映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』―戦争における正義とモラルと命についての問いかけ【連載コラムVol.16】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第16回目はヘレン・ミレン主演の『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』。映画の話はもはや他人事ではない…日もそう遠くない? 人工知能を持つ機械ロボットやアンドロイドと戦う未来に恐怖を感じる中、確実にその道を歩み始めている世界。わかりやすいところでは、ドローンの戦争投入があるが、これは果たして戦争なのか? それとも…? 本作を通じて感じることは…


(C)eOne Films (EITS) Limited

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「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きてるんだ」という、日本ではお馴染みの青島刑事の名言があるが、イギリス映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』からは「戦争は現場で戦うんじゃない、会議室で戦うんだ」というセリフが聞こえてきそうだ。

主人公キャサリン・パウエル大佐(ヘレン・ミレン)は、イギリスのロンドンにある常設統合司令部から指令を出している。それは遠く離れたケニアのナイロビにいるテロリストの“捕獲”作戦だったが、彼らが大規模な自爆テロを決行しようとしていることが発覚し、“殺害”作戦へとエスカレートしていく……。

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この映画は現代の戦争の裏側、戦争の実態を描いている。同テーマで描かれてきた『ハート・ロッカー』『ゼロ・ダーク・サーティ』『アメリカン・スナイパー』などと異なるのは、テロリストに向かっていくのが兵士ではなくドローンであることだ。現地にも工作員は数名いるが、上空6000メートルを飛ぶ“空からの目(無人偵察機)”がターゲットを捉え、ロンドンの司令部で出された指示をアメリカの空軍基地が受け、ドローン操縦士のスイッチひとつでテロリストを仕留める。まるで戦争ゲームのような感覚に陥りそうだが、そうはさせないのが面白いところ。誰が最終的な決断を下すのか? 殺害作戦の「GO」を出すにしても出さないにしても、その最終決断までのやり取りがメインストーリーとなる。

そのやり取り──パウエル大佐をはじめドローンパイロットとそのチーム、国家緊急事態対策委員会、空軍基地、ホワイトハウス……米英の軍幹部や政府高官を含む人たちが一緒になって標的を特定し、その標的を排除するための特殊部隊を派遣して攻撃態勢を作る。それを軍では“キル・チェーン”と呼ぶそうで、最初この映画のタイトルは『キル・チェーン』だったと言う。

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現地の映像が主要人物たちのパソコンに送られ意見を交わす。そのなかでミサイル発射の最終決断は誰がするのか? 誰が責任を持つのかをたらい回しにするような危機的状況が生まれる。というのは、破壊準備に入った時に標的であるテロリストの家の前にパン売りの少女がやって来たからだ。ミサイルを発射すればテロリストによる自爆テロは阻止でき、100人近くの命が助かる。けれどミサイル発射によって1人の少女の命が犠牲になる可能生もある。その議論がそれぞれの会議室で行われる。“多くの人を救うための1人の犠牲は許されるのか?”という正義とモラルと命についての問いかけが主軸テーマだ。一見、会議室から指令を出すゲームのような映画になりそうな設定がそうならないのは、ヘレン・ミレン、アラン・リックマン(この作品が遺作となってしまった)など、演技派俳優が演じていることも大きい。

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また、元々の脚本では主人公は男性だったそうだが「男たちの戦争映画にはしたくなかった」「男と女が出てくるべきだと思った」とギャヴィン・フッド監督が語るように、司令側もドローンチームもテロリスト側もそれぞれに女性キャラクターが設定されている。ちなみに各セクションはパソコンなどのスクリーンを通じて議論する=(俳優は)何も映し出されていないスクリーンに向かって演技をする、俳優にとって想像力の必要な撮影だった。

小学生の頃に『ターミネーター』を観て、そう遠くない未来、人間は人工知能を持つ機械ロボットやアンドロイドと戦うのだろうか? そんな未来が本当にやってくるのだろうか? もしもやってきたとしたら? ものすごい恐怖を感じたのを覚えている。そして今、アメリカは現実にテロリストに向けてドローン攻撃を行っている。すでにそういう未来を歩んでいる──観るべき映画だと思った。

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登場人物たちはミサイルを発射するかどうか決断を下すわけだが、出した決断は正義なのか不義なのか、モラルに反しているのかいないのか、はっきりと明確な答えは提示していない。ゆえに考える。どんな命も大切であることは分かっていながらも、それでも考えさせられてしまうのはこういう時代だからなのだろうか……。『ターミネーター』のようなSF要素がない分、『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』の方がずっと恐い。本当に恐い。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』
TOHOシネマズシャンテにて先行公開中
2017年1月14日(土)全国公開

監督:ギャヴィン・フッドト
脚本:ガイ・ヒバート
プロデューサー:ジェド・ドハティ、コリン・ファース
出演:ヘレン・ミレン、アーロン・ポール、アラン・リックマン
2015/イギリス/スコープサイズ/102分
提供:ファントム・フィルム/ハピネット
配給:ファントム・フィルム

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生年月日1981年11月2日(36歳)
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出生地米・カリフォルニア・ロサンゼルス

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