【レビュー】映画『花戦さ』―今日に通じる社会性を持つ、華やかで粋な歴史ドラマ

 

(C)2017「花戦さ」製作委員会

信念を持って生きることは難しい。生きていれば、長いものに巻かれたり、体裁を保つために自分に嘘をついたりするものだ。あらゆる人々が何かしらのしがらみを抱える社会という枠組みの中で、自分の信念を曲げずに生き抜くことは、まず無理な話である。そういった意味において、戦国時代に実在した池坊専好は尊敬に値する男だ。6月3日より公開中の映画『花戦さ』で野村萬斎が好演したこの花僧は、時の権力者にして暴君と化していた豊臣秀吉に、自分の信念を曲げず、たった一人で花を武器に戦を仕掛けた男なのである。

物語の舞台は、戦国時代の末期。主人公の池坊専好(萬斎)は、花と聴衆を愛する花僧として、人々から愛されていた。親友である茶道の大家・千利休(佐藤浩市)とともに、自らの美を追求する日々を送っていた専好だが、時の権力者・豊臣秀吉(市川猿之助)が、息子の鶴松を病で亡くしたことをきっかけに、暴君と化してしまう。その後、寵愛していた利休とも仲たがいした秀吉は、利休に切腹を命令。親友である利休の死を無念に思った専好は、単身で秀吉に戦いを挑むことを決意する。しかし、彼が手にしたのは、刀ではなく花だった。果たして、秀吉の恩人である織田信長をも魅了した専好が仕掛ける、花戦さの結末とはーー?

(C)2017「花戦さ」製作委員会

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本作の脚本を手掛けたのは、NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』が放送中の森下佳子だ。過去に大沢たかお主演で人気を博した歴史ドラマ『JIN-仁-』の脚本も手掛けた森下は、鬼塚忠による原作小説を、ところどころ脚色している。専好と利休の出会いと親交を深める様子、専好と家族が織りなすドラマ、前田利家(演:佐々木蔵之介)と利休の親睦といったエピソードは、原作におけるスパイスとなっていたが、森下は敢えてこれらを物語から省略し、主人公である専好の存在を際立たせるためのシーンに比重を置いている。

ただ、森下の脚色で最も大きいものは、森川葵が演じた天才絵師“れん”を物語に組み込んだことだ。原作では専好の妻や娘、利休の妻などが部分的に存在感を放っていたが、一貫して物語に絡む女性キャラクターは存在しなかった。先述したように、『おんな城主 直虎』を手掛けている森下は、原作で語られなかった部分に着目し、これに大きくかかわってくる女性キャラクターとしてれんを組み込むとともに、物語における女性の活躍を拡大している。さらに、森下は終盤にかけてれんにまつわる驚きのどんでん返しも組み込んでおり、その作劇は映画化の意味を強く感じさせるものとなった。

(C)2017「花戦さ」製作委員会

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実力派が名を連ねたキャストだが、やはり萬斎が素晴らしい。特筆すべきは、発声のインパクトと表情の豊かさである。狂言という特殊な伝統芸能に身を置き、舞台に立ち続けてきた萬斎の発声は、他のキャラクターと比べて明らかに「通る」。萬斎が声を発するだけで、観客は自然と専好の一挙手一投足に惹きつけられてしまうのだ。それとともに、感情豊かな表情の変化にも引き込まれる。コロコロと変わるひょうきんな笑顔から、立花を手掛ける際の凛とした横顔、親友の死を悲しむ泣き顔、そして秀吉と向き合うときの確固たる表情...。萬斎が見せる百花繚乱の表情は、それだけで芸術と称すべきものである。

脚本の森下による推薦を受け、映画オリジナルキャラクターのれんとして出演した森川の好演にも注目してほしい。訳あって、れんは序盤ではほとんどセリフを発することがないのだが、森川は“語らない演技”で魅せる。多彩な役柄に果敢に挑んできた森川は、歴史の渦にのまれた悲劇性や、専好の立花に対する感動、画に対する情熱など、れんというキャラクターを構成する要素を、細やかな視線と表情の変化だけで表現しているのだ。後半にかけては、“語る演技”が徐々に増えていくが、森川は言葉に依存し過ぎることなく、それまで見せてきた繊細な心理描写に言葉を混ぜ合わせ、控えめながらも輝きを放つヒロインとして、“男らしい”物語に華を添えた。

(C)2017「花戦さ」製作委員会

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はるか昔の出来事を描く本作だが、今日に通じる要素も見受けられる。近頃では、共謀罪についての議論が盛んになされているが、本作の舞台である戦国時代末期、秀吉政権下も、抑圧的な監視社会だった。最愛の息子である鶴松を喪ったことにより、秀吉は暴君と化し、自らを批判・嘲笑する者は容赦なく処刑した。その監視の目は聴衆にまで向けられ、酷い言いがかりで処刑されてしまう者も少なくなかった。

そうした圧政に対して、人々は武力によって抵抗することもできただろう。しかし専好は、武器を取ることを選ばず、自らの道である花を武器として戦いを挑んだ。タイトルに冠されている「戦」という言葉を思い浮かべると、善や悪を問わず、力で押さえつけることを連想してしまいがちだが、専好はその真逆の方法を選び、秀吉に思いの丈をぶつける。一滴の血も流さずして、秀吉をぎゃふんといわせるその姿は、爽快そのものだ。

(C)2017「花戦さ」製作委員会

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美をも服従させようとした秀吉を、その美によって諫めた専好の姿は、武力衝突の緊張が続く今日の世界に暮らす、どの国の人々の心にも響くものだ。しかし不思議なもので、普遍的なメッセージ性を持つとともに、芸術を追求した本作のような作品に限って、海外向けのセールス(映画祭への出品など)が全く行われていなかったりする。現状では、台湾での公開(7月28日から)が決まっているだけである。本作のような作品こそ、海外にアピールするべきではないのか?映画『花戦さ』の出来栄えには大きな拍手を送りたい。しかし、世界中の人々に届かないことが、一映画ファンとして残念でならない。

(文:岸豊)


映画『花戦さ』
公開中

【出演】 野村萬斎(池坊専好)市川猿之助(豊臣秀吉)中井貴一(織田信長)佐々木蔵之介(前田利家)佐藤浩市(千利休) 高橋克実(吉右衛門)山内圭哉(池坊専伯)和田正人(池坊専武) 森川葵(れん)吉田栄作(石田三成) 竹下景子(浄椿尼)

【脚本】森下佳子
【音楽】久石 譲
【監督】篠原哲雄
【原作】鬼塚 忠『花戦さ』/角川文庫刊
【配給】東映

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