働くこと、生きることの意味を見つける『ちょっと今から仕事やめてくる』【連載コラムVol.25】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第25回目は、『ソロモンの偽証』の監督、成島出福士蒼汰工藤阿須加を迎えて贈る『ちょっと今から仕事やめてくる』。働くこと、そして生きることについて考えさせられるこの作品には、成島監督が込めた映画オリジナルの台詞にその答えを見出すことになり…。


(C)2017映画『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会

(C)2017映画『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会

“ちょっと今から仕事やめてくる”という変わったタイトルから、最初はコメディ映画なのだろうか? と観てみたのだけれど、コメディ要素はありつつも実際は、人は何のために働くのか、生きるとはどういうことなのか──“働くこと”と“生きること”を描いた、とても響く、とても優しい映画だった。

ブラック企業に勤める青山(工藤阿須加)は仕事のノルマが厳しいうえに毎日パワハラをうけ、疲労のあまり駅のホームで意識を失い、危うく電車に跳ねられそうになる。危機一髪、彼を救ったのは、そこに居合わせた幼馴染みだと名乗るヤマモト(福士蒼汰)だった。この出会いが青山を大きく変えていく。いつも笑顔で明るいヤマモトに励まされ、青山は仕事の成績もどんどん上がっていくが、ある日ヤマモトは3年前に自殺していたことがわかり……。あらすじはざっとこんな感じだ。

(C)2017映画『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会

(C)2017映画『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会

ヤマモトは何者なのか? という謎解きをしながら考えさせられるのは、働くこと、生きることの意味だ。働かなければ家賃は払えないし、食事だって買い物だってできないけれど、劣悪な環境で働く青山を見ていると、ふと思う。苦しむために働いているんじゃない、生きることが苦しいのは何か間違っているのではないかと。ただ、間違っているとわかっていても、何かきっかけがないと惰性で同じ毎日を繰り返してしまうものだ。ノー残業デーといっても自宅に仕事を持ち帰っては意味がないし、プレミアムフライデーは何だか中途半端だし、政府が打ち出している働き方改革もざっくりしすぎて何を目指しているのかぜんぜん伝わってこない。けれど、ヤマモトが青山に投げかける言葉はどれも「そうだよな」と思える人間味のある言葉で、こちらまで勇気づけられる。意識を変えるきっかけになるだろう。

原作は同名タイトルの小説だが、成島出監督は映画化にあたり映画ならではのメッセージを加えている。それは映画の予告映像にも少しだけ映し出されている異国のシーンで描かれる。その国はどこなのか、そこにはどんな物語が用意されているのかは映画を観て確かめてほしいのだけれど、そこで語られる映画オリジナルのセリフに、働くことと生きることの答えがあった。シンプルだけれど「そのとおりだ」と思える答え、ものすごくしっくりくるセリフがあった。そのセリフは青山のように苦しさを抱えたり立ち止まったりしたときに、きっと救ってくれるであろう言葉。また、その言葉とともに映し出される人々の表情はヤマモトがどうしてあれほど笑顔で明るいのかにも繋がっていく。

(C)2017映画『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会

(C)2017映画『ちょっと今から仕事やめてくる』製作委員会

思い出したのは、この映画を観せたかった、観てほしかった今は亡き人のこと。成島監督の前作『ソロモンの偽証』を観たときも同じことを思った。その人が、『ソロモンの偽証』や『ちょっと今から仕事やめてくる』と出会えていたらどうなっていただろうと──。だからこそ、いまその両方を観ることのできる人には観てほしい。

映画は、現実ではないファンタジー世界を味わわせてくれたり、行ったことのない国を旅させてくれたり、自分とは違う人の人生を疑似体験させてくれたりするけれど、それだけじゃない。映画に心を救われることもある、免疫になることもある。この映画はまさにそういう映画だ。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画「ちょっと今から仕事やめてくる」
2017年5月27日全国東宝系にてロードショー

福士蒼汰 工藤阿須加
黒木華 小池栄子 吉田鋼太郎

原作:北川恵海『ちょっと今から仕事やめてくる』(メディアワークス文庫/KADOKAWA刊)
監督:成島出
脚本:多和田久美 成島出

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