【レビュー】映画『インフェルノ』―現代的でシンプルな、シリーズ最高傑作!

インフェルノ

観客が入り込みやすい現代性とシンプルなトリックが秀逸

ミステリーというジャンルにおいては、観客を欺くことが極めて重要になる。その手法は様々だが、凝りに凝ったトリックよりも、極めてシンプルなトリックを用いる方が効果的なことも多い。トム・ハンクスを主演に、そしてロン・ハワードを監督に迎え、作家ダン・ブラウンが発表した同名ミステリー小説を実写化した「ロバート・ラングドン」シリーズ3作目の映画『インフェルノ』は、この典型と言える作品である。

ハーバード大学の宗教象徴学者ロバート・ラングドン(トム・ハンクス)は、フィレンツェに位置する病院の一室で目を覚ます。痛む体、そして失われた数日間の記憶に戸惑うラングドンは、正体不明の女に命を狙われるが、医師シエナ・ブルックス(フェリシティ・ジョーンズ)の助けによって辛くも窮地を脱し、少しずつ記憶を取り戻していく。その後、人口超過が招いた地球の崩壊を憂いた天才生化学者バートランド・ゾブリスト(ベン・フォスター)が、世界の人口を半分にするウィルスをどこかに隠したことを知ったラングドンは、シエナと共に、ダンテの『神曲』<地獄篇>に隠された暗号を解きながらその在処を探すのだが、彼がたどり着いた真実は、予想だにしないものだった…。

1作目の『ダ・ヴィンチ・コード』では、イエス・キリストの遺物である聖杯をめぐる戦いが、2作目の『天使と悪魔』では、秘密結社イルミナティの暗躍とその陰で進むコンクラーヴェ(ローマ教皇の選挙)が描かれたように、本シリーズはキリスト教にまつわる事物をストーリーの核としてきた。しかし、今回取り上げられているのは「人口超過が招いた地球の破壊」、そして「世界の人口を半分にするウィルス」という極めて現代的なものだ。キリスト教にまつわる事物が小難しい印象や敷居の高さを感じさせる一方、人口超過は日ごろからニュースなどで取り上げられていることもあり、考えやすいテーマとして観客を引き込む。

これに関しては、ゾブリストによるプレゼンテーションも効果的に機能している。ゾブリストは、人口超過が地球にもたらした数々の害悪を、説得力のある映像と具体的な数字を交えながら紹介するのだが、演じるフォスターの渋さ・貫禄も相まって、彼の主張は非常に説得力があるように思えるのだ。部分的にはかなりラディカルで、肉付けが足りないという印象も抱かせるのだが、それでもなお、「彼が言っていることは、本当に起こるのかもしれない」と思わせる、いわばカリスマ性のようなものがゾブリストにはある。こうして、いかにも悪役っぽい雰囲気を漂わせるゾブリストが「絶対的な悪」とは思わせない主張を展開することにより、観客は本作に対して、ラングドンが「絶対的な正義」として悪の陰謀を打ち砕いてきた過去の二作品とは異なる印象を抱き、ストーリーの奥深くへと引き込まれていくのである。

 

過去作品との明確な違いを宣言するゾブリストの演説が小道具として機能すると同時に、記憶喪失に陥ったラングドンの姿も、プロット上の重要な歯車となっている。これまではどんな時も頭脳明晰な姿を見せてきたラングドンが、記憶をたどることができず、アナグラムの解読や頭の中にある知識を引き出すのに苦労するというだけで、物語にはこれまでなかったサスペンスと新鮮味が生じる。さらに面白いことに、この記憶喪失という設定には、もう一つの側面が隠されている。というのも、曖昧模糊として意識の混濁に苦しむラングドンの姿は、序盤に隠された真実から観客の目を欺く、一種の目くらましでもあるのだ。

相も変わらず、キリスト教にまつわる事物をヒントとした謎解きは、ほぼすべての観客にとって「お手上げ」なものだ。よりによって、今回はダンテの『神曲』である。おそらく、日本人で読んだことがある人は、ほんの一握りに過ぎないだろう。しかし実のところ、ラングドンによる『神曲』の謎解きは、本作においてさしたる意味を持たない。というのも、観客がたどり着く真実の欠片は、これとは全く関係ない場所に散りばめられているのだ。勘の鋭い観客なら、序盤のシーンに散りばめられた、いくつかの違和感に気づくことができるだろう。実際のところ本作は、オープニングからストーリーとは直接関係しないように思える画面の端々に目を向けていると、意外な真実にたどり着くことができるよう設計されているのだ。良いミステリーの条件は、観客にとってフェアであり(=専門的すぎないこと)、意外性がありながらも極端に複雑ではないトリックを用いて観客を欺くことだが、本作はこの二つの条件を見事に満たしている。

プロットに加えて、キャスト陣のパフォーマンスも秀逸だ。主演のハンクスは、記憶喪失という新要素の登場に伴い、「苦境にあえぎ続ける」ラングドンの姿を、熟練の向こう側と称すべき深みのある感情表現で見事に体現してみせた。また、ラングドンの相棒として謎解きに挑むシエナを演じたジョーンズは、その清廉な容姿がラングドンの相棒としてハマっており、終盤で見せる大活躍によっても、強烈なインパクトを残している。ラングドンを追いかけるWHOの事務局長エリザベス・シンスキーを演じたシセ・バベット・クヌッセンや、同じくラングドンを追う監視・対応支援チーム(SRS)の隊長クリストフ・ブシャールに扮したオマール・シーも、これまでのイメージになかった色を出すことに成功している。

終盤で明かされる衝撃の真相は、それまで積み上げてきたトランプタワーを吹き飛ばされるような、なかなかショッキングなもので(先述したように、物語の隅々を注視していれば予測できるものではあるのだが)、エンディングもホロリとくるものがある。注文を付ければ、最終的に明かされる2人の男女の関係性が、もう少しばかり肉付けされていれば言うことなしなのだが…。とはいえ、極めて現代的なトピックを軸とすることで、ストーリーに観客を引き込む普遍性や時代性がなかった点を修正し、なおかつシンプルで意外性を感じさせるトリックによって観客の目を欺いてみせる本作は、シリーズ最高傑作と言って差し支えないだろう。

(文:岸豊)


映画『インフェルノ』
大ヒット上映中

監督:ロン・ハワード(『ダ・ヴィンチ・コード』『ビューティフル・マインド』)
原作:ダン・ブラウン(「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」)
製作:ブライアン・グレイザー(『ダ・ヴィンチ・コード』「24」シリーズ)、ダン・ブラウン
脚本:デヴィッド・コープ(『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』『ミッション:インポッシブル』『スパイダーマン』)
出演:トム・ハンクス(『ブリッジ・オブ・スパイ』『ダ・ヴィンチ・コード』)、フェリシティ・ジョーンズ(『博士と彼女のセオリー』)
オマール・シー(『最強のふたり』)、イルファン・カーン(『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227 日』)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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アーティスト情報

ダン・ブラウン

生年月日1964年6月22日(54歳)
星座ふたご座
出生地米・ニューハンプシャー

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トム・ハンクス

生年月日1956年7月9日(62歳)
星座かに座
出生地

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ロン・ハワード

生年月日1954年3月1日(64歳)
星座うお座
出生地米・オクラホマ

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