山崎まどかが、第89回アカデミー賞作品賞受賞『ムーンライト』を徹底解説!

中井圭さん(左)と山崎まどかさん(右)

中井圭(左)と山崎まどか(右)

第74回ゴールデン・グローブ賞では作品賞(ドラマ部門)、第89回アカデミー賞では作品賞・脚色賞・助演男優賞の3部門受賞、アカデミー賞の歴史の中でLGBTをテーマにした作品として初めての作品賞受賞という歴史的快挙となった『ムーンライト』が、いよいよ3月31日(金)より全国公開となる。

今回、コラムニストの山崎まどかをゲストに迎え、トークイベントが行われた。アカデミー賞の歴史の中でLGBTをテーマにした作品として初めての作品賞受賞という歴史的快挙となった本作について、「なぜここまで評価されているのか?」本作の魅力について、徹底解説してもらった。

山崎は「鑑賞前は、勝手なイメージで、暴力やドラックの要素を含んだマイアミのゲイの男の子の話で社会情勢を含んだシリアスな作品だと思っていたが、それは全く違っていた。『ムーンライト』はロマンスの映画だったことに驚いたんです」と本作に対する感想を述べ、特に印象的だったシーンについて、「ラストパートのダイナーのシーンが素晴らしい」とコメント。

「主人公のシャロンと、そこで再会した友人のケヴィンの2人がダイナーで食事をしているだけなのですが、2人の間で高まってくる肉体的・精神的だけにとらわれることのない相手への“想い”がものすごくロマンチックに描かれている」

さらに、「(ダイナーの店主である)ケヴィンが料理を作って、(シャロンに)ある音楽を聞かせるんですが、それはとってもストーレートな愛の告白なんです。ケヴィンが厨房で料理を作るシーンはとても官能的に映し出されていて、且つそれを食べるときにシャロンはグリル(歯の上につけるシルバーアクセサリー)を外す。それはシャロンが身に施してきたガードを外し、直にケヴィンが作ったものに触れるということを示している、まさにロマンスを象徴するシーン。主人公・シャロンは少年期に、彼を取り巻く環境の中で悲しみや困難を抱え、世界に対してガードをガチガチに張っていた。それをマハ―シャラ・アリ演じるフアンが、まずはシャロンをダイナーに連れて行ってご飯を食べさせ、その次にフアンの恋人が手料理を振る舞い食べさせる。そうすることで初めてシャロンは心のガードを外し、心を開いて言葉を発する。そうしたシャロンのフアンとケヴィンへの“委ねる”という行為が、ロマンスの本質を表している。だからダイナーでケヴィンが作った料理を食べるシーンを観るだけで我々はドキドキしてしまう」と分析した。

一方の中井は本作の魅力について、こう語る。「言葉を使わなくとも、仕草や行為に言葉を宿している。それをすごく良質に見せてくれているのが、『ムーンライト』。本作において、肉体的な接触シーンも無ければ、愛情に関する言葉はほとんど出ていない。でも鑑賞後は我々は愛情にすごく満たされているんです」

本作において、撮影がいかに素晴らしいかということに両者は共感。「主人公の2~3メートル程度の狭い世界を撮っていながら、実は彼が体験しているものの中に既に“社会”が映し出されている。我々が持っているステレオタイプな“黒人は黒色である”という黒人のイメージを、原作タイトル『In Moonlight Black Boys Look Blue』(月明りの下で黒人は青く見える)ということを上手く映像を持って覆し、“我々は何を見ているのか”ということを示唆している。そのように見せる撮影ワークは素晴らしすぎる」と撮影の巧みさを大絶賛した。

本作は、少年期、成人期、青年期の3パートで構成されているが、中井は「描いていない時代がポイント」という。「何も語られていないのに、彼らの目を見れば、その間に何があったのかが見える」と主人公の瞳がその役割を大きく果たしていることを告げ、「シャロンが孤独をどう感じていたのか、悲しみをどう背負ってきたのか、彼自身の人生の行間を描いているわけではないのに、それが見えてくるのはまさにバリー・ジェンキンス監督の上手さである」と、解説。

『ブロークバック・マウンテン』がアカデミー賞作品賞を撮るかと期待されていた年があったが、LGBTのラブロマンスがアカデミー賞作品賞を受賞したことは史上初のこと。「無名だった映画がこんなに大きく取り上げられることは奇跡のよう!」と山崎は声を上げる。

「昔だったら『ムーンライト』は隠れた名作として扱われていたかもしれないが、今の時代は名作は隠れていられない。このような奇跡の映画を、日本の劇場で日本のお客さんに味わってもらいたい。『ムーンライト』がヒットすれば、多様性に満ちた作品がさらに日本で公開されるようになり、豊かになると思う。それから世界はまた新しく広がっていく」と本作が今後の映画界における非常に重要な位置にいること、そして本作への大きな期待を力強く発し、イベントを締めくくった。


映画『ムーンライト』
2017年3月31日(金)全国ロードショー

監督/脚本:バリー・ジェンキンス
エグゼクティブプロデューサー:ブラッド・ピット
キャスト:トレバンテ・ローズ、アッシュトン・サンダース、アレックス・ヒバート、マハーシャラ・アリ、ナオミ・ハリス、アンドレ・ホーランド
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ/朝日新聞社
配給:ファントム・フィルム【2016/アメリカ/111分/シネマスコープ/5.1ch/R15+】
原題:MOONLIGHT

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST