【レビュー】映画『何者』―二つの意味で社会派な、若者必見の就活ドラマ。

©2016映画「何者」製作委員会

(c)2016映画「何者」製作委員会

重要なのは、「自分が何者なのかを認めること」。

年末に近づくにつれて、街にはスーツ姿の若者が増えていく。そう、就活の季節だ。染めていた髪は黒に戻り、華やかなピアスは耳から消える。数え切れない数の学生にとって、志望する会社への入社を目指す就活は、人生における岐路と言えるだろう。この就活を通じて、一体自分が何者なのかを探求する若者たちの姿を、朝井リョウの同名小説を基に描いたのが、15日に公開を迎えた映画『何者』である。

主人公の二宮拓人(佐藤健)は、ルームメイトの神谷光太郎(菅田将暉)と共に暮らす大学生。ある日、拓人は光太郎の元彼女で友人の田名部瑞月(有村架純)を通じて、アパートの上階に住む小早川理香(二階堂ふみ)、そして理香の彼氏である宮本隆良(岡田将生)と知り合う。時には意見を衝突させながらも、互いに励まし合いながら就活に挑む5人だったが、それぞれ秘密を抱える彼らの関係は、いつしか少しずつ壊れていき…。

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思い返せば、就活が映画のモチーフになることは珍しい。しかし、よくよく考えてみれば、就活は日本社会において最も普遍的なテーマだ。ほぼすべての人間は、生活を営む上で、仕事に就かなければならない。仕事に就くには、誰もが就活をするものである。おそらく、現在の日本社会で暮らす大人のほとんどが就活を経験したことがあるだろうし、これから大人になる若者たちも、やはり就活を経験していくこととなる。

この普遍的・社会的テーマを描く上で肝心なのは、その描写にリアリティがあるのかに尽きる。原作者の朝井は、あまり知られていないように思えるが、早稲田大学を卒業したのち、就職活動を行い、兼業作家として生活していた(※外部リンク)。彼の実体験がどれほど反映されているのかは測りかねるところだが、平成世代の就活を目撃し、体感した彼の経験は、実にリアルな就活模様を原作に落とし込むことに、間違いなく寄与していた。その映画化となった本作では、監督と脚本を兼任した三浦大輔による脚色もほぼ見られず、原作とほぼ同じ内容が描かれている(幾つかの時系列の変化、そして映像化ならではの舞台的演出は見られるが)。

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合同説明会での戸惑い、友人との励まし合い、ESが通過した時の小さな喜び、WEBテストでの「協力」、面接の通過を知らせる電話、内定を獲得した時の歓喜、無機質なお祈りメール、通らないES、他者とのスペック差、意図が読めない質問、露呈される研究不足、グループディスカッションで登場する無能な仕切り屋、友人の内定に対する嫉妬…。ポジティブなものからネガティブなものに至るまで、5人の若者が就活を通じて経験する現実の数々は、かつて就活生だった者、そして現在進行形で就活生である者に、「あるある」「こんなことあった」「分かるけど、そうじゃないんだよな」と様々な角度から感情移入を促し、物語の奥深くに力強く引き込んでいく。

こうして共感を抱いた観客は、「それぞれ異なる思想を抱く5人は、いったいどんなゴールにたどり着くのだろうか?」と思いを巡らせながら物語を追っていくわけだが、本作は終盤にかけて空気を一変させる。というのも、序盤からそう匂わせる描写が見られたように、本作はSNSが若者たちにもたらした悪しき副産物について触れることによって、恐ろしさすら感じさせる、暗く陰鬱な人間模様を紡いでいくのだ。

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SNSの登場によって、人々は物理的な距離から解放され、どこからでも、誰とでも連絡が取れるようになった。しかしその一方で、言葉を大切にしなくなった人間の数も増えた。容易に投稿でき、匿名性によって守られ、内容を即座に消すこともできるSNSは、他人を批判したり、自己を甘やかすには、ぴったりのツールとなってしまったのだ。その結果、主たるユーザーである若者たちは、言葉にすべきでない、まったく生産性のない心の声をSNS上に溢れさせるようになり、それが間違った行為であるという認識も、「みんなやっているから」の精神で、いつしか麻痺させてしまった。何も生むことがない他者批判と、甘ったれた自己の正当化は、今この瞬間も、ネットという海に放たれ続けている。真摯に自己批判をすることがない彼らは、安易な他者批判と自己陶酔で何とか自分を保とうとしているのだ。

たちが悪いことに、彼らは現実では本音を言わないことが多い。彼らは友人と会話をしている時に、わざわざその場の空気を壊すようなことはしない。言わなくても、SNSに匿名で投稿すればいいからだ。それで満足してしまうのである。そして、匿名性がある故に安心していたものの、発信者が自身だと見破られ、歪んだ人間性を追求されると、その批判から目をそらすことしかできなくなる。本作は、若者によるこうした行動が、就活という他者による否定に満ちたステージにおいて、極めて色濃く現れるようになるという、厳しい事実を提示するのである。劇中の終盤にかけて、実に意外な人物の実像を通じて暴き出される、SNSとその源となったネットという広大な情報の海が生んだ若者の心の闇は、嫌になるほどリアルで、痛々しかった。しかし、現実世界に存在する以上、目を逸らしてはいけないと感じさせるものがあったし、実際に反省させられる若者たちも多いことだろう(無論、同じようなことをしている大人たちにとっても)。

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ただ、本作はその人物に対して、絶望ではなく、一握の希望を残して物語の幕を閉じるのが素晴らしい。重要なのは、「自分が何者であるか」、そして「他者が何者であるか」を素直に認め、自分を高めることだ。そうしてこそ、人は成長できる。自分が現実で何者であるかを認めることなく、他者を何者であるとカテゴライズして満足する人間になっても、何の成長も期待することはできない。こうしたメッセージ性が込められたラストは、若者に限らず、SNSに近しい日本人の心に普遍的に響くはずだし、特にこれからの就活生にとっては味わい深いものになるに違いない。

朝井が築いた物語に加え、キャストの熱演にも拍手を送りたい。佐藤、有村、菅田、二階堂、岡田はそれぞれ見事としか言いようがないほどのハマりっぷりを見せており、筆者は彼らがまるで、あて書きされていたかのような印象すら抱いた(その中でも特に、菅田の光太郎という役柄に対する親和性の高さには脱帽するほかなかった)。良い物語と良い役者が組み合わされば、やはり良い映画ができるものである。就活とSNSという、現代の日本社会を象徴する二つの要素が見事な融合を見せている映画『何者』は、この秋必見の作品として、ぜひおすすめしたい。

(文:岸豊)


映画『何者』
絶賛、販売レンタル中!

出演:佐藤健 有村架純 二階堂ふみ 菅田将暉 岡田将生 / 山田孝之
原作:朝井リョウ『何者』(新潮文庫刊)
監督・脚本:三浦大輔
音楽:中田ヤスタカ
主題歌:「NANIMONO(feat.米津玄師)」中田ヤスタカ
企画・プロデュース:川村元気

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朝井リョウ

生年月日1989年5月31日(29歳)
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