これまで他人事だった歴史の出来事が、近くに感じた―『ブルーム・オブ・イエスタディ』【連載コラムVol.33】

映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。

第33回目はナチスのホロコーストが題材の『ブルーム・オブ・イエスタディ』。題材が題材だけに、どこまで“エンタメ感”を出すのか気になっていたというが、観たらこれまた意外! だった一本。


(c)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

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『ブルーム・オブ・イエスタディ』は、ナチスの戦犯を祖父に持つ男と、ナチスの犠牲になったユダヤ人の祖母を持つ女が、ホロコースト(第二次世界大戦中ナチスが行ったユダヤ人大虐殺を指す)の研究会で出会って恋に落ちるラブストーリーだ。

ナチスのホロコーストが題材となると『シンドラーのリスト』をはじめ『ソフィーの選択』『ライフ・イズ・ビューティフル』『縞模様のパジャマの少年』など、エンターテイメントというよりも映画を通して歴史を学ぶ、そんな感覚の作品が多かった。この『ブルーム・オブ・イエスタディ』もその1つなのかと思っていたが、実はラブストーリーで驚いた。

当時、いったい何が起きたのか──という史実を描くのではなく、祖父母の時代に起きたことを孫の世代はどう受け止めて、どう進んでいくのかを描いている。

トト/(c)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

トト/(c)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

“男”トト(ラース・アイディンガー)の場合。

・祖父はナチスの親衛隊の大佐で、一族の罪を感じている
・ホロコースト研究所に勤めているが、リーダーから外される
・感情的になりやすくて不安定
・祖父を告発した本を書き、家族から勘当される

ザジ/(c)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

ザジ/(c)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

“女”ザジ(アデル・エネル)の場合。

・祖母はユダヤ人でナチスに殺された
・研究所にやって来たインターン、トトの書いた本を絶賛
・気分がコロコロと変わりやすい
・トトと同じ研究所の同僚バルタザールの愛人

どちらのキャラクターも問題を抱えていて、描こうと思えばいくらでも深刻に、シリアスに描けるが、この映画の場合は(ブラックに近い)ユーモアを投入することで、ラブコメディのように見せ、それぞれの問題とホロコーストに関することは背景に散りばめた。そのバランスがいい。加害者と被害者の孫がホロコーストの話をしながら食事をする、冗談を言い合う、惹かれ合う、そのことをどう捉えるかがこの映画の面白さ。考えるという意味での面白さだ。トトとザジのキャラクターとエピソードは、クリス・クラウス監督自身の体験からヒントを得ている。

(c)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

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どういうことか──クラウス監督の家族にもトトと同じように、自分の祖父とその兄にダークな過去があり、大きなショックを受けたという。そして、ホロコーストを調べていくうちに、加害者と被害者の孫世代の人がジョークを交えて歴史について話している姿を目にしたそうで、この映画のトトとザジのアイデアは、そこから生まれた。

これまで観てきたホロコーストを題材にした映画は、史実を知り、悲しみを想像し、二度とそういうことが起きない世界であってほしいと願う映画だったが、どこか他人事として受け止めていたことも確かだ。けれど、『ブルーム・オブ・イエスタディ』はパーソナルな視点で描いている。もしも自分の祖父が、祖母が……と、自然と自分自身に置き換えて観ていたところもある。これまで他人事だった歴史の出来事が、近くに感じた。

(c)2016 Dor Film-West Produktionsgesellschaft mbH / FOUR MINUTES Filmproduktion GmbH / Dor Filmproduktion GmbH

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ただ、トトとザジは恋に落ちるけれど、それがイコール和解なのかどうか……それは観客に委ねるかたちになっている。過去に囚われずに未来に向かって生きるにはどうしたらいいのか、はっきりとした答えはないのだろうけれど、こうしたらどうかというひとつの道しるべはあって。少なくとも彼らのような考え方にたどり着いたら、世界から争いはなくなるんじゃないか。そんな希望の見える映画だった。

最後に、ラース・アイディンガーとアデル・エネルの演技力は言うまでもなく素晴らしい。彼らの過去作が未見であるのなら、まずは最近の作品──エネル主演の『午後8時の訪問者』(ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督)、アイディンガー出演の『パーソナル・ショッパー』『アクトレス 女たちの舞台』(オリビエ・アサイヤス監督)もおすすめだ。加えて、トトが預かることになるパグ犬のガンジーも名演だった。

(文・新谷里映)

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新谷里映

フリーライター、映画ライター、コラムニスト
新谷里映

情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。

【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 

映画『ブルーム・オブ・イエスタディ』
公開中

出演:ラース・アイディンガー、アデル・エネル、ヤン・ヨーゼフ・リーファース、ハンナー・ヘルツシュプルング
監督・脚本・プロデューサー:クリス・クラウス
撮影監督:ソニア・ロム
音楽:アネッテ・フォックス
美術:ジルク・ビューア
衣装:ジョイア・ラスペー
ドイツ=オーストリア/2016年/126分/原題:DIE BLUMEN VON GESTERN/ドイツ語・フランス語・英語/カラー/シネスコ/5.1ch/日本語字幕:吉川美奈子/R15+/
配給:キノフィルムズ・木下グループ

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