【『24 レガシー』リリース記念】ジャック・バウアーは「危険好き」な人? 精神科の先生に「診断」してもらった

人気海外ドラマ『24-TWENTY FOUR-』シリーズ。

7月21日にリリースされる『24 レガシー』ではメインキャラクターにはなっていないが、これまでのシリーズの主人公、ジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)は国家や家族に迫る危機を乗り越え、どんなに過酷な任務でもこなす超人的な能力を発揮する。

銃撃戦や格闘技はもちろん、爆弾からITまで、幅広い知識の豊富さに思わず「バウアーかっこいい!」とうなってしまうのがこのドラマにハマる要素の一つだ。

ただ、「時間がない」「犯人を追い詰めるため」とはいえ、尋問では毎度のごとく怒鳴り散らし、いつもカッカしていて落ち着きのないさまは、やはり尋常ではない。身内に裏切られたり、死ぬような思いをした経験を繰り返しているジャックのメンタルは、いわゆる“PTSD状態”なのではないだろうか。

そこで、精神科が専門で、映画にも明るい筑波大学教授・高橋祥友先生に、ジャック・バウアーの精神状態について「診察」ならぬお話を伺った。

『24』シリーズを眺める高橋祥友教授

『24』シリーズを眺める高橋祥友教授

高橋祥友教授・プロフィール
筑波大学医学医療系災害・地域精神医学 1953年東京生まれ。金沢大学医学部卒業。東京医科歯科大学、山梨医科大学、UCLA(フルブライト研究員)、東京都精神医学総合研究所を経て、2002年より防衛医科大学校・防衛医学研究センター教授(行動科学研究部門)。2012年から現職。<主な著書>『自殺予防』『精神科医がすすめる”こころ”に効く映画』など。

※以下、『24』シリーズの一部ネタバレが含まれますのでご注意ください。

そもそもPTSDとは

―高橋先生、突然ですがジャック・バウアーはPTSDなのでしょうか。

高橋:そもそも、PTSD(Posttraumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)は、その名の通り、トラウマによるものです。一口に“トラウマ”と言っても「上司に文句を言われてへこんだ」とか「彼氏に振られた」といったようなものは含まれません。

―そうですね(笑)。

高橋:厳密な精神医学の定義では、トラウマとは自分の命が危険にさらされたり、家族や一緒に働いている仲間が殺されたりといった、自分にとって絆の強い人が命の危険にさらされるような経験です。日常生活だと交通事故や性犯罪の被害に遭った人が該当します。

―となると、ジャック・バウアーはトラウマになる要素しか経験していませんね。

高橋:自分が危険にもさらされるし、仲間にも裏切られますからね。核攻撃なんか、百万単位の人間が危機にさらされるわけですから、トラウマの要素は満たしているわけです(※)。

※「シーズンI」では妊娠が発覚した妻を殺され、半年後に休職。その後の「シーズンII」では核爆弾テロを阻止する。

衝撃的だった『24 シーズン1』

衝撃的な結末を迎えた『24 シーズンI』。キーファーが若い (C)2003 Twentieth Century Fox Home Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

まずトラウマがあって、その経験から1ヵ月以内は「ASD」(急性ストレス障害)という診断、1ヵ月以上経っても続いているのがPTSDです。

PTSDの症状には大きく4つの特徴的なものがあります。

まずは「侵入症状」、いわゆる「フラッシュバック」のことです。トラウマに関連したような悪夢を見て、夜寝ていても飛び起きてしまったりします。

もう一つは「過覚醒」の症状。普通の生活音でも敏感に反応してしまう。車のパンクの音を銃声と間違えて飛び上がってしまうといったものです。

「回避」の症状というのは、トラウマ関連の場面を極力避けようとするもの。人との接触を避けたり、自室に引きこもってしまったりします。

―ほう。

高橋:あとは「感情の乖離」の症状。感情がにぶくなってしまうことがあります。トラウマを経験した前後の記憶がなくなる場合もあります。

ジャックを見ていると、「トラウマ」と呼べる経験はしています。ただ、PTSDの症状はちらほらありますけど部分的で、完全なPTSDではないですね。部分的なPTSDの症状を認めても、任務は遂行しています。先ほど言った4症状(「侵入」「過覚醒」「回避」「感情の乖離」)がすべて出たら、とてもじゃないけどジャックのような生活は送れないでしょう。

―テロリストと戦いますからね。

「危険に嗜癖する人」

高橋:あとは彼、薬物にも手を出すでしょ?(※) PTSDを発症した人で、麻薬やアルコールに走ってしまう人も時にはいます。

麻薬中毒でも頑張るジャック・バウアー

シーズンIII』麻薬中毒でも頑張るジャック・バウアー (C)2004 Twentieth Century Fox Home Entertainment, Inc All Rights Reserved.

PTSDってすごく多いように思いますが、大地震が発生してもPTSDを発症する人はそれほど多くはありません。ただ、PTSDだけではなくて、うつ病やアルコール依存症、あるいは対人関係や家族関係の問題も絡んでくることがあるので、PTSDの診断が下された場合には、他のさまざまな問題についても対処しなければならなくなります。

※「シーズンIII」でジャックは潜入捜査で麻薬中毒になった。

PTSDの人の中には、薬やアルコールに走ってしまう人もいるんです。なので、精神医学ではこれらの症状を含めて「複雑PTSD」と呼ばれることもあります。

ただ、私がアメリカに行ってFBIやCIAの人に聞いたら、「こういう状況に耐えられる人しか(現場に)残らない」と言っていました。「自分がタフでマッチョである」ということが防衛になっている人たちが多かったように思います。

私は災害時に支援者の心の健康をどう守るか、というテーマで活動しているのですが、アメリカでは彼らは「私たちには関係ない」と言っていました(笑)。これは一種の防衛であって、生身の人間である以上「関係ない」などとは言っていられないと思いますが。

―にもかかわらず、ジャックは現場に舞い戻っている。

高橋:彼が危険な状況に嗜癖(しへき)している「特異な人物」であることは事実です。あの男をPTDSと診断できるか、というと、完全型とは言えませんね。

(嗜癖…他人の目には異常だと見えるほどあることを特に好んで行なう性向 『新明解国語辞典』より)

「ジャック・バウアーは危険な状況に嗜癖している人」(高橋教授)

「ジャック・バウアーは危険な状況に嗜癖している人」(高橋教授)

―嗜癖している特異な人物…言われてみればそうですね。

高橋:ちなみに、PTSDの症状の参考として学生に勧めている映画は『再会の街で』ですね。

ドン・チードル演じるアランが、アダム・サンドラー演じる歯学部時代の同級生・チャーリーと久しぶりに再会したのですが、チャーリーはホームレスみたいになっている。

チャーリーは奥さんと娘を9.11のテロで亡くして、歯科医の仕事もせず、何もしなくなってしまったんです。

ふとした時に奥さんと娘のイメージがありありと蘇る。自宅にずっとこもっていて、夜になるとちょっと外に出てくる。あれは典型的なPTSDの症例ですね。

PTSDというと『ディア・ハンター』を挙げる人が多いですが、私はこちらを勧めています。

実際の警察官は、メンタルを訴えるのは「退職後」

―他のキャスト、例えばトニー・アルメイダ(カルロス・バーナード)などはいかがです?

高橋:先ほど申し上げた「複雑PTSD」ではないですが、みんなそれぞれに抱えていますよね。何の問題もなく生きてきた人がこんな職業に就かないと思いますよ。

―まあ、CTU(テロ対策ユニット、ジャックなどが所属していた組織)はちょっと屈折した人たちの集まりですからね。実際のアメリカの警察の人もタフな人が多いのでしょうか?

高橋:9.11以降、連邦政府の資金で、ニューヨーク市警の警察官や消防士など、救助活動をしていた人たちのフォローアップするプログラムがマウント・サイナイ医科大学にありますが、みんな現役のうちはなかなか相談に来られないという話を聞いたことがあります。

当初は、世界貿易センタービルが倒壊したのでアスベストが飛散しているから、呼吸器障害が起きるのではないかと想定されて、身体のフォローアップが始まりました。

しかし、身体的な問題ばかりでなく、心理的な問題を抱えている人が多いことが明らかになり、心理的な面からもフォローアップをしています。警察官や消防士は現職の間は「自分が困っている」とは言えなくて、定年後に初めて相談に来る人も多いということです。

仕事をしている間は「もうこれ以上できない」と言わない人が多いのでしょうね。

―なるほど。ジャック以外で7シーズン出演しているシークレットサービスのアーロン・ピアース(グレン・モーシャワー)などはいかがでしょうか。全くブレていないようですが。

高橋:シークレットサービスの仕事自体がパターン化されているので、そこまで動じるシチュエーションにはならないからでしょう。大統領を警護している人間が「核兵器の爆発阻止」なんてイレギュラーなことはしませんから。

―確かに(笑)。

高橋:法を犯してまで何かをする、という状況にシークレットサービスはなりにくいですからね。

―話を戻しますが、ジャックにはどんな治療が施されるのでしょうか?

高橋:精神科の治療を行うかどうかは、本人次第です。よほど自身や他人を傷つけるおそれがある場合は強制治療となりますが、基本的には本人が望んでから行います。

まあ、当人(ジャック)はあれで仕事しているつもりですからねぇ…(苦笑)。

アメリカですから、多少気分が落ちたりすると、「SSRI」(選択的セロトニン再取り込み阻害薬。抗うつ薬の一種)なんかをのんでいるかもしれません。

―彼が「是非とも治療を受けたい」と言ったら?

高橋:あくまでも本人が悩んでいることがベースになります。心理療法と薬物療法の併用です。心理療法では、アメリカならば、認知行動療法が中心になるでしょう。ジャックの場合、家族との問題も抱えているので、家族療法の適用もあるかもしれません。…でも、彼が「家族療法を受けたい」なんて言いますかね…?

―…キム(キンバリー・バウアー、ジャックの娘)がゴネないと無理でしょうね。どうもありがとうございました。

(文:中西啓)

24-TWENTY FOUR-

24-TWENTY FOUR-

出演者 キーファー・サザーランド  キム・レイヴァー  ウィリアム・ディヴェイン  アルバータ・ワトソン  ロジャー・クロス  ラナ・パーリラ
監督 ジョン・カサー  ブラッド・ターナー  ケン・ジロッティ  ロドニー・チャーターズ  ブライアン・スパイサー  ケビン・フックス
製作総指揮 ブライアン・グレイザー  トニー・クランツ  ロバート・コクラン  ジョエル・サーナウ  ロン・ハワード  ハワード・ゴードン  エヴァン・カッツ  スティーヴン・クロニッシュ
脚本 ロバート・コクラン  ジョエル・サーナウ  ハワード・ゴードン  ピーター・M・レンコフ
概要 新たなCTUロス支局長ドリスコルは、列車爆破事件とテロとの関連性の調査に追われていた。その頃、CTUを解雇されたジャックは国務長官ヘラーの補佐官として働いていたが、ふとしたことからテロリストの真の目的に気づく。ジャックは阻止しようと直ちに行動を起こすが…。イスラム過激派による同時多発テロの脅威を描いた第4シーズン。ジャックと恋仲になるヘラー長官の娘オードリー役でキム・レイヴァー(「サード・ウォッチ/NY事件ファイル」)が登場。ヘラー長官役には「ローリング・サンダー」のウィリアム・ディヴェイン。ゲスト出演にネストール・セラノ(「ショウタイム」)、アーノルド・ヴォスルー(「ハムナプトラ/失われた砂漠の都」)、ジェームズ・フレイン(「ヴィゴ」)、ショーレ・アグダシュルー(「砂と霧の家」)。

 作品詳細・レビューを見る 

この記事を読んだ人におすすめの作品

アーティスト情報

関連サイト

TSUTAYAランキング

おすすめ映画ガイド

TSUTAYA MUSIC PLAYLIST