【インタビュー】映画『3月のライオン』神木隆之介×大友啓史監督「将棋に向きあう人間をシンプルに撮っていけばいいんだと確信した」

桐山零役の神木隆之介と、大友啓史監督

桐山零役の神木隆之介と、大友啓史監督

この2人は、運命を引き寄せあっているように見える──。『るろうに剣心 京都大火編伝説の最期編』で出会った大友啓史監督と神木隆之介はその後2度目の再会を果たし、『3月のライオン』で前回よりも濃密な時間を過ごした。

『3月のライオン』の企画が立ち上がったのは2010年4月、『るろうに剣心』の撮影に入る前だった。そして2014年の『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』公開後に本格的に脚本に取りかかるが、その時、大友監督のなかで主人公・桐山零として真っ先に浮かんだのは、神木隆之介だった。

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

「見た目や演技力からみても桐山零を演じられる役者は神木くんしか思いつきませんでした。『るろう~』で瀬田宗次郎を演じてもらっていますが、宗次郎はバックグラウンドや内面的な変化を描く分量が少ないキャラクターで、アクション表現がメイン。最後の壊れていく場面で少しだけ内面(感情)を見せていますが、神木隆之介の俳優としての能力をまだまだ撮り切れていない気がして……彼の芝居をもっと見たい、もっと撮ってみたくなった。桐山零は17歳の設定なので、神木くんの年齢的にも“今”撮らないと逃してしまうと思ったんです」

誰もが認めるハマり役となったが、もうひとつ神木さんでなければならない決め手があった。大友監督は続ける。

「零くんは14歳でプロ棋士になりましたが、その年でプロという状況や気持ちは普通の人にはなかなか理解できないこと。でも、神木くんは子供の頃から芸能界で仕事をしてきた、言ってみれば子役だってプロですから、もしかしたら彼が経てきた経験自体が今回は大きな武器になると思った。桐山零を演じている神木隆之介の生き方にもカメラを向けるような、ある意味ドキュメンタリーですよね」

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

本人もそれを快諾。とはいっても、幼い頃に両親と妹を交通事故で亡くし、父親の友人であるプロ棋士の幸田柾近に内弟子として引き取られる──生きていくために将棋を選んだ桐山の心情を演じるのは「難しかった」と神木さん。今回の役づくりで重視したのは“距離感”だった。

「この映画は桐山零の日常を撮っていくので、このようなキャラクターと決めるよりも、彼が接していくそれぞれの人との距離感で演じるというか。人は、親しみの度合いによって対応が変わるのではないかと思います。相手との距離感を測りながら接していくことで、リアリティのある演技につながると思ったんです」

大友監督も神木さんのその役づくりに大きく頷く。

「僕自身、キャラクター化という言葉があまり好きじゃないんです。たとえば、キレるキャラとか○○するキャラとか、人は何かとキャラクター化して、その人を一つの性質にはめ込み理解したがります。でも神木くんが言うように、生身の人間は対峙する人によって変化するものですし、TPOによっても変わる。ドラマ化や実写化というのは、実はキャラ化するのとは真逆の作業だと僕は思っていて。優しいけど冷たい、とか怖いけど実は優しいとか、強いけど弱いとか。そういう裏表というか、幅がどこかで感じられないとつまらない人間に映ってしまいますから。零くんにおいても、将棋を指しているときは穏やかで冷静に見える、3姉妹の前ではちょっとオドオドしているようにも見える、でも実は心のなかにライオンを飼っていてライオンのような荒々しさや強さもある──ものすごく多面的です」

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

さらに神木さんに課せられたのは、将棋の特訓。撮影の2ヵ月前から本格的なレッスンがスタート、日本人が当たり前に箸を持って食事をするように、将棋の駒を指すことを求められた。どうやってプロ棋士へと近づいていったのか。

「もともと将棋は好きなので、この役を演じることで将棋が強くなると思うと嬉しかったですし、楽しかったです。将棋のレッスンは実践向きで、自分に合った囲い方とか戦法を教えていただきました。たとえば、居飛車と振り飛車だったら振り飛車のほうが好きなので、まずその基本を教えていただき、そこから神木らしさ=桐山らしさを広げていきました。最初は駒を指す動きの練習もしていましたが、実践で対局を重ねていけば自然と指し方もきれいになるかなと、実践派でした(笑)」

桐山をはじめとする棋士たちの対局をどう撮っていくのか。大友監督がたどり着いたのは、意外にもシンプルなものだった。

「棋士たちが対局相手と向きあい、盤面の前に座るまでのそれぞれのドラマを描いていけば、観客は彼らの気持ちを共有してくれるはずだと思いました。いい年をした大人たちが81マスの将棋盤と駒をはさんで、何時間も向きあう、対局によっては3日間も向きあう、頭を抱えながら向きあう、それってすごく面白いじゃないかと。そして、そういうことをやっている棋士とは一体どういう人たちなのかを掘り下げていく。それは登場人物が背負っているもの──島田は故郷の山形を背負い、後藤は病気の奥さんを背負い、零くんはもっと業の深いものを背負っているわけです。また、俳優たちが将棋の練習をしている姿を見て、将棋に向きあう人間をシンプルに撮っていけばいいんだと確信しました」

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

であるからこそ、対局シーンは実際の対局さながらで、1カット10分かけることも、1つの対局を1日かけて撮影することも、この現場では当たり前だった。プロ棋士の方いわく、対局が終わると2〜3キロ体重が減っていることもあるそう。もちろんこの映画の撮影も同様で「体力と精神力はかなり削られました」と神木さんはふり返る。

「対局シーンは各ブロックごとに撮影していますが、僕らはその棋譜をすべて頭に入れて臨んでいます。プロ棋士の方たちから一手一手、意味を教えていただきました。何故ここに指すのか、それは何十手先にこういう仕掛けがあるからで、だから今ここを狙っているんだと──。そのような過程を踏みながら撮影していくので、1回の撮影が15分になったこともあります。そのなかで迷いや動揺、何を考えているのかを省かずに描いている。僕が指して、相手が指すまでに2〜3分待つので、水を飲んだり身体を動かしたりしながら、次に相手はどう出てくるのかを予想して自分の次の一手も考えていく。疑似体験ですが、棋士として生きることができて、本当に楽しかったです」

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

(C)2017 映画「3月のライオン」製作委員会

「もっと神木隆之介を撮ってみたい」と再会した2人だが、この『3月のライオン』によって“もっと”はさらに膨らみ、大友監督の「まだまだやれるよね」という期待を込めた言葉に、神木さんはとびきりの笑顔を返す。この運命の出会いには続きがあって、きっと3度目もあるんじゃないか、あってほしいと願いつつ、まずは2度目のタッグ『3月のライオン』を観て欲しい。

(取材・文/新谷里映)


映画『3月のライオン』
2017年 【前編】 3月18日(土) 【後編】 4月22日(土) 2部作連続・全国ロードショー

監督:大友啓史
原作:羽海野チカ「3月のライオン」(白泉社刊・ヤングアニマル連載)
脚本:岩下悠子 渡部亮平 大友啓史
出演:神木隆之介 有村架純 倉科カナ 清原果耶
佐々木蔵之介 加瀬亮
前田吟 高橋一生 岩松了 斉木しげる 中村倫也 尾上寛之 奥野瑛太 甲本雅裕 新津ちせ 板谷由夏
伊藤英明 / 豊川悦司
製作:『3月のライオン』製作委員会
制作プロダクション:アスミック・エース、ROBOT
配給:東宝=アスミック・エース

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