映画『グッバイ、サマー』―ミシェル・ゴンドリーの自伝的青春映画から気付かされたあるコト― 【連載コラム Vol.11】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第11回目は「大好きで、ほとんど観ている」というミシェル・ゴンドリー監督の新作『グッバイ、サマー』。この作品に出会い、探していた“ミシェル・ゴンドリーワールド”の謎がついに解けた―? そしてふと気付かされたあるコトとは。


(c)Partizan Films- Studiocanal 2015

(c)Partizan Films- Studiocanal 2015

ミシェル・ゴンドリー監督作は大好きで、ほとんど観ている。なかでも特に好きなのは『エターナル・サンシャイン』『恋愛睡眠のすすめ』『僕らのミライへ逆回転』『ムード・インディゴ うたかたの日々』──そこには、現実にはありえないかもしれないけれど、もしかするとありえるかもしれない……と思わせてくれる夢うつつな世界があって、手作り感があって、どこか哀愁が漂っていて、そして言いようのないお洒落感がある。

そんなミシェル・ゴンドリーワールドは一体どうやって生み出されるのだろう? 彼の頭のなかは一体どうなっているんだろう? 新作を観る度にその「?」は深まる一方だったが、彼自身が「この映画は100%僕の思い出からできている」という『グッバイ、サマー』を観て、少しその謎が解けたような気がした。

『グッバイ、サマー』は、14歳の少年2人が夏休みに“動くログハウス”で旅をするロードムービー。小柄で髪が長くて女の子のような外見ゆえにクラスメイトから「ミクロ(チビ)」とからかわれるけれど、それでもみんなと同じではいたくない“ダニエル”。稼業が骨董品屋で趣味は機械いじりゆえに服が油くさくて「ガソリン」とあだ名を付けられても堂々を我が道をゆく転校生の“テオ”。クラスのなかで浮いている変わり者の2人は自然と仲良くなり、息苦しい毎日から脱出するための計画を立てる。それはスクラップを集めて車を作り、その車で旅に出ることだった。

(C)Partizan Films - Studiocanal 2015

(C)Partizan Films - Studiocanal 2015

この映画はミシェル・ゴンドリーの自伝的青春映画。友だちと中古のゴーカートを買ってスーパーの駐車場を乗り回したりしたことも、車を作る計画を思いついたこともあるそうだが、ダニエルとテオの2人旅は「ファンタジーの領域にある」と語っている。ふつう自伝的映画というと、その人が実際に経験したことをベースに映画用に色をつけることが多いなか、ミシェル・ゴンドリーの場合は経験プラス夢、当時想像していたけれど実現できなかったことを映像化している。子どもの頃の夢が含まれている。それが彼らしさだ。

また14歳は、子供ほど幼くないけれど大人にはまだ遠い、子供でもない大人でもない狭間にいる年齢。学校のこと、好きな子のこと、友だちのこと、家庭のこと、将来のこと……いろんな悩みを抱えている年齢でもある。この映画を観るとダニエルやテオを通して自分が14歳の頃に何を考えていたのか、何に悩んでいたのか、どんな夢を抱いていたのか甦ってくる。大人になると、日々の仕事や生活に追われ、自分の感情に向きあうことがおざなりになってしまいがち。大人になればなるほど、感動にも気持ちにも鈍感になっていくような気がする。だから記憶のなかにある“心を潤す感情の箱”をときどき空ける必要があるのではないかと思うのだ。ミシェル・ゴンドリーの映画に強く弾かれるのは、自分の感情と向きあわせてくれるからなのかもしれない。

(C)Partizan Films - Studiocanal 2015

(C)Partizan Films - Studiocanal 2015

『グッバイ、サマー』を観て心を潤わせて(=気づかせて)もらったことは、人と同じでなくていい、時には冒険してもいい、ということ。たとえば、ものすごく個人的なことではあるけれど──結婚する・しない、子供を産む・産まない……さまざまなリミットを突きつけられる年齢にさしかかり、早く答えを出さなくては、どうにかしなくてはと焦っていた。でも、ダニエルとテオと出会い、人は人、自分は自分、自分らしくあればいいんだ、と楽になった。一般的に当てはまらない自分がいたとしても、自分だけは自分自身を受け入れてあげなくてはと、楽になった。この映画は、14歳の少年が主人公ではあるけれど、ティーンエイジャー向けの映画というよりもむしろ大人のための映画。大人に効く映画だ。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『グッバイ、サマー』
9月10日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ他、全国ロードショー

出演:アンジュ・ダルジャン、テオフィル・バケ、オドレイ・トトゥ『アメリ』
監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
2015年/フランス/104分/DCP/原題:Microbe et Gasoil/日本語字幕:星加久実
提供:シネマライズ+トランスフォーマー
配給:トランスフォーマー
宣伝:ミラクルヴォイス

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