暴力とエロチシズムをまぶし、暗闇の中のスクリーンに叩き付けて来た。

強烈な作家性ゆえに、思うように映画を撮れない時期もあった。しかし21世紀に突入し、時代が混迷度を増すのと比例するかのように、追い続けていたテーマが現代社会とシンクロ。再評価の気運が高まった。佐藤監督は「今になって徐々に時代とのキャッチボールが出来てきているような感覚がある。ただこれまで“時代に惑わされてはいけない”という思いでやってきたので、キャッチボールではなく、トゲのついたボールでのドッヂボールでありたい」との思いを明かしている。

『眼球の夢』美意識炸裂のビジュアル/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

『眼球の夢』美意識炸裂のビジュアル/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

“眼球と幻肢”を題材にした映画『眼球の夢』は、佐藤監督のライフワークテーマを脚本家という立場から押し広げてきた夢野史郎との約10年ぶりのコンビ作。人の眼球ばかりに固執してシャッターを切る女流カメラマン・麻耶(万里紗)が、脳神経外科医でドキュメンタリー監督の佐多(中野剛)と出会う中で、黒ずくめの眼球コレクター(PANTA)とも不穏な対面を果たす。より一層眼球に執着する麻耶の精神状態は崩壊寸前。尋常ならざるトラウマ的過去が明かされると共に、都内では眼球をくり抜かれた惨殺死体が発見される。

佐藤監督は、観念的かつ難解でミステリアスな夢野脚本の世界観に並走するが、そこに没することなく手綱の主導権を握り、力強さとスピード感で映画全体を引っ張っていく。コントラストが意識された色彩感覚、深みのある暗闇や影を利用した表現には映画的美意識がある。脚本家・夢野も「映画自体が疾走している。そのパワーは、これまでの佐藤監督作の中でも際立っている」と認めるところだ。

万里紗/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

万里紗/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

映画初主演で浮遊するヒロイン・麻耶を、肉感的なボディのすべてをさらけ出して体現した万里紗の熱演も素晴らしく、むき出しの目でカオスへと堕ちていく様や返り血を浴びながら浮かべる恍惚の表情は“極限の狂気”そのもの。そのアシスタントで怪しい関係を匂わせるゴスロリ娘を務めた桜木梨奈にも注目。石井隆監督の『フィギュアなあなた』(2013)や佐藤監督の『華魂 誕生』(2014)で、演技を演技と思わせぬ自然体を維持しながらも強烈な自己主張をスクリーンに匂い立たせる稀有な若手女優で、大きな目玉をギラつかせながらアク強く演じる。

桜木梨奈/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

桜木梨奈/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

さらに1981年にパリ人肉事件を引き起こし、世界を震撼させた佐川一政が、あの世とこの世を繋ぐ樹海の番人・センチネルとして登場。セリフもブツブツと何を言っているのかさっぱりわからないのだが、樹海を幻想的な深海のように見立て、ポツネンと佇む佐川をその空気感と共に切り取った映像センスが、異質感のある圧倒的なシーンとして結びついた。

衝撃の展開!/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

衝撃の展開!/(C)2016 Arrete Ton Cinema, Stance Company

佐藤監督は本作を「これまでの集大成」と位置付けている。日米合作だけに、日本国内のみならず海外で紹介される可能性も極めて高いだろう。今年は塩田明彦監督、白石和彌監督、園子温監督、中田秀夫監督、行定勲監督による日活ロマンポルノリブート企画の作品が公開されるが、日活ロマンポルノが誕生する動機を与えたピンク映画というジャンルで異能を発揮していた、衰え知らずの生けるレジェンドによる力作を目撃してほしい。佐藤・夢野コンビ初期傑作『ロリータ・バイブ責め』(1987)の再ソフト化も望む。

(文・石井隼人)


映画『眼球の夢』
7月30日公開

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