【レビュー】『SPY/スパイ』―大爆笑必至のスパイ・コメディ

(C)2016 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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なぜビデオスルーなのか理解に苦しむ傑作

かつてホラー・コメディの金字塔として高い人気を誇った映画『ゴーストバスターズ』のリメイク作品が、8月19日に全国公開を迎える(11日~14日に先行公開)。そのメガホンを取ったのは、『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』などで知られる、コメディの名匠ポール・フェイグ監督だ。新たな『ゴースト・バスターズ』は世界中で好評を博しているが、彼の作品で注目すべきは同作だけではない。筆者が強くおすすめしたいのが、8月3日にセル&レンタル開始となったスパイ・コメディ映画、その名も『SPY/スパイ』である。

主人公のスーザン・クーパー(メリッサ・マッカーシー)は、優秀なエージェントのファイン(ジュード・ロウ)をイヤホン越しにサポートする、CIAのオペレーターだ。見事な連携で数々の蛮行を未然に防いできた2人だが、核兵器の売買を阻止するためのミッションで、ファインは売り手であるレイナ(ローズ・バーン)という悪女に殺されてしまう。ファインの敵を取るため、自ら現場に赴くことを志願したスーザンは、イタリアのローマに渡り、レイナに接近するのだが…。

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世にスパイ映画は数多くあれど、筆者は本作ほど笑いを意識した作品を知らない。とはいえ、メガホンを取ったのはフェイグ監督なので、当然といえば当然か。導入部分からそのセンスは爆発しており、まず観客は、『007』シリーズをモロにパクったオープニングとタイトルバックにニヤリとさせられる。続いて描かれるのは、シリアスな空気が漂う潜入ミッションだ。しかし、フェイグ監督はこのシークエンスにおいて、ファインとスーザンが見せる愉快で軽快な掛け合いを通じて、本作が凡庸なスパイものではなく、コメディ色の強い作品であることを示し、さらにこの直後に「ファインの死」という予期せぬツイストを挿入することによって、本作が観客の予想通りには展開しない、非常に謎めいた作品であることも宣言して、ストーリーの魅力を高めていく。

フェイグ監督の巧みな作劇によって主人公に躍り出たスーザンを演じたマッカーシーの演技には、文字通り抱腹絶倒させられた。見るからに優しそうでふくよかなマッカーシーは、序盤こそ「感じの良いおばちゃん」として控えめな笑いを誘うのだが、物語の進行に伴い、彼女は実に危険なおばちゃんスパイへと変貌を遂げ、その過激化したキャラクターに見合う大爆笑の数々を生み出していくのである。体形に見合わぬ運動神経で「動けるデブ」っぷりを披露することで生まれる「動の笑い」、さらに、一つ一つのセリフ回しや何気ない瞬間の顔芸などによって生まれる「静の笑い」。体型同様に「幅広い」マッカーシーの笑いの取り方には、ただただ笑うほかなかった。

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また、脇を固めるキャスト陣のパフォーマンスも素晴らしい。頭髪の減少と反比例してセクシーさが年々増しているように思えるロウは、『ガタカ』『マイ・ブルーベリー・ナイツ』などで培ってきた二枚目としてのイメージを、良い意味で裏切る好演を見せている。序盤ではユーモアと少しの皮肉が入り混じったスーザン(=マッカーシー)とのやり取りで笑いを取りつつ、スパイ映画に必要とされるアクションもこなして活躍を見せるのだが、先述したようにあっさりとストーリーから離脱してしまうという意外性も面白い。早い退場は惜しまれるところなのだが、彼には大きな秘密が隠されているので、ラストまでその存在を忘れないようにしよう。

他方、現代を代表するアクション・スターであるにもかかわらず、劇中でネタキャラとして活躍を見せ続けたステイサムにも拍手を贈りたい。『トランスポーター』シリーズをはじめ、数々のアクション映画で凄腕の運び屋・殺し屋・エージェントを演じてきたステイサムだが、本作ではこれまでの出演作から鑑賞者が抱きうる「できる男」という先入観を逆手に取り、ダメダメなスパイを演じることによって、要所要所で爆笑を生んでいる。ここぞ活躍を見せるとき!ここしかない!という場面ですらそのキャラクター性はぶれることがなく、最後までネタキャラに徹する役者魂には、「あっぱれ!」と言いたくなった。

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コメディ色が強い本作だが、スパイ映画として抑えるべきことも抑えている。魅力的なガジェットの数々、ストーリーの進行に伴い登場する裏切り者たち、ヘリコプターや船を使ったド派手なアクション。特色であるコメディ性に加えて、随所に見られる見どころの数々は常に物語にメリハリを与えており、見る者を飽きさせることがない。まさかの人物の登場(ここでも『007』シリーズのパロディがある)、良い意味で緊張感がないチェイスなど、驚きと笑いがふんだんに盛り込まれた終盤の展開は、秀逸の一言に尽きる。

数々の話題作がひしめく夏休みシーズンにあっても、上質なコメディである本作は一定の興行収入を出すことができるはずだ。そもそも、ロウとステイサムという、「頭に輝きを持つ」スター2人のネームバリューだけでも、一定の観客が集められると考えるのは自然なことである。にもかかわらず、ビデオスルーとして扱われているという現実は、筆者にとって信じがたいものだった。ビデオスルー化の背景にどんな事情があるのかは不明だし、確かに絶対に劇場で見るべき作品とは言えないかもしれない。しかし、ビデオで見れば良いレベルの作品はいくらでも劇場公開されているし、その中には秀作とは言えない作品が数多く存在するのもまた事実だ。それだけに、今年これまでに公開したコメディ作品群で屈指の出来を誇ると言っても過言ではない本作が、日本で劇場公開されないという事実は、一映画ファンとして残念でならなかった。

(文:岸豊)

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