『秘密 THE TOP SECRET』大友啓史監督インタビュー「脳を覗いてしまった者たちの『罪と罰』の物語であると思いますね」

大友啓史監督

大友啓史監督

この原作の映像化だから観てみたい、この監督が撮るから観てみたい──『秘密 THE TOP SECRET』は、そのどちらにも当てはまる贅沢な映画だ。人の脳に残された記憶を映像化し、それを元に捜査をする。その捜査機関「第九」が、ある事件を暴いていくミステリー。頭の中は一体どうなっているのかをテーマにした映画といえば、最近の『インサイド・ヘッド』『脳内ポイズンベリー』、もう少し遡るなら『インセプション』、もっと遡るなら『マルコヴィッチの穴』『マトリックス』シリーズなども脳内に入り込む設定だ。だが、大友監督作品『秘密 THE TOP SECRET』がそれらと異なるのは、やはり“リアルさ”だろう。頭の中という未知の世界を描くことはファンタジックであるものの、この映画に登場するキャラクター、彼らが置かれた社会、そのすべてが今の現実の世界と繋がっている。だから恐い、だから面白い。大友監督の脳内をほんの少しだけ覗かせてもらった。

──原作漫画「秘密」との出会いはNHKに在籍していた時だそうですね。

「秘密」というタイトルを含めて、その構造に興味を持ちました。他人には絶対に見せたくないもの、お墓まで持っていきたい自分の秘密が他者に暴かれてしまう物語ですが、見せたくないもの、見せちゃいけないものを「見たい」と思うのが人間、俗っぽい好奇心を持っているのが私たち人間ですよね。ただ、他者の秘密を覗く行為はものすごく面白い一方、同時にものすごく危険なことでもある。そういう深いところに向かって行く原作なので、取り組みがいがあるなと。それから、脳内映像は誰も見たことがない。ガジェットを使って科学と脳と心をどう表現するのか、そのチャレンジも面白いものになると思いました。かつて心は心臓にあるとされていたけれど、今は、すべては脳が司っていると解明されつつある。最先端の科学を扱った映画であることも、やってみたいと思った決め手のひとつです。

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

──“見たことのない映像”を映し出すための技術を待っていたということですか?

NHK時代にやってみたいと思ったものの当時の環境では難しい題材で……。その後、企画のことは忘れていたんです(苦笑)。独立して、しばらく経ってから「こういう企画があるんですが……」と声をかけてもらった。それが「秘密」でした。

──念は通じるともいいますし、大友監督の「映画化したい」という想いを、同じように作りたいというプロデューサーがキャッチしたのかもしれないですね(笑)。そして、脳内映像にもそこに映し出される秘密にも驚かされましたし、この映画自体がまるで脳内のようでもあって、とにかくものすごい情報量ですね。

多い、ですよね。脳内の映像は死者の記憶映像だけではなく、生きている人の感情も映し出されていくので、とても複雑です。それをどう分かりやすく伝えるか──何よりも脚本が一番大変でした。NHK時代に情報番組で培った、大量の情報の整理の仕方と伝え方を意識しました。脚本の執筆はどちらかというと文学を書くことに近いので、そこに観ている人が分かるように情報を整理して反映させていく。そういう脚本を作ることが思った以上に大変でしたね。

──なるほど。映像において、頭を開いて脳が映し出されるシーンは(ハンニバル・)レクター博士を超えるほどショッキングでしたが、美しくもあり、興味深くもありました。脳の情報をつなぐことで見えてくる事件の真相、その先にある記憶の温かさや愛情……視覚の情報だけでなく、さまざまな感情も受け取りました。

被害者の脳には事件の記憶だけではなく、彼らの日常のディテール──家族と楽しく過ごしている時間といった大量の記憶がある。その人が生きたすべての記憶を、いま生きている人間が扱おうとするのには無理があるわけです。裏設定としては、捜査員の脳内には殺人事件に繋がる単語などのいくつものタグがあって、そこで選別された映像が映し出される。職業的な意識として犯人を見つけるための情報だけを引っ張り出しているので、本当に美しい記憶を見逃しているということです。物語が進むにつれて、薪はそれに気づいていく。俺たちは先入観で見たいものだけを見ていたんじゃないかと。人には美しい記憶(人生)があるはずだと気づいていく物語でもあるんですよ。

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

──であるからこそ、あのラストシーンに繋がるわけですね。薪を演じた生田斗真さんは、見たことのないオーラを出していたというか、新しい生田さんを見た気がします。

生田くん自身も言っていたことですが、今回の薪という役は、どうやっても引きずる役、引きずらないと演じられない役なんです。たとえば、今日はこの映画のこの役を演じたけれど、明日は別の仕事をしなくてはならない──そうやって切り替えてしまうと、せっかく積み重ねたものがリセットされてしまう。演技の技術はもちろん必要ですが、薪にたとえるなら、彼の30年間を2時間半に凝縮して見せていく、30年間の生きた時間を2時間半で感じさせられるかどうかでキャラクター(演技)の厚みが変わってくる。生田くんには今回それをやってほしかった。でも、薪を体現することは生田くんにとってはストレスの何ものでもなくて……。薪はギリギリのところ(精神状態)を歩いている役ですからね。だから僕の(監督として彼に対する)役割としては、生田斗真にいかにストレスを与えるかでした。

──ということは、現場ではこうしてお話されている“穏やかで優しい”大友監督ではなかったということですか?

(苦笑)。生田くんにしてみたら、突き放されているような現場だったはずです。もちろんクランクイン前に話し合いの時間はありました。まあ、話し合いといよりも、さっき言った大量の情報を彼らにどう浴びせていくのか、伝える作業と言った方が正しいかもしれない。警察組織はものすごく巨大な組織で、第九は次世代の新しい捜査手法を研究している場所です。その室長が薪。あの若さで室長を任されていることがどういうことか分かるか? ということですよね。そう投げかけをすることで、俳優は自分の演じる役を類推していくんです。

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

──その類推が役の厚み、演技の厚みに繋がっていくわけですね。

準備のひとつとして警察学校を取材しています。研究室でのシーンが多いので、大学の研究室気分ではいられない(苦笑)。第九は、他の刑事たちみたいに捜査に出たりするわけではなく、基本は死者とモニターが相手。刑事であることを忘れてほしくなかったので、彼らは刑事としてどういう道を歩んで今ここにいるのかを理解してほしくて剣道、柔道、ボクシング、合気道などの格闘技をあわせた護衛術の訓練や拳銃の訓練、そういう姿を取材しました。歓迎して警察学校の方たちが歌を歌ってくれたんですが、その声は腹の底から出ていましたし、大きな慰霊碑も見せてもらった。そうやって取材出得たいろいろな資料を与えることで、自分の演じる役を類推してほしかった。今までの役づくりじゃ「到達できない役であるかもしれない」という状況に追い込むことで、本当にストレスが溜まって、それが役に映し出されていると思います。

──もの凄い追い込まれ方ですね。演じるとはどういうことなのかを突きつけられる現場でもあったんでしょうね。だから見たことのない生田さんや岡田さんがいる。この映画には、過去の大友作品に出演している俳優も何人かいますが、彼らは役の類推を含めて、監督が求めている役づくりをする俳優であるということですか?

役へのアプローチは人それぞれ。一色でくくることはできません。たとえば大森さんは『ハゲタカ』で金融のプロを演じていますが、金融についての役づくりはしていない。でも、彼の場合は「僕は感情のプロだから感情面は責任を持ちます。でも金融の知識面は監督がフォローしてください」と、自分を“感情のプロ”だと言い切るわけです。それは凄いこと。面白い話があって……大森さん、『ハゲタカ』が終わった後に金融関係の講演依頼が来て困ったそうです(笑)。

──だから生田さんたちに刺激を与え、威厳を保つ必要があったんですね。

もうひとつ試みたのは、大森南朋、椎名桔平、吉川晃司、リリー・フランキーといった僕らの世代の俳優たちを当て込んだことです映画の中で、色々刺激的な役割を演じてもらった。いいスパイスになっているかなと。

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

──みなさん怪物系の役者ですし、演じる役も怪物級でした。観客の脳にもシワ、増えると思います(笑)。分かりやすい映画が増えていることもあり、もしかすると「分からない」という壁にぶつかってしまう人もいると思うんです。でも「理解したい」「分かりたい」とも思う。この映画を観るコツ、ありますか?

いろんな人の秘密があからさまになっていって、その秘密と秘密のつながりが、さらに大きな、最も大きな秘密につながっていく。秘密の周りをコーディネイトしている情報量は多いけれど、すごくシンプルなお話です。薪と鈴木の友情の物語でもあるし、雪子の愛の物語でもあるし、事件の中心にいる絹子に関しても非常にハードボイルドではあるけれど基本は親子の愛情をめぐる物語でもある。どれも実はシンプル。そして、脳を覗くということは、その人たちの感情のドラマを見ることでもある。脳を覗いてしまった者たちの「罪と罰」の物語であると思いますね。

(取材・文:新谷里映)


映画『秘密 THE TOP SECRET』
公開中

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

(C)2016「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会

出演:生田斗真、岡田将生、吉川晃司、松坂桃李、織田梨沙/栗山千明、リリー・フランキー/椎名桔平、大森南朋
監督:大友啓史
音楽:佐藤直紀
原作:清水玲子「秘密 THE TOP SECRET」(白泉社刊・メロディ連載)
脚本:高橋泉 大友啓史/LEE SORK JUN KIM SUN MEE
製作:「秘密 THE TOP SECRET」製作委員会
配給:松竹株式会社

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生年月日1984年10月7日(33歳)
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