【インタビュー】「どうだ!」って映画は疲れちゃうんです-第2回TCP審査員特別賞受賞者・箱田優子

箱田優子

箱田優子

11月10日(土)に都内で開催された、クリエイターの発掘と育成を目的とした第2回「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM(TCP)」最終審査会。375作品の応募企画からグランプリ1作品、準グランプリ2作品、審査員特別賞1作品の計4作品の映画化が決定した。この度、『ブルーアワー(仮)』で審査員特別賞を獲得した箱田優子氏にインタビューを行った。

「あ、やっぱりツラい…最悪だな」と思って作りました

映像の制作会社で「TOYOTA」「日産」「Google」など数多くのCM制作を手掛けてきた箱田氏。今回のTCPの受賞については「長編を書いてることは周りにも言ってなかったので『映画撮りたかったんだ! 撮ってほしかったんだよね』という声がありました。自主映画を撮り続けてきたわけでもない自分が、今回特別審査委員賞を受賞したことは本当にミラクルですね」と話す。

そんな箱田氏の作品『ブルーアワー(仮)』は、33歳の妙齢女・夕佳を主人公にした物語だ。東京の映像会社に勤める夕佳はひょんなことから、友人のあさ美と地元の茨城に帰省することになる。しかし、田舎育ちのコンプレックス、両親との溝、病気の祖母など、夕佳にとって地元は決して居心地の良い、帰りたくなるような場所ではなかった…。

TCP最終プレゼンより

TCP最終プレゼンより

そんな本作の企画について「もともと自分の話なので、いつの日か形にしたいと思っていました」と語る箱田氏。

「TCPは企画の段階でコンペにだせるので、今まで積み上げてきた地元への思いとか、家族への思いのモヤモヤを消化できる丁度良いタイミングかなって思いました。ただそのモヤモヤを実際に脚本にしていく時に、今回の作品のキャストが右往左往して、影響を受けるような内容にするためには、もっと自分自身が辛い思いをしなければならない。だから、実際に実家に帰ってみて、全然喋っていない親と話してみたりして『あっ、やっぱりこういうのツラいんだな…最悪だな』と思いながら書いていきました(笑)」

自身が抱え込んできた、田舎への想い、家族への想い。正直、今回のTCP受賞作品の中で『ブルーアワー』はもっとも地味な話かもしれない。しかし、その題材には、誰しもが身近に感じることのできる要素が詰まっている。

箱田優子

箱田優子

「作品が世に出たら、それは受け手のモノになるので、こちらからどうこう言うことは絶対にしないんですが…ただ誰しもどこかしらの生まれで、どこかしらで働いていて、みんな家族に対しての想いとか、地元への想いとかがあって…。自分の話ではないけど、自分の友達の話かな、と感じてもらえる作品になればいいいなと思います」

誰しもが持つ親や地元、そしてそれに対する想いは、人によって千差万別のものだ。しかし、本作で箱田氏が描き出そうとしているものは、誰の日常の中にもひっそりと、しかし確実に存在する出来事や想いなのではないだろうか。

「どうだ!凄いぜ?」っていう作品は疲れちゃうんです

そんな親近感のある身近な作品作ろうと思った背景には箱田氏ならではの映画への思いがあった。プレゼンテーションで昨今の映画について「『どうだ!凄いぜ?』っていうものをみると疲れちゃうんです…私はそんなドラマチックな人生送ってないし、私には関係ない話かな? と思ってしまうんです」と語っていた。

「学生時代は美大で現代芸術にどっぷりつかっていました。その時期は、『オリジナリティ溢れる、観たことないモノ見せてくれ!』みたいな感じが求められていたんですが、『観たことないんだから、そんなのしらねぇよ!』って思ってました(笑)。自分の興味が一番あって、面白いと思える身近なモノの方が、観客としても見てみたいし、自分としても自信を持って出せると思ったんです」

TCP最終プレゼンの模様

TCP最終プレゼンの模様

「自分とは関係ないな」と思ってしまう遠い世界の話ではなく、一観客としての視点から、自分自身が身近に感じるおもしろい作品を作る。そんな観客目線からの映画作りには、これまでのCM制作にも通ずるものがあったのだろうか。

「CM制作では、自分がどういう表現をしたいかということより、買ってほしい人がどのような気持ちでテレビの前にいるのか、その人の顔を想像しながら作ることを大事にしてました。流れる映像の中で、CMは辛辣に受け止められる。その中で、どんな映像や話しかけ方だったら有象無象にならずに『ちょっと見てもいいかな』と思ってもらえるかを大切にしていました」

あくまでも、受け取り手側がどう感じるか。自分の表現以上に相手の立場を思ってCMを創り上げてきた箱田氏。そんな思いがあればこそ、ドラマティックな展開はなくとも、より多くの人の心の中に染み込んでいくような、優しい、寄り添ってくれるような作品が生まれるのかも知れない。

おもしろい映画とは?-「世界が変わっている映画」

最後に、箱田氏に「おもしろい映画」について聞いてみた。「観終わった後に、世界が変わっている映画。劇場から出た後に、『この街ってこういう街だったっけ』、と思えるような。本作であれば、例えば新宿で観たとして、『あ~歌舞伎町に消えていく人たちもどこかの出身なんだろうな…』と思えるような映画になればいいなって思います」。

箱田氏が語る“世界を変える映画”というのは、観ていた景色が全く別のものになるという意味ではないだろう。見えていた世界の細部から、今まで気が付かなかった新たな何かが見えてくるような映画。本作『ブルーアワー』も、そんな日常に寄り添いたくなるような映画が生まれるのではないだろうか。

(取材・文/nony)

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