【レビュー】『スプリット』―シャマラン復活?予想の斜め上なラストにびっくりのサイコ・スリラー

ヘドウィグ/(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

ヘドウィグ/(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

「M・ナイト・シャマランの作品で面白いのって、『シックス・センス』『アンブレイカブル』くらいでしょ?」。映画好きにはこう思っている人が多いかもしれない。事実、これまでのシャマランのキャリアで一見の価値があるのは、この2作品くらいだろう。『サイン』から『ヴィジット』に至るまでのフィルモグラフィーには、一定の批判と称賛の声が混在しているが、正直に言って筆者自身も好きになれる作品は見つけ難かった。そういうわけで、最新作『スプリット』にもあまり期待はしていなかったのだが、蓋を開けてみてびっくり。これがなかなか面白いスリラーだったのである。

物語は、主人公のケイシー(アニヤ=テイラー・ジョイ)がやむを得ず参加したパーティから家に帰ろうとするシークエンスから幕を開ける。クラスメイトの誘いで車で送ってもらうことにしたケイシーだったが、謎の男(ジェームズ・マカヴォイ)に襲撃され、彼女は2人のクラスメイトとともに地下室に囚われてしまう。怯えるケイシーたちを尻目に、落ち着き払った様子を見せる誘拐犯は、何やら女性と会話を開始。女性に助けを求める少女たちだったが、驚くべきことに、女性は誘拐犯自身だった。なんと彼は、23の人格を持つDID(解離性同一性障害)患者だったのだ...。

(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

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あらゆる物語では導入が重要になるが、そういう意味で本作は優秀だ。ドライバーであるクラスメイトの父親を襲った誘拐犯は、冷静にケイシーたちを昏倒させていくのだが、シャマラン監督は実に淡々とこのシークエンスを描く。同時にマカヴォイも、感情を削いだ演技で、何を考えているか悟らせない、落ち着き払った誘拐犯の姿を構築している。シャマラン監督の演出力と、マカヴォイが誇る類まれな演技力が融合したこの導入部は、鑑賞者に得体の知れない恐ろしさを感じさせると同時に、謎めいた物語への興味を抱かせる。

パトリシアという名前の女性の人格が登場してからは、複数の人格が入れ代わり立ち代わりに登場する。強烈なインパクトを残すのは、幼児ヘドウィグだ。かつて老人になったピカソが「ようやく子どものような絵が描けるようになった。ここまで来るのにずいぶん時間がかかったものだ」と言ったように、芸術において「子どもらしさ」を出すことは非常に難しい。程度は違えど、それは演技でも同じことだが、マカヴォイが演じるヘドウィグには、リアルな「子どもらしさ」がある。

パトリシア/(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

パトリシア/(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

筆者が行ったインタビューでは、役作りのために「キャラクターそれぞれの伝記を書いた」と説明していたマカヴォイ。ヘドウィグを演じるに際しては、そういったバックグラウンドの構成に加えて、指を細目に動かす所作、独特なイントネーション、そして感情の劇的な変化などを織り交ぜながら、大げさすぎず、物足りなすぎずというバランス感覚に基づいて、幼児性を巧みに表現している。無論、他の人格を演じている際の表現にも目を奪われるものがある。例えば、パトリシアを演じているときのたおやかな所作や口ぶりには、もとは男性だと知っていながらも、思わず女性だと錯覚させられてしまう。

シャマラン監督の脚本も、なかなか質が高い。彼は「少女たちと誘拐犯の攻防」「ケイシーの知られざる過去」「ビーストと呼ばれる24番目の人格の存在」「誘拐犯と精神科医Dr.カレン・フレッチャー(ベティ・バックリー)の対話」という4つのドラマを、一つの大きなスキームの中で展開させていく。それぞれのドラマは、少しずつ上昇するジェットコースターのように、じれったいながらも観客の興奮を喚起していくのだが、驚くべきことに、この4つのドラマを覆うスキームの外側には、さらに大きなスキームが用意されており、なおかつこれはシャマラン監督の「ある過去作品」との繋がりを示す。その衝撃的な「ネタばらし」は、観客を大いに興奮させるはずだ。

デニス/(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

デニス/(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

先述したように、近年におけるシャマラン監督の作品は、方向性や伝えたいことがいまひとつ定まっていない、あるいは伝えるための手段が不足しているように思えたのだが、本作にはそういった瑕疵は見当たらないので、彼が「『シックス・センス』や『アンブレイカブル』を手掛けたころのキレを取り戻した」という評価にも頷ける。自己言及的な結末は好みが分かれるだろうが、作品としての指針が定まっている分、抵抗を抱く人は少ないのではないだろうか。マカヴォイの怪演と、シャマラン監督の作劇が凝縮された1時間57分は、濃密で見ごたえ十分だ。そういうわけで映画『スプリット』を、この春に要チェックの一本としておすすめしたい。

(文:岸豊)


映画『スプリット』
2017年5月12日(金)全国公開

監督・製作・脚本:M・ナイト・シャマラン
製作:ジェイソン・ブラムほか
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アニヤ・テイラー=ジョイ、ベティ・バックリー、ジェシカ・スーラ、ヘイリー・ルー・リチャードソンほか
2017年/アメリカ/英語/117分/原題:SPLIT/字幕翻訳:風間綾平
配給:東宝東和

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