アンセル・エルゴートが語る『ベイビー・ドライバー』・映画への想い・憧れの俳優【単独インタビュー】

アンセル・エルゴート

アンセル・エルゴート

『ホットファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』『ショーン・オブ・ザ・デッド』などの個性的な作品で知られるエドガー・ライト監督が、ハリウッドで長編監督デビューを飾った映画『ベイビー・ドライバー』。製作費3400万ドルに対して、全米興行収入1億ドル突破(Box Office Mojo調べ)の大成功を収めている本作において、耳鳴りを抱える一方で天才的なドライビング・テクニックを誇る運転手“ベイビー”を演じたのが、アンセル・エルゴートだ。音楽を愛することを役との共通点だと語る23歳の若手俳優に、主演を務めた本作の撮影秘話や共演者とのエピソード、そして俳優としての目標などについて、単独インタビューで話を聞いた。

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―全米興行収入が1億ドルを超えているけれど、この大成功を受けての心境は?

すごく嬉しいし、良い兆候だね。なぜならこの作品は、スタジオやプロデューサーたちに、もう一度オリジナル作品が作られていいんだということを示すために、興行収入を稼ぐ必要がある映画だから。ハリウッドは巨大なフランチャイズやリメイク作品を作ることが多いけれど、人々はリメイクされたりフランチャイズ化されている『エイリアン』がオリジナル脚本だったことや、『ターミネーター』がオリジナル脚本だったことを忘れているんじゃないかな。そういうわけで、僕はこの作品が映画界にとって良い作品だと思うし、興行収入を稼いでいるのも良いことだと思うんだ。

―幼少期の事故が原因で耳鳴りを抱えている一方で、天才的なドライビング・テクニックを持つ主人公のベイビーが、犯罪組織の逃走を手助けする中で、壮絶なカー・アクションを繰り広げる姿を描く映画だね。このユニークな作品への出演を決める要因となったものは?

多くの要素があった。一つだけじゃなくて、全てが組み合わさったからさ。キャラクターが素晴らしくて、脚本は読むのが楽しかった。イヤホン付きのiPadに入っていた脚本は、読むと音楽が流れるようになっていたんだ。とても珍しいしユニークなものだったよ。アプリのロゴをクリックすると表紙が出て、音楽が流れるんだ。ト書きにはベイビーが音楽に合わせて踊ると書いてあって、「なんてこった! 最高の役じゃないか!」と思ったね(笑)。そうしたものが、車の運転やスタント、そしてキャラクター、さらにはユニークな映画を作ってきたエドガー・ライトと混ざり合ったから、僕は出演を決めたんだ。

ベイビー・ドライバー

―車の運転やダンスだけじゃなく、里親のジョセフ(C・J・ジョーンズ)とは手話で会話するシーンもある。ベイビーを演じる上では、どんな役作りが必要だった?

役作りはたくさんしたよ。1か月を費やしたリハーサルでは運転の練習を行って、この作品におけるメインのスタント・ドライバーに指導してもらった。手話の勉強もしたし、ベイビーには少し南部の訛りがあるから、方言の稽古も受けたんだ。それと振り付けも習ったんだけれど、これが大変だった。なぜなら、撮影を開始した後にはリハーサルを行う時間がなかったから。僕らは全ての振り付けを、撮影が開始する前にチェックしなければならなかったんだ。

―振り付けといえば、オープニングのシークエンスでは車の中で一人で踊っているけれど、あの振り付けはアドリブを入れたの?それとも脚本通り?

あれはリハーサルの段階からあった振り付けの一部なんだ。この作品の振り付けは、Siaの「シャンデリア」のビデオの振り付けを手掛けたことで知られている振り付け師ライアン・ヘフィングトンに習った。彼は素晴らしい振り付け師で、アドリブに見える振り付けを作るのがすごく上手い。一般的なミュージカルで見られるような、はっきりした振り付けとは違って、この作品における振り付けは、ただふざけたり、じゃれ合うように見えるんだけれど、それがこの作品にあるべきバイブスなんだ。だからこの作品は、観客に「ああ、ミュージカル映画を見ていたんだった。物語に戻らなきゃ」と思わせることがない。振り付けは素晴らしいし、ライアンは最高の仕事をしてくれたよ。

ベイビー・ドライバー

―序盤では、ベイビーがコーヒーを買いに行って、デボラを見かけるシークエンスもすごく素敵だった。あの場面は長回しで撮影されているように見えたけれど、複数のショットで構成されているもの? それとも繋ぎ目無しの1ショット長回し?

繋ぎ目無しの1ショット長回しだよ(笑)。あのシーンでもリハーサルを重ねたんだ。とても規模の大きいリハーサルで、ここでもライアンが活躍してくれた。スタッフたちは音楽をあちこちに置いた大きなスピーカーでかけて、本物の路上で撮影を行ったんだ。道路は全面的に封鎖したんだよ。車にはスタント・ドライバーが乗っていて、エキストラは音楽に合わせて歩くよう訓練されていた。僕は台無しにしないよう演じければならなかったけれど(笑)、すごく楽しかったよ。

―役者だけじゃなく、スタッフも大変そうに見えるシーンだね。

ステディ・カメラのオペレーターが一番大変だったんじゃないかな(笑)。なぜなら、長回しのシーンだったし、最初は坂を下ってコーヒーショップに入っていくけれど、そのあとは登っていくことになる。登っていくときには、もうカメラマンはすごくへとへとだったよ(笑)。

―7月にエドガー・ライト監督が来日して、幼少期に耳鳴りを抱えていたことをベイビーとの共通点に挙げていたんだけれど、ベイビーと自分に重なる部分はある?

たくさんの共通点があるね。最初に脚本を読んだときに、ベイビーが暇潰しで曲を作っていることを知ったんだけれど、それって僕もしていることだから、クレイジーな気持ちになりかけたよ。僕はパソコンでいつも音楽を作っていて、音を生み出し、曲を書いているんだ。あと、エドガーが僕をキャスティングしたいと望んでくれたことも、共通点を感じている理由の一つじゃないかな。エドガーは典型的なアクション・スターを起用せずに、役に合っていて若さを感じられる俳優を求めていたんだ。観客は、ジェイミー・フォックスケヴィン・スペイシー、そしてジョン・ハムが演じるキャラクターと混じったときに、ベイビーがフィットしていないことに気付くと思う。ベイビーは彼らの中でとても若いからね。あと、ベイビーは常にタフに振る舞っているわけじゃない。そういうわけで、僕はとても演じやすかったんだ。なぜなら僕は若い男で、常にタフに振る舞っているわけじゃないからね。

ベイビー・ドライバー

―演技をする上で難しいことはあった?

演技をすることが難しい理由の一つは、役者の時間では現場が動かないことなんだ。カメラや照明などを扱うクルーの時間によって現場は動くからね。「ランチまで15分だ。やるぞ!」みたいな感じさ。だから、役者は常に準備ができていて、OKだと言えなければならないんだ。

―ベイビーは音楽を聞くことで耳鳴りを止めて、驚異的な運転能力を発揮するけれど、この作品で演技に集中するうえでは、具体的に何かした?

母親についての曲が録音されている“ママ”と記されたカセットテープと一緒にいるときは、ベイビーの記憶を思い浮かべるために、現場の隅っこに一人で行ったよ。息を切らして汗をかかなければいけないときは、ただ何度も何度も走った。ジェイミーが演じるバッツの銃を掴むときは、隅っこで腕立て伏せやボクシングみたいなことをして、準備ができたら座って、ジェイミーが立ったら銃を掴むという感じだったね。準備をするために必要なことは全てやるんだ。それぞれ異なることをね。そういうプロセスを見つけ出して、彼らの準備ができたときにいつでも行けるようにしておくのさ。

ベイビー・ドライバー

―カー・アクションやスタントが詰め込まれた本作では、CGIが使われていないのが素晴らしいね。でも、撮影はハードだったんじゃない?

CGIを使えばアクションは簡単なものになったかもしれない。けれど、僕たちはリアルな形でやったんだ。すごく楽しかったよ。大変ではあったけれど、全てにおいてトレーニングをたくさん積んだし、スタッフたちは僕やスタントマン自身にアクションをさせたかったんだ。僕はこの作品で、本格的なスタントやカー・アクションに初めて挑戦することになったから、すごく興奮していたんだ。時にはチャレンジングで、次の日に体が痛むこともあったけれど、常に素晴らしい経験だったし、今になって映画を見て、「これは僕自身がやったんだ!」と思うことは楽しいものだよ。もしグリーンバックを使って、1か月もアクションの撮影をしていたら、どんな風に見えるか分からないと思うんだ。でも、実際の路上で撮影を行って車を運転していると、すごく楽しいものなんだよ。

―エドガーはスタントのシーンを見てどんな反応をしていたの?

彼はいつも興奮していて、僕らがスタントをしているときは、キャンディ・ショップに入った子供のようだったよ(笑)。かっこいいって分かっていたんだね。彼は現場の中で、すごくポジティブなエネルギーになっていたんだ。

―ダイナーで働いていて、ベイビーの恋の相手となるデボラを演じたリリー・ジェームズの印象は?どんな女優さんだった?

素晴らしい女優だよ。彼女は僕が仕事をした中で、最もおおらかな人かもしれない。彼女は不平を言わないんだ。常に優しくて、笑っていて、すごくフレンドリーなんだよ。あんなに良い人には、永遠に誰もなれないと思う(笑)。映画の中で恋に落ちるのはすごく簡単さ。彼女との化学反応はすぐに起こったと思うよ。とにかく優しくて、彼女と撮影するのはすごく楽しかった。

ベイビー・ドライバー

ベイビー・ドライバー

―リリーとは、ロマンチックなシーンだけでなく、切ないシーンもあったね。

撮影の序盤、最初の1週間くらいでダイナーのシーンをほぼ撮り終えてしまって、悲しかったんだ。僕とリリーのシーンがすごく良かったから、アクション映画の撮影をしていることを忘れちゃったよ。それからリリーが現場を去って、僕は運転やほかのことをしていたんだけれど、撮影の終盤でリリーが帰ってきたんだ。僕らはジョンやジェイミーと一緒に、夜のシーンの撮影を行った。後半のシーンを撮影の後半でできたことは良かった。でも、彼らとの共演が楽しかったから、撮影が終わったときには残念に思ったよ。

―ベイビーをドライバーとして使う犯罪組織の首領・ドクを演じているのが、あのケヴィン・スペイシーだね。偉大な俳優と共演した感想は?

最高だった。ケヴィンはとても温かい人で、協力的な人なんだ。僕にとっては、父親的な恩師だね。何度も一緒にディナーに行って、仕事についてもアドバイスをもらった。とても長いキャリアを誇る役者だし、神様みたいな人だから、アドバイスはすごく役に立ったんだ。自分のことを熟知している人だし、彼がくれたアドバイスは常に身に染み込ませたよ。

―この映画では音楽が様々な面で素晴らしい役割を持っているね。もしも、アンセル・エルゴートのサウンドトラックを作るとしたら、どんな楽曲を入れたい?

モービーの『ポルセリン』や、ザ・ヴァーヴの『ビター・スウィート・シンフォニー』かな。この2曲は僕の成長を思い出させてくれるし、聞くといつも感情的になる重要な曲なんだ。 あとは、ジョージ・ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』も大好きだよ。子供のころ、父がCDをくれて、12種類ほどの異なる演奏が収録されていたんだけれど、この曲も僕の成長を思い出させてくれるんだ。とてもニューヨークっぽい曲だよね。(ニューヨーク生まれの)僕は自分をニューヨーカーだと思っているんだ。

ベイビー・ドライバー

―そもそも、役者を志したきっかけは?どうしてこの業界に?

もともと僕はミュージカルをやりたかったんだ。歌うことや踊ること、人々の前でステージに立つことが大好きなんだよ。子供のころからそうだったんだ。でもあるときに、『波止場』『ゴッドファーザー』におけるマーロン・ブランドを見た。僕は同じ人だと気づかなかったけれど、彼らが実は同じ人で、演じているのが最高の俳優だと教えられたんだ。それから、「あれ?マーロン・ブランドに似てるね」って親切な人が言ってくれるようになってね(笑)。「ワオ!マーロン・ブランドになろう!」と思ったんだ(笑)。それが14歳か15歳の頃。それから芝居の勉強をするようになって、ミュージカルだけじゃなく、ほかの映画もやろうと思った。今は映画だけに出ているけれど、近いうちにミュージカルに戻るつもりだよ。

―最後に、俳優としての将来的な目標を聞かせて!

今のところの僕のゴールは、老人になるまで幸せであること、そして俳優として働くことだよ。映画の現場における、大ベテランになりたいんだ。そして僕は「私は年を取り過ぎだ」とか「私は体が悪すぎる」と言うんだ。最後の最後まで、俳優であり続けたい。僕が出演した映画が僕の死後に公開されたら、すごくクールだね。僕は自分の人生において、取り組むことに幸せを感じることができるものを常に抱えていたいんだ。

(取材・文・写真:岸豊)


映画『ベイビー・ドライバー』
公開中

監督・脚本:エドガー・ライト『アントマン』
製作:ニラ・バーク、ティム・ビーバン、エリック・フェルナー
出演:アンセル・エルゴート『きっと、星のせいじゃない。』/ケヴィン・スペイシー『アメリカン・ビューティー』/リリー・ジェームズ『シンデレラ』/エイザ・ゴンザレス『フロム・ダスク・ティル・ドーンザ・シリーズ』/ジョン・ハム『MAD MEN マッドメン』シリーズ/ジェイミー・フォックス『ANNIE/アニー』
2017 年/アメリカ映画/原題:Baby Driver
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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