映画『シークレット・オブ・モンスター』―観れば観るほど気づきが生まれ、知りたい欲望を掻き立てられる【連載コラムVol.15】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第15回目は、心理ミステリーの傑作とされる『羊たちの沈黙』の監督(ジョナサン・デミ)が絶賛したという、『シークレット・オブ・モンスター』。観るたびに発見があるという本作の深い魅力について語ります。


(C)COAL MOVIE LIMITED 2015

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※ネタバレ注意

何度も観返したくなる映画には2パターンあって、単純に自分の好みで面白いから観る場合と、観る度に新しい気づきが見つかる、埋められずにいるパズルのピースを見つけたくて観る場合がある。『シークレット・オブ・モンスター』はもちろん後者。

2015年ヴェネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で監督賞と初長編作品賞をW受賞していることも「観たい!」と思ったきっかけで、しかもその年のオリゾンティ部門の審査委員長を務めたジョナサン・デミ監督が「身震いする緊張感、戦慄の映画」と大絶賛。心理ミステリーの傑作とされる『羊たちの沈黙』の監督が絶賛する作品を観ずにはいられなくて。そして二度三度くり返し観るほどに「そういうことか!」とゾッとする秘密──独裁者はどうやって生まれていったのか、その隠れた秘密を知る。謎解きというよりも人間の心理をどう受け取るか、理解するかという面白さがあった。

(C)COAL MOVIE LIMITED 2015

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舞台は第一次世界大戦を終えた1918年のフランス。ヴェルサイユ条約の作成を目的にアメリカからフランスへ派遣された国務次官候補が、妻と息子と一緒にパリ郊外の町へやってくるところから物語は始まる。その中心にいるのは幼い息子、後に独裁者となる少年プレスコットだ。20世紀はアドルフ・ヒトラーをはじめベニート・ムッソリーニ、ヨシフ・スターリンなどの独裁者が生まれた時代。そういった独裁者はいかにして独裁者となったのかを、サルトルの短編小説「水いらず」に着想を得て、監督独自の視点で心理ミステリーとして描いていく。

プレスコットは常に怒りを抱いているように見え、その怒りを増幅させていくのは彼の周りにいる大人たちだ。仕事で忙しい父親、神への信仰心が強すぎる母親、フランス語の家庭教師アデレイド、記者らしき若い男リチャード……。最初にひっかかったプレスコットの言葉は、彼が母親に投げかける言葉、愛情を確かめる言葉──「僕より好きなの?」「僕より皆が好きなの?」だった。この疑問がプレスコットの怒りのスイッチだったように思える。人は、一度疑問を抱いてしまうとその疑問を正当化するかのように事実をねじ曲げて見てしまうことがある。プレスコットの場合は、父親とアデレイド、母親とリチャードがそれぞれ親密そうに話しているのを目にしたことで、そこから明らかに態度が変わっていく。愛されること、愛されていると感じることがどれだけ人間にとって重要なのか、愛情の欠如が生み出す恐怖にも見えた。

(C)COAL MOVIE LIMITED 2015

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そうやって蓄積されていくプレスコットの怒り。ラスト13分に訪れる衝撃的なシーンは、プレスコットの“癇癪”が急に爆発したかのように映るかもしれないが、実は徐々に彼のなかで火種は育っていて、あの行動の前には、予兆であろう何気ない言動がいくつも描かれている。その予兆を、小さな癇癪が起きた瞬間を繋いでいくと、ラストシーンの出来事は突発的ではなかったことが分かる。むしろ計画性さえ感じる。

また、「そういえば……」と後々に気づくのは、プレスコットを見つめている何者かの視線だ。誰の視線なのかは明確に提示されないものの、さりげなくかつ意図的にそういうシーンが差し込まれている。たとえばプレスコットとアデレイドが散歩している姿をものすごく遠くから俯瞰で捉えたシーン。あるいは冒頭に登場するエレベーターとステンドグラスのような丸く大きな天井窓。これはラストシーンにも登場するが、その繫がりが意味するのは、小さなプレスコットがどういう大人になるのかがすでにあの時に決まっていたかのような、恐ろしい運命を表していたかと思うと、よくできたパズルミステリーだなぁと感心する。そしてラスト3分でスクリーンに映し出される大人になったプレスコットの姿を見て、最後の最後でも「そういうことだったのか!」という衝撃を味わうだろう。

(C)COAL MOVIE LIMITED 2015

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もうひとつ印象的だったのは、イソップ物語のライオンとネズミの話だ。フランス語を勉強するための本として母親が用意するのだけれど、この物語にも、少年が狂気のモンスター=独裁者へと変貌する予兆が隠されている気がする。ライオンに捕まったネズミが命乞いをして、その恩返しとして、人間の罠にかかったライオンをネズミが助けるという寓話で、一般的な教訓としては「時として自分より小さなものがとてもおおきな助けとなる」だが、この映画のなかで2度この物語が引用されているということは、やはり意味があって──“小さいからといって油断するな”とでも言っているような、美しい少年が将来とんでもないモンスターになる、そんな暗示にも見えてゾッとする。『シークレット・オブ・モンスター』は、もう一度観たらもっと別の発見があるかもしれない……と、知りたい欲望を掻き立てる、何度も観たくなってしまう心理ミステリーだ。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『シークレット・オブ・モンスター』
公開中

【監督】ブラディ・コーベット
【脚本】ブラディ・コーベット/モナ・ファストボルド
【出演】
ベレニス・ベジョ「アーティスト」「ある過去の行方」、
ステイシー・マーティン「ニンフォマニアック」、ロバート・パティンソン「トワイライト」シリーズ
リアム・カニンガム「ゲーム・オブ・スローンズ」、トム・スウィート
2015/イギリス、ハンガリー、フランス/英語、フランス語/116分/カラー/ヨーロピアンビスタ/ドルビーデジタル
原題:thechildhoodofaleader
G提供:日活、REGENTS
配給・宣伝:REGENTS

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アーティスト情報

ベレニス・ベジョ

生年月日1976年7月7日(42歳)
星座かに座
出生地アルゼンチン・ブエノスアイレス

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