岩波律子が選ぶ「岩波ホールで上映した思い入れの深い映画」10本

ミニシアターの草分け的存在となった東京・神保町の岩波ホール。映画界の不況が叫ばれる時代、独自のテーマで選んできた作品群の思い出を、支配人の岩波律子さんが振り返ります。

※ピックアップ作品は、2011年末に発行された『シネマハンドブック2012』掲載のものとなります。ご了承ください。


岩波律子が選ぶ「岩波ホールで上映した思い入れの深い映画」10本

胡同の理髪師

北京の下町を舞台にした人情ドラマ。93歳の理髪師チン爺さんと昔なじみの客、友人など庶民の日常風景をドキュメンタリータッチでつづる。チン爺さん役は実際に理髪師として腕をふるうチン・クイ。

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サラエボ,希望の街角

『サラエボの花』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したヤスミラ・ジュバニッチ監督作。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの首都サラエボを舞台に、あるカップルの愛の行方を、戦争や宗教問題と絡めて描く。

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カティンの森

ポーランドの巨匠、アンジェイ・ワイダ監督が、第二次大戦中にソ連の秘密警察によって多くのポーランド人が虐殺された“カティンの森事件”の真相に迫る。世界各地の映画祭で高く評価された。

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二人日和

難病に冒された妻とそれを支える夫の日常を通して、生と死を見つめたラブストーリー。45年連れ添った妻が体の自由がきかなくなるALSを発症したと知った夫。彼はある日妻の古い日記を見つける。

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パリ20区、僕たちのクラス

第61回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた人間ドラマ。パリ20区の、移民の子どもたちが大半を占める中学のクラスを舞台に、彼らのありのままの日常をドキュメンタリータッチで描く。

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白い馬の季節

内モンゴル出身のニンツァイが初監督&主演を兼任したヒューマンドラマ。多くの遊牧民が街へ移り住むことで砂漠化が進み、伝統文化が失われつつある中国・内モンゴルで生きる家族の姿を見つめる。

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ヒロシマナガサキ

14人の被曝者と実際に爆撃に関与した4人のアメリカ人の証言をもとに、原爆投下を巡る真実に迫ったドキュメンタリー。アメリカ在住の日系3世のドキュメンタリー作家が、25年を費やして完成させた。

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紙屋悦子の青春

名匠、黒木和雄の遺作となった戦争ドラマ。太平洋戦争末期、特攻基地のあった鹿児島を舞台に、海軍航空隊の青年二人と、一人の女性の三角関係を繊細なタッチでつづる。

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母たちの村

アフリカにいまだ残る風習で、母体を傷つける女子割礼に反対した一人の女性の闘いを描いたヒューマンドラマ。第57回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリ。

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約束の旅路

母親に命じられてユダヤ人と偽り、スーダン難民キャンプからイスラエルへ逃げたキリスト教徒の少年が、愛情豊かな養父母のもと、出自への葛藤を抱えながら生きる。
※ジャケット写真はセル版です

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『胡同の理髪師』―お爺ちゃんの来日秘話と「ありがとう」のひと言に感動した

『胡同の理髪師』

『胡同の理髪師』

ハスチョロー監督が93歳の床屋のお爺ちゃんの実話に感動し、ご本人に主演してもらって劇映画にした作品です。それでお爺ちゃんをキャンペーンにお呼びすることになり、「ご高齢なのに大丈夫かしら」と思いましたが、監督と娘さんと一緒に来てくださったんです。遠出なんてしたことがないだろうけどなぜ来てくださったかというと、戦争中、向こうで出会った日本の女性の思い出を訪ねてきたという秘話があって。素敵ですよね。帰るとき、大切な記憶の箱の奥にしまってあったような日本語で「ありがとう」というお爺ちゃんの姿に感動しました。

『サラエボ,希望の街角』―「こういう時期こそ映画を観たい」と言われ、モヤモヤが吹き飛んだ

『サラエボ,希望の街角』

『サラエボ,希望の街角』

監督の中には「映画で世界は変えられない。芸術は芸術だ」と考える人が少なくないようですが、ヤスミラ監督は「映画で世の中が変えられる」と言い切っていたのが印象的で。女性監督、女性の主人公、女性カメラマンと女性がそろった映画で、サラエボの街の撮り方がとても瑞々しかったです。ただ、公開中に震災があって、安全を考えて数日劇場を閉めました。再開したものの、世の中は自粛ムードで映画なんかやっていていいのかと思いましたが、お客様が「こういう時期こそ映画を観たい」とおっしゃってくださり、モヤモヤが吹き飛びましたね。

『カティンの森』―岩波ホールの歴史にアンジェイ・ワイダ作品は欠かせない

『カティンの森』

『カティンの森』

監督自身、お父様をカティンの森で殺されているので、これを撮らなければ死ねないという覚悟が感じられます。「つらい」という反響が広がるとみなさんの足が止まってしまうと思ったんですが、岩波ホールではワイダさんの作品を10本以上やっていること、そんな監督のライフワーク的作品であるということで多くの方がご来場くださいました。岩波ホールの歴史にワイダ作品は欠かせません。公開からしばらくして、ポーランド大統領がカティンの森事件の追悼式典に出席するために乗った飛行機が墜落。陰謀説など諸説ありましたが、驚きましたね。

『二人日和』―中高年のお客様にとって“老後をどう生きるか”は大きなテーマ

『二人日和』

『二人日和』

野村監督はお亡くなりになりましたが、元気なうちに仕事がしたいと思って映画を撮っていたとお聞きしました。最初から藤村志保さんを念頭に脚本を書かれていたようです。元々、藤村さんがよく岩波ホールに来られていて、上映決定をお伝えしたらすごく喜んでくださり、上映期間中何度も舞台挨拶にいらしてくださいました。毎回きれいなお着物で、最後のお客様が帰られるまで見送られていたのが印象的でしたね。中高年のお客様にとって“老後をどう生きるか”は大きなテーマ。特に日本映画の中では話題になった作品なんじゃないでしょうか。

『パリ20区、僕たちのクラス』―情緒に流れることなく、ものを問いかける語り口が斬新

『パリ20区、僕たちのクラス』

『パリ20区、僕たちのクラス』

「これはやらなきゃ!」と使命感に燃えた作品。先生役は実際の先生ですが、彼が言葉にこだわって授業を作る過程をドキュメンタリー風に描いています。中には「私って何を学んだの?」と思う生徒がいたりと、情緒に流れることなく、色をつけずにものを問いかける語り口が斬新だった。ただ少し取っつきにくいのか、試写では必ずしも評判がよくなかったので、観るべきポイントをスタッフと相当話し合いました。公開後は観客のみなさまの感性にお任せしていますが、全国でも評判がよく、実際に教鞭を執っている方も熱心に観ていらっしゃいました。

『白い馬の季節』―白い馬のシーンに、誇りを失わざるを得ない人々の苦しみが出ていた

『白い馬の季節』

『白い馬の季節』

中国の知り合いの監督から「友達がいい映画を作ったので観てあげてほしい」と言われたのがきっかけでした。遊牧民の家族が最後に街に出て行くことになり、彼らの魂である“白い馬”を草原に放ってやるシーンが、誇りを失わざるを得ない人々の苦しみが出ていて胸を打たれます。公開前に監督と女優さんが来日しました。その折に監督のインタビューに同席し、今後の上映の参考にしようとメモを取っていたんですね。そしたら監督がすごく喜ばれていて。私自身、どうやってみなさんに映画のよさをわかっていただくかは大切なことだと思っています。

『ヒロシマナガサキ』―“原爆”を日本とアメリカ双方の視点から客観的に捉えた意義深い映画

『ヒロシマナガサキ』

『ヒロシマナガサキ』

日系3世の監督は、半分アメリカ、半分日本的な感覚をお持ちなので“原爆”を客観的に見ていました。日本だけが被害を受けたという描写にとかくなりがちですが、それまでのアメリカとの歴史も描いていたので、外国でも受け入れられたようです。そういう意味で意義深い映画ですし、原爆がテーマだと広島か長崎どちらかの話になりやすいところを『ヒロシマナガサキ』という日本題にしたのも大きい。公開中、当時ご自身も被曝されながら被曝者の治療にあたった肥田先生や映画に出ていた夫婦の方も「使命だから」とお話に来てくださいました。

『紙屋悦子の青春』―決して昔の話ではなく、手で触れられそうな距離感の映画

『紙屋悦子の青春』

『紙屋悦子の青春』

観た後、この世ならぬ光を帯びた映画だと思いましたが、黒木監督がなぜか透き通って見えてきたんです。そしたら初日を前に本当に倒れてしまって…。きっとあの世でも新作の脚本を書いているんじゃないでしょうか。原田さん、永瀬さんは戦後の方ですけども、お二人とも成りきっていらっしゃいましたよね。決して昔の話ではなく、手で触れられそうな距離感の映画。若い方にもぜひ観ていただきたいです。

『母たちの村』―深刻さの一方で、アフリカの暮らしが生き生きと描かれている

『母たちの村』

『母たちの村』

女子割礼(女性器切除)が今でもあることがとてもショックでしたね。身体の不調はもちろんですが、お産にも支障をきたすなど、深刻な問題です。でもその一方で、アフリカの村の暮らしが本当に生き生きと描かれているのが素晴らしかったし、女性の描き方にも“尊敬のまなざし”がある。センベーヌ監督はアフリカ映画の父と呼ばれる方。私にとっては外国の監督の中で一番尊敬する監督です。

『約束の旅路』―本当の家族もあるけど、国境を越えても家族になれる

『約束の旅路』

『約束の旅路』

中高年の観客が多い中、若い方がずいぶん気に入ってくださいました。若い方はバフマン・ゴバディ監督作品など中東にご関心がある気がしましたね。この映画は舞台がいろんな国にまたがっていますが、本当の家族もあるけれども、国境を越えても家族になれるんだということを描いています。遠い国の話ですが、自分たちがいかに何も知らずに生きているのかということを改めて感じましたね。


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プロフィール

岩波律子

'68年に創立された映画館、岩波ホールの支配人。ヨーロッパやアジアなど世界各国の埋もれた名画を発掘することを目的として数々の映画を上映し、人気を集めている。

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